Friday, February 14, 2020

提案力とエンジニアリング能力の劣化が止まらない、やはりSIerは死滅する - 日経xTECH

全4809文字

 ある大手企業のCIO(最高情報責任者)から話を聞いていると、この人が不思議なことを言い出した。「最近のITベンダーは得意分野に特化して分業が進んでいるから、どのITベンダーも全体最適の観点から提案できなくなってきているよね」。うーん、どういう意味だ。

 確かに最近では、日本のITベンダーが客に対して全体最適の観点から業務改革も含めたシステム刷新を提案した、なんて話をほとんど聞かない。そんな提案をするのはもっぱら、外資系コンサルティング会社やERP(統合基幹業務システム)ベンダーのコンサルタントの仕事だ。当然「日本のITベンダーは昔からまともな提案をしたことなど無いぞ」とのつっこみが入ると思うが、CIOの発言の後半、「全体最適の観点から提案できなくなってきている」は理解できる。

 問題は前半部分だ。「ITベンダーは得意分野に特化して分業が進んだ」とはどういう意味だ。大規模案件ならSIerを頂点にした多重下請け構造によってシステムを開発するから、下請けのITベンダー各社はある意味で専門領域に特化する。だがCIOが言っているのは、そのことではないはずだ。

 客側から見えるITベンダーは元請けのSIerだけだ。SIerはシステム全体を設計するわけだから、得意分野に特化するわけにはいかないはずなのに、どうしてそんな認識になるのだろうか。うーん、分からない。なのでCIOにその意味を説明してもらおうと思ったが、残念ながら時間切れで詳しく聞けなかった。

 これは極めて心がもやもやする状況である。理解できないままだと気色が悪いので、自分でその意味を考えてみることにした。そうすると「何だ、そういうことか」とすぐに合点がいった。私はうかつにも、一からシステムを作るスクラッチ開発を思い浮かべてしまったので、そのCIOが言う意味を理解できなかったのだ。最近の案件はERPやクラウドなどを活用するに決まっているじゃないか。

 確かにERPなどを活用する今どきの基幹系刷新では、SIerによる全体設計、エンジニアリングなど「あって無きがごとし」だ。だから、後で説明するが「得意分野に特化して分業が進んだ」との認識も十分に納得できる。言うならばSIerの提案力やエンジニアリング能力がどんどん劣化しつつあるのだ。そもそも昨今のSIerは本来のシステムインテグレーターとは似ても似つかない存在になり果てようとしている。

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