Thursday, December 26, 2019

エンジンが凄い&凄い! CBR1000RR-Rの心臓部、その中身に迫る。 - MotorFan[モーターファン]

  • 2019/12/26
  • MotorFan編集部
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フルモデルチェンジを果たしたホンダのスーパースポーツモデル、CBR1000RR-R。エンジン、車体ともに新設計となったが、エンジンは排気量、そして形式ともに前モデルのCBR1000RRと同じだが、その中身は驚くべき進化を遂げていた。その今回は開発者の2人のインタビューも合わせ、その全貌に迫る。

REPORT●山下博央(YAMASHITA Hirohisa)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)/株式会社ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP/CBR1000RR-R FIREBLADE

RR-Rの開発に携わった本田技術工業株式会社、二輪事業部ものづくりセンターの石川譲さん(完成車開発部 完成車統括課、写真右)と、出口寿明(パワーユニット開発部 動力研究課、写真左)

サーキットで優位に立つエンジンスペック

 12月中旬、鈴鹿サーキットで行われた新型CBR1000RR-R(以下RR-R)の記者発表会にはRR-Rの開発に携わった本田技術工業株式会社、二輪事業部ものづくりセンターの石川譲さん(完成車開発部 完成車統括課 課長)と、出口寿明(パワーユニット開発部 動力研究課 技術主任)の2人が来場。そこで、新型RR-Rについて質問をぶつけてみた。今回はその中でも特にエンジンに関する点の話を聞いた部分を紹介していこう。

筆者:RR-RはEICMA2019で発表された様子からも、今までのCBR1000RRとは開発コンセプトが変わったようにも思われますが。

石川譲さん(以下石川さん):1992年にCBR900RRが登場した時からCBR1000RRまで継承されてきたコンセプト“Total Control”は、ストリートやワインディングでの操る楽しみを感じていただきたいというコンセプトでした。新型RR-Rではコンセプト自体は変えていませんが、走る場所の主眼をストリートからトラック、サーキットに変えています。そのため、RR-Rは“Total Control”for the Trackというコンセプトとし、車名にもコンセプトの違いが分かるように「R」を一つ、付け加えたのです。

筆者:この「for the Track」が付いたことで、RR-Rのエンジンはどのように変わったのでしょうか。

石川さん:レースユースを含め、エンジンは高出力、高回転型のエンジンを開発することになりました。そこで出力目標値160kW(217.5PS)から最高出力発生回転数を14,500rpmに設定しています。これを実現するため、RC213V-Sと同じボアØ81mm×ストローク48.5mmの諸元としました。

これは前モデルのCBR1000RRとの出力特性比較図で、赤がRR-Rとなる。低中速域ではCBR1000RRが上回るが、ピークパワーはRR-Rが大きく上回っているのが分かる。最高出力発生回転数も上がっており、高出力、高回転型のエンジンとなっているのだ。

筆者:前モデルのCBR1000RRのボア76.0mm×ストローク55.1mmと比べるとかなり大きく変わっていますが、エンジン開発では苦労した点もあったのではないですか。

出口寿明さん(以下出口さん):一番苦労した点は、ボア×ストロークをRC213V-Sと同じ81mm×45.5mmとしていますが、RC213V-SはV型4気筒エンジンなのに対し、RR-Rは直列4気筒エンジンとなり、RC213V-Sよりもカムシャフトの軸が長くなります。RC213V-Sは2気筒分の長さですが、RR-Rは4気筒分の長さとなり、カムシャフトの剛性のバランスの取り方が難しくなりました。
RR-RのシリンダーヘッドまわりはMotoGPマシンのテクノロジーを投入して目標馬力を達成しています。ただ、馬力が出せてもそれをうまく後輪に伝えられないといけません。カムシャフトもそうですが、クランクシャフトも長くなりますので、この出力でクランクケースを含めた剛性のバランスが難しかったですね。

RR-Rのピストンは高回転化に対する耐久信頼性確保のため、RC213V-Sと同じ材質で作られた高強度アルミ鍛造ピストンで、スカート部に耐摩耗性を持たせるためにコーティングを施している。
高回転化のため、コンロッドには軽量なナットレスチタンコンロッドが採用されている。またコンロッド周辺の部品も高回転化に対応する素材が用いられていたり、コーティングが施されたりしているのだ。
RR-Rではバルブ駆動方式にフィンガーフォロワー式のロッカーアームが採用された。これも高回転化に対応するためのものだ。
ロッカーアームを動かすカムシャフトはDLC(Diamond-Like Carbon)コーティングが施され、摺動部の摩耗抵抗が軽減されている。

筆者:ホンダが新型スーパースポーツを出すという噂が出ると、V型4気筒で出すか、直列4気筒で出すか、と話題になりますよね。RR-RではMotoGPマシンや市販車のRC213V-Sのテクノロジーが使われていますが、それならV型4気筒で出しても良かったのでは。

石川さん:エンジンのパッケージングとしては今回のビッグボア、ショートストロークの高出力はV型4気筒の方がケース剛性、クランク剛性ともに確保しやすく、コンパクトで軽量化もしやすい点でもV型4気筒が向いています。でも、エンジン搭載位置の自由度があるという点では、実はエンジンの前後長が短い直列4気筒の方が法規的な制約もある量産車ではいいのです。V型4気筒エンジンは後方シリンダーやエキパイの取り回しなどがあり、実は車体への搭載の自由度が無いのです。その点でいえば今回、エンジンの剛性についても直列4気筒エンジンで最適化できました。

RR-Rのエンジン外観。カットモデルなので少々分かりづらいが、エンジン前後長がかなり短く、ショートストロークでシリンダーも短い。さらにシリンダーヘッドもコンパクトになっている。
カウルを外した状態が一番分かりやすいが、この状態でもエンジンの搭載位置がかなり高いことが分かる。エンジンクランク搭載位置はCBR1000RRに対しても後方、そして上に上がっている。

筆者: かなりのハイパワーエンジンになっているようですが、一般ライダーが乗っても大丈夫ですか。

石川さん:トラック、サーキットでの優位性を追い求めていますのでストリートユースでは犠牲になっている部分もあります。例えばエアダクトの容量を確保するためにハンドルの切れ角が少ないとか、エンジンでいえば発進の時に低回転域では力が無いように思われるかもしれません。快適性は犠牲になっていると思います。でも、それらは一般のライダーが乗れないとか、危険というレベルのものではありません。
RR-Rの一番のポイントはパワーです。それはサーキットでないと発揮できないですが、乗っていただければRR-Rパフォーマンスの高さは感じでもらえるはずです。直列4気筒エンジンですので、高回転域でのパワーの立ち上がりはきっと楽しんでいただけると思います。

RR-Rのエンジンの魅力は他にもある!? 

 今回はかなり限られたインタビュー時間だったため多くは聞けなかったが、このほかにもRR-Rのエンジンには注目すべきポイントがある。まず、カムの駆動機構は軽量化を目的にカムチェーン式をベースとしながら、高回転化を図るためにセミカムギアトレインシステムを採用している。これはクランクシャフトに同軸配置したタイミングギアからカムアイドルギアを介してカムチェーンを駆動することで、カムチェーン長の短縮を実現。カムチェーンの耐久性を確保しながら高回転化と高カムリフトを達成している。
 RR-Rの吸排気ポートは楕円形状となっているが、これは2個のIN側、OUT側それぞれのバルブからのポート形状を楕円形状にすることでスムーズな吸排気を実現するためのもの。吸気側はスロットルボディを外さないと分からないが、排気側はエキゾーストパイプの口元が楕円形状になっているのが分かる。なお、エキゾーストパイプを含むマフラー本体はアクラポヴィッチと共同開発したものとなり、サイレンサー手前には排気バルブが設けられている。
 このほかにもHonda独自の冷却方式となるビルトインボトムバイパス方式や、エンジン始動を従来のクランクシャフト駆動からクラッチメインシャフトを駆動する方式を採用するなど、新たな技術も投入されている。RR-Rのエンジンは、今までのCBR1000RRとは全く異なるハイパワーエンジンとなっているのは間違いなく、そしてそれはライバル車を凌駕するものであるようだ。

排気ポートは楕円形状となっており、これは1気筒に2つある排気バルブからスムーズな排気を促すのに最適な形状でもあるのだ。
RR-Rは高回転化を図るために新たにセミカムギアトレインシステムを採用している。なお、スロットルボディはゴム製のマニホールドを介さず、シールでエンジン本体とつなげ吸気効率の向上を果たしている。

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