Monday, July 26, 2021

EUが2035年に全面禁止検討 エンジンは本当に消滅するのか - ITmedia

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 7月中旬、EUの欧州委員会は2035年にEU圏内でのエンジン車販売を禁止する方針を打ち出した。これはバッテリーの電力で走れるプラグインハイブリッドは除外される可能性はあるものの、マイルドハイブリッドやフルハイブリッドも禁止される見込みだ。つまり、現時点ではバッテリーEVとFCVしか認められない、という方向で検討されている。

 これが可決されれば自動車メーカー、特に日本の自動車メーカーにとって、非常に厳しい対応を迫られることは明白だ。

ポルシェは高性能EVスポーツ「タイカン」をデビューさせたが、その一方でeフューエルによるエンジンの存続にも力を入れている。35年のエンジン車販売禁止が可決されれば、方針転換をするのだろうか(メーカー提供)

 EV推進派の論理は、「クルマは電力を使うモデルに集中させて、後は電力をどう供給するかに専念すれば、環境対策は効率的に進む」というシンプルなものだ。中国はEVを主流にすることで日系メーカーの優位性を崩し、さらには輸出によって国際自動車市場でのシェアを獲得しようと目論んでいるから、欧州の電動化政策の強化は歓迎していることだろう。

 そう、EUがその圏内において課する規制は、必ずしも自らの圏内経済保護とは限らない。EUには圏内の自動車メーカーにも厳しい規制を強いる厳格さがある。そして欧州自動車メーカーの中には、今回の規制強化を喜んでいないところもある。

 それだけにEUは一枚岩ではないことを念頭に置いておくべきだろう。このまま法案がすんなり通るとは限らない。環境対策に頑なな強硬派もいれば、コストや地域の環境に応じて柔軟に導入すべきと考える現実派、気候変動は別の原因だと主張する懐疑派も存在する。これから数年は、どのような議論を経て最終的な目標設定や罰則が設けられるか、注目されるものとなりそうだ。

 そこでEUの35年規制によって、自動車メーカーの勢力図や販売されるクルマはどう変わっていくのか、悲観的シナリオと楽観的シナリオも含めて、その行く末を占ってみたい。

欧州自動車メーカー、中国、そして日本の思惑

 ハイブリッド車を排除したいドイツメーカーにとって、今回のEUの方針には同調できる部分もあるだろう。メルセデス・ベンツは30年までに全車をEV化すると発表しており、これが実現すれば35年規制の影響は受けないことになる。現時点で企業別燃費規制であるCAFE規制の罰金が多額に上ると思われるだけに、電動化が急務であることも背景にあるだろう。

 フォルクスワーゲンにとっても、CAFE規制による罰金は利益を消し飛ばしてしまうほどのものだ。だが、アウディやポルシェ(実質的には同一グループだが)は、富裕層向けにeフューエルの販売を行うことを考えているから、エンジンが使えなくなることでこうした計画は見直さなければならなくなるかもしれない。

 芸術的なまでに排気音にこだわるマセラティや、官能的なエンジンフィールを誇るフェラーリなどイタリアのメーカーは、動力がモーターだけになることに全面的に賛成しているわけではないだろう。もっともマセラティが属するFCAとフランスのPSAグループと合併し、ストランティスとして30年までに7割をEVとプラグインハイブリッド車にシフトさせると発表したばかりだった。今回のEUの法案によってさらに電動化を進めるのは間違いだろう。

 単にバッテリーEVを強制すれば、前述のように中国製の安いEVが市場を席巻しかねない。それは日本の自動車メーカーにとって脅威であるだけでなく、欧州メーカーにとっても避けたい事態であるはずだ。

 もっともエンジン車が販売禁止となったからといって、バッテリーEVしか販売できないようになると思うのは早計だ。50キロから100キロ程度のバッテリーによる巡航距離を確保したプラグインハイブリッドであれば、実質的にはほぼバッテリーEVということから販売が認められる可能性は高く、加盟国や欧州議会での議論でも検討されることになりそうだ。これはエンジン擁護派にとっては明るい要素ではないだろうか。

 つまりハイブリッド車のバッテリー容量を増やし充電機能を追加すればプラグインハイブリッドに進化できるから、ハイブリッド車を全車プラグイン化すれば規制をクリアできる可能性もある。しかしこれらは楽観的な見方だ。

 これにはネガティブな要因もあるからだ。もしプラグインハイブリッドの販売が認められたとしても、ガソリンスタンドの拠点数は大幅に減少することは避けられないから、利便性の問題や輸送コストが単価に占める割合が増え、ユーザーがプラグインハイブリッドを選択しなくなる可能性もある。

 そうなると商品としてラインアップすることはできても販売は伸び悩み、自動車メーカーの業績を圧迫するだけになってしまうから、実際はバッテリーEVに収束されてしまうことになる。これは悲観的シナリオだ。

 だがエンジンを諦めれば、バッテリーの争奪戦はますます激化して、国内で材料の調達ができない日本の自動車メーカーやバッテリーメーカーのリスクが高まることにつながる。海外生産比率を高めることになれば、国内の雇用は減少し、人手不足を下回ることで経済が破綻へと向かうことになってしまう。

 楽観的シナリオとしては、リチウムに代わる電池材料の実用化だ。ナトリウムイオンバッテリーは、リチウムほどの性能を引き出すことは難しいと考えられてきたが、近年性能の改善が著しい。ナトリウムは海水に含まれるため、日本でも水素と並んで無尽蔵に存在する。

純水素燃料電池の普及と水素エンジンの未来

 水素といえば、空気中の酸素と反応させて電気を作る燃料電池も、脱炭素社会には欠かせないキーデバイスだ。

 35年頃、再生可能エネルギーで純水素が生成できるようになれば、クルマ以外でも燃料電池を使う領域が増えることになる。FCVはEVに含まれるものであり、メルセデス・ベンツも現在は乗用車分野では撤退したものの、商用車での普及を経て、再び乗用車にもFCVを投入する日が来ることだろう。

 トヨタが開発を公開した水素エンジンも、もう1つの水素利用の方法として選択肢にはある。しかしこれはエンジン車の販売禁止から水素エンジンが除外されて初めて、使える手段だ。

 水素エンジンには、燃料電池と違って純度の低い水素でも利用できるというメリットはあるが、製鉄工場の副生水素など低純度の水素が発生している場所で使う発電用水素エンジンはともかく、低純度の水素を独立したルートで供給するのは意味がないから、これは実際にはメリットには成り得ない。

 熱エネルギーの小さい水素を熱効率の低いエンジンで消費することは、水素の無駄遣いではないか、という考え方もある。合成燃料のeフューエルより直接的で低コストではあるが、エネルギーロスは確かに小さくない。

 そういった意味ではエンジンを使うのであれば、微細藻類を培養して得られた油から精製したバイオ燃料の方が現実的ではないだろうか。

燃料電池の変換効率は、現在60%弱といわれている。さらにインバーターの変換効率とモーターの駆動損失を考えると50%弱になるから、水素エンジンの熱効率が50%近く(発電用ではすでに成功済みだ)にまで高められれば、実用化の可能性も見えてくる(写真は新型MIRAI、メーカー提供)

マツダはどうする? エンジンを捨てるホンダはさらに加速か

 トヨタは全方位で開発を行っているから、電動化計画の詳細が変更になっても対応はできるだろう。ではトヨタ以外の日本メーカーはどうか? ホンダは40年に100%EV化することを三部敏宏社長が明言している。それを35年に前倒しすることについても対応できると答えている。

 新興国ではエンジン需要が残るだろうから、すべてをEVにしなくても実際には問題ないだろうし、ホンダが本気になれば、それは実現できるのでは、という気さえしてくる。しかも三部社長もホンダの名作エンジンを手掛けたエンジニアであり、そんな人物がエンジンをスッパリ諦めてEV一本で挑むとなれば、それは相当な覚悟なのだということが伝わってくる(もっともホンダもFCVやeフューエルの可能性も諦めていないようだが)。

 マツダは30年にEVの比率を25%にして、電動化率は100%という目標を中期技術計画で明らかにしている。EUの35年規制が決定事項となれば、このあたりも変更を余儀なくされるかもしれない。それでも同社はすでにトヨタグループに属しており、トヨタMIRAIのFCスタックや高圧タンクなどの供給を受けてFCVを投入することも可能だろうし、バッテリーの供給もパナソニックとトヨタの太いパイプが頼りになりそうだ。

 ただし自動車メーカーにとっては、この35年問題は喫緊の課題ではないのかもしれない。というのも、今課せられている21年規制をどう乗り越えるかで精一杯のところがほとんどであり、35年のことなど本腰を入れて考えられる余裕などない、という自動車メーカーは少なくないからだ。

 それでもEUとしては、これからの行く末を考えれば、環境規制を強化するしか策はない。ただし炭素排出量の少ない途上国に対しても、先進国と同じ規制を強いるのは、やや行き過ぎの感もある。再生可能エネルギーによるグリーン電力の普及が進まなければ、エンジン車の販売禁止が環境対策につながらない可能性もあるからだ。

 現在の排ガス規制もあまりにも厳し過ぎるため、クリアできるメーカーはトヨタとテスラ以外存在しない状況となっており、罰金の減額を検討しているという情報もある。テスラのイーロン・マスクCEOはこれに対して断固反対しているようだが、炭素クレジット権がテスラにとって大きな収益源である以上、これは当然の行動だろう。

 ということは、35年のエンジン車販売禁止という規制も、将来的には見直される可能性もある。そのためには水素エンジンやバイオ燃料といった、エンジンでのカーボンニュートラルを実現して普及させる必要がある。バイオ燃料を用いたハイブリッドであれば、EVと比べてもLCA(ライフサイクル全体での評価)で低炭素とすることは十分に可能なのだ。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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