直列4気筒にしたMotoGPマシンと言っても過言ではない超絶エンジン
CBRシリーズのフラッグシップである1000ccスーパースポーツ、CBR1000RRの最新型は、さらに「R」の文字がひとつ増え車名が「RR-R」となる(海外向けに使われてきたFIREBLADEのペットネームも各国共通の正式名称になり、車名はCBR1000RR-R FIREBLADEである。当記事では以下ファイヤーブレード)。それは何を意味しているのか。
そもそも歴史的に見て「R」の文字を新たに使う時のホンダは、大上段から、暑苦しいほど気合いたっぷりで、えげつないほどに、時に無謀かと思われるくらい、その技術をぶち上げて来るものである。そして、このファイヤーブレードも例外ではない。
それどころか、2015年に発表されたRC213V-Sという極めて特殊な市販車を除けば、久しぶりにファクトリーレーサー直系の技術をそのまま用いた「本物のレプリカ」と言っても良いモデルなのだ。
このエンジンがまさにそれだ。
分かりやすく言うとファイヤーブレードのエンジンは、RC213VのV型4気筒を直列4気筒のレイアウトに並べ替えたものだ。いわゆるレシプロ系(往復部分)の基本的なディメンションをRC213Vから転用している──もう少し正確に言えば、バルブ作動の制御を圧搾空気のニュウマチックからスプリングにしたRC213V-Sとほぼ同じレシプロ系を使っているのだ。
したがって、ボアストロークが同じなのは当然だ。他の報道では「RC213Vとボアストロークが同じ(だからすごい)」というような論調も見受けられるが、その本質は逆ではないだろうか。ホンダで最強のエンジンを作ろうと思ったら、2012年から2019年の8年間で6度のMotoGPチャンピオンを獲得したRC213Vにしか原資になり得ないのだ。
そもそも81mm×48.5mmというボアストローク寸法も、「最大ボアは81mmまで」というMotoGPのレギュレーションに合致させた最大サイズに過ぎないのである。ただし大きければいいというものではなく、市販車の直列4気筒エンジンとして最大級のボア径となるため、それを横一列に4つ並べるレイアウトでは、エンジンサイズのコンパクト化に苦労したと開発陣は言う。
このボアストローク比0.59という極度にショートストロークなデョメンションは、高回転・高出力化の基本であるものの、ボアが広ければ(高圧縮比下での)火焔伝播など効率的な燃焼を実現するには相応の工夫が必要であり、このファイヤーブレードでも吸気系~燃焼室にかけての形状等も高レベルなものだ。
吸気~排気まで一連の気体の流れをコントロールする事は、高効率エンジンでは特に重要であり、このあたりにもRC213Vによる活動で得たノウハウが存在する。
ちなみにピストンスピードは最高出力発生回転数1万4500回転で23.44m/sになる。この数値自体は現代のエンジン技術において、そこまで厳しいものではないものの、一般的にはおおよそ25m/sあたりで潤滑が追いつかなくなると言うから、レース使用や耐久性の保証を考えて最初の設計段階から潤滑性は担保されている。
したがって、ディメンションだけではなく、使用する材料や表面処理、加工なども、ほぼファクトリーマシンのそれであり、コストがかかった仕様となっている。例を挙げればコンロッド小端部のベアリングは加工時などに扱いの面倒なベリリウム銅を使い、カムシャフトにはDLCコーティングを施し、クランクケースには追加工でオイルラインを設けているなどだ。
これらが意味するところは、ファイヤーブレードの直列4気筒エンジンはホンダにおける最新・最強のエンジンであると言う事であり、至高のレーシングパフォーマンスを狙っているのは明らかである。最高出力は市販直4では最高の約218馬力だ。これはもう、ホンダが120%の本気で作ったエンジンであり、久しぶりにホンダの放った「ド直球・火の玉ストレート」である。
ファイヤーブレードはこのエンジンパフォーマンスを持って2020年のスーパーバイク世界選手権(世界最高峰の市販車ベースマシンを用いるレース)の制覇と、鈴鹿8時間における2014年以来の優勝を目指すと同時に、スーパースポーツとしての新しい感動、つまりファクトリーマシン直系のテクノロジーと走りの世界をユーザーに提供してくれる事になるだろう。
(レポート●関谷守正 写真●山内潤也/ホンダ 編集●上野茂岐)
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December 17, 2019 at 02:32PM
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