Tuesday, May 4, 2021

なぜトヨタはV8エンジン搭載車を残すのか? - GQ JAPAN

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はじまりはクラウンエイト

トヨタが日本初の乗用車用V型8気筒エンジンを市場に投入したのは1964年のことで、2代目「クラウン」(RS40型)をベースに開発された「クラウンエイト」に搭載された。エンジン名称は「V」で、排気量は2.6リッターだった。

1967年には専用のプラットフォームを持つセンチュリーにV型の発展形である3V型(2Vを飛ばしたのは「鈍い」に通じるからだとか)、3.0リッターV8自然吸気エンジンが搭載された。V8エンジンは、高級車、それもショーファードリブンカーに搭載するために開発されたのだった。上質な乗り味とステイタスを保証するためである。

1964年登場のクラウンエイト。当時のトヨタの最上級モデルだった。

トヨタの第2世代V8エンジンとなるUZ系は1989年、初代レクサス「LS」(日本名トヨタ「セルシオ」)とともに登場した。高級車向けであることに変わりはなかったが、後席に座る人のためよりも、自らステアリング・ホイールを握る人のために開発された。いわゆる、“高級パーソナルカー”向けである。

レクサスLS(セルシオ)が積んだ1UZ-FE型4.0リッターV8自然吸気エンジンは、静粛性の高さと低振動にこだわって開発された。テレビCMでは、シャンペンをなみなみと注いだグラスをボンネットフードの上に積み重ねてエンジンを始動。1滴もこぼれ落ちない様子を伝えてV8エンジンの低振動ぶりをアピールした。

1989年登場の初代レクサスLSは、レクサス・ブランドの開業にあわせて開発された。

その後、トヨタは排気量を4.6リッターに引き上げた2UZ-FE型を仕立て、「タンドラ」や「セコイア」といった北米向けのピックアップトラックや、フルサイズSUVの「ランドクルーザー」に搭載した。

第3世代となるUR系のV8は21世紀に入ってデビュー。2006年のことで、4代目に移行したレクサスLSとともに登場した。UR系はLSのようなプレミアムサルーンに加えてピックアップトラックやSUV、スポーツセダンにも搭載することを前提に、企画段階から4.6リッターと5.0リッター、そして5.7リッターの排気量を設定し、燃焼設計や生産設備の共用を意識して設計された。

4.6リッターの1UR系はレクサスLSや「ランドクルーザー」、「タンドラ」、5.0リッターの2UR系はレクサス「IS-F」や「LS600h」、5.7リッターの3UR系はレクサス「LX570」や「セコイア」などに設定された。

V8エンジン搭載の現行ランドクルーザー(200系)。

レクサスの最上級クロカン「LX570」もV8エンジンを搭載する。

初代LX450。

V6ではなくV8でなければならないわけ

2021年の段階でも、4.6リッター、5.0リッター、5.7リッターのV8エンジンは健在だ。ただしV8は、もはやトヨタ/レクサスの最上級サルーンの主力機ではなくなっている。エンジンをダウンサイジングするのが世界的な流れであるからだ。ロマンを切り捨て、効率やコストの観点で最適なエンジンの諸元を絞り込んでいくと、排気量が大きく、サイズも大きくて重たいV8は生き残りづらくなる。

たとえば2017年に登場した5代目レクサスLSは、V8のかわりに3.5リッターV6エンジンを積む。そして、5.0リッターV12(1GZ-FNE型)を積んでいたセンチュリーは2018年に21年ぶりのモデルチェンジを実施した際、5.0リッターV8(2UR-FSE型)にダウンサイズした。

現行センチュリーは、5.0リッターV8(2UR-FSE型)にモーターを組み合わせたハイブリッド・システムを搭載する。

先代センチュリーはV12NAエンジンを搭載。

一方で、2017年に登場したレクサスの新顔、ラグジュアリー2ドアクーペの「LC」は5.0リッターV8エンジンを搭載した仕様を設定している。センチュリーとおなじ5.0リッターV8であるものの2UR-FSE型ではなく2UR-GSE型で、ハイパフォーマンスエンジンの位置づけである。

2UR-GSE型は2UR-FSE型に対して吸排気のバルブリフト量が高められ、排気側には軽量なチタン合金バルブを採用する。高回転化に対応するためだ。このエンジンは組み立て後に1基ずつクランクシャフトを回転させてバランス量を計測したあと、クランクプーリーにウエイトを組み込んで回転バランスを修正している。まわしたときのドライバーとの対話を意識した取り組みだ。

レクサスLCが搭載する2UR-GSE型ユニットは最高出力477ps/7100rpm、最大トルク540Nm/4800rpmを発生する。5.0リッターの排気量はおなじなのに、センチュリーが積む2UR-FSE型に比べて96psも大きな最高出力を発生するのだ。実際に運転してみると、力強いだけでなく官能的である。

LC500のボディは全長×全幅×全高:4770×1920×1345mm。

© Hiromitsu Yasui

LC500が搭載するエンジンは4968ccV型8気筒DOHC(477ps/7100rpm、540Nm/4800rpm)。

© Hiromitsu Yasui

デザインや空気抵抗に影響を与えることなく操縦安定性を確保するため、ドアガラス前方にエアロスタビライジングフィンを装着。小さなフィンが作り出す空気の渦がボディ側面の空気の剥離を抑え、空気抵抗の低減とすぐれた車両安定性の確保を両立したという。

© Hiromitsu Yasui

出力の目標を達成するだけならターボ過給を選択すればいい。5代目のレクサスLSが4.6リッターV8自然吸気を捨てて3.5リッターV6ツインターボを選択したように、過給ダウンサイジングに走れば済む話だ。

しかし、回転の滑らかさは自然吸気エンジンに敵わないし、大排気量エンジン特有の応答性の高さと力強さを両立させようとした場合、V6では単気筒あたりの容積が大きくなりすぎるので荷が重く、V8が最適解になる。

効率を至上とするならV8が生き残る余地はない。だが、クルマは趣味の対象であり、人生のパートナーでもある。V8自然吸気にはロジックでは説明しきれない魅力がある。その価値は、過給ダウンサイジングがスタンダードな世の中になっても変わらない。

トヨタは自動運転技術を開発するにあたっても「人とクルマが双方をパートナーとして尊重し合い、運転を楽しみ……」と、説明している。きっと、エンジンに対する考え方もおなじなのだろう。V8の価値をきちんと認めているのだ。

だから、これからも生き残っていくはずだ(なくさないように頑張っている人がいるに違いない)。

文・世良耕太

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