Tuesday, May 18, 2021

ホンダの“脱エンジン宣言”で浮き彫りになったのは日本の課題 - 日経ビジネスオンライン

misaltag.blogspot.com

 2021年4月にホンダ社長に就任した三部敏宏氏には、8年ほど前に一度会ったことがある。当時は本田技術研究所の常務執行役員だった三部氏に、ホンダの技術戦略についてインタビューするという企画だった。まったく“個人の感想”ではあるが、筆者がまだ駆け出しの記者だった30年くらい前は、ホンダのエンジニア、特にベテランのエンジニアは、取材先としてちょっと“おっかない”存在だった。武骨で、頑固で、下手なことを質問すると「お前こんなことも知らないのか」と呆(あき)れた顔をされてしまい、針のムシロに座っているような気分にさせられる。そんな人が多かった。

2021年4月にホンダ社長に就任した三部敏宏氏の会見の様子(写真:ホンダ)

 しかしそれでも食い下がって話を聞いていると「しようがねえなあ」という感じで、懇切丁寧に教えてくれる。無愛想に見えるのだが、面倒見はいいのだ。筆者はホンダ創業者の本田宗一郎氏に直接会ったことはないのだが、宗一郎氏というのはこういう感じだったんじゃないか。勝手にそんな想像を巡らしていた。

 そういう感じが明らかに変わってきたのが、先々代社長の伊東孝紳氏が本田技術研究所の社長に就任した18年ほど前からだ。田中角栄元首相には「コンピューター付きブルドーザー」という異名があったそうだが、技術研究所の社長時代に伊東氏にインタビューしたときの印象はまさにそれだった。びっくりするくらい回転の速い頭脳と、ブルドーザーのような馬力を兼ね備え、どんな角度から質問しても、すらすらと的確な答えが返ってくる。それまで筆者が取材していた“おっかないオッサン(失礼お許しください)”たちとは一線を画する、スマートでクレバーな新しい時代を感じさせるエンジニアだった。

 それ以降、ホンダの取材相手はどんどんスマートでクレバーで洗練されたエンジニア、という印象に変わっていった。それはまさに、ホンダがまだ中小企業の面影を残す企業風土から、「世界のホンダ」へと脱皮していく過程だったのかもしれない。もはや取材時に緊張することはなくなった代わりに、一抹の寂しさを感じたのも事実だ。もっとも、筆者のイメージの中の“昔のホンダ気質”を残したエンジニアが絶滅してしまったわけではない。例えば現在ホンダのF1プロジェクトLPLを務める浅木泰昭氏は、数少ない“生き残り”だと勝手に思っている。

 ホンダ新社長の三部氏を8年前に取材したときにも、スマートでクレバーな“新時代のホンダエンジニア”という雰囲気を感じたのだが、難儀したのはなかなか“本音”を引き出せなかったことだ。いろいろな角度からホンダの研究開発戦略について尋ねたのだが、慎重な“模範解答”のようなコメントしか引き出せず、筆者の力量不足を感じた。

 その三部氏が、4月23日の社長就任会見で驚きの発表をした。国内の完成車メーカーで初めて「2040年にグローバルで電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の販売比率を100%にすることを目指す」と宣言したのだ。これまでに、プレミアムブランドではスウェーデン・ボルボや英ジャガー・ランドローバー(JLR)のジャガーブランドが2030年までにハイブリッド車(HEV)を含むエンジン車の販売をやめることを表明している。また量販メーカーとしては、米ゼネラル・モーターズ(GM)が世界で初めて、2035年までに同社のライトビークル(乗用車、小型トラック)からのCO2排出量をゼロにすることを目指すと発表した。しかし日本メーカーで完全に「脱エンジン」を宣言するのはホンダが初めてだ。筆者の中にはまだ “慎重な発言の三部氏”の面影が色濃く残っていたから、この会見の思い切りの良さには驚かされた。

ホンダは2040年にグローバルでEV、FCVの販売比率を100%にすることを目指すと発表した(資料:ホンダ)

2030年には先進国全体でEV、FCVを4割に

 今回の発表の根底にあるのは「2050年にホンダの関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指す」という目標だ。これは、日本政府が2020年10月の臨時国会で表明した「2050年カーボンニュートラル」を目指すという宣言に対する、ホンダからの回答ともいえる。

 「2040年に脱エンジンを実現する」という目標の根拠もシンプルだ。クルマが10年程度使われる商品であることを考えれば、2050年に全ての製品のカーボンニュートラルを実現するためには、2040年ごろには脱エンジンを実現することが必要だろう、というものである。この目標を実現するために、「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%」を目指す。

 地域別の目標も掲げており、ホンダにとって最重要市場である北米ではEV、FCVの販売比率を「2030年に40%、2035年に80%、2040年に100%」とすることを目指す。北米での目標達成において重視しているのがGMとのアライアンスだ。GMがEV向けに韓国LG化学と共同開発したバッテリー「アルティウム」を採用した大型EV2車種をGMと共同開発し、ホンダブランドと「Acura」ブランドの2024年モデルとして発売することを予定している。その後、ホンダ独自開発の新しいEVプラットフォーム「e:アーキテクチャー」を採用したモデルを2020年代後半から順次投入し、その後、他の地域にも展開する予定だ。

ホンダはGMが韓国LG電子と共同開発したEV用バッテリー「アルティウム」を採用した大型EV2車種をGMと共同開発する。写真はGMが開発したアルティウムを搭載するEV用プラットフォームで、ホンダもこのプラットフォームを使うことになるとみられる(写真:GM)

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1544文字 / 全文5358文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( ホンダの“脱エンジン宣言”で浮き彫りになったのは日本の課題 - 日経ビジネスオンライン )
https://ift.tt/3otcAbM
Share:

0 Comments:

Post a Comment