工芸品のような細部は現代では再現不可能
郊外や地方都市に住まうのであれば話は別だ。しかし東京あるいはそれに準ずる都市に住まう者にとって、「実用」を主たる目的にクルマを所有する意味はさほどない。
そんな状況下で「それでもあえて自家用車を所有する」というのであれば、何らかのアート作品を購入するのに近いスピリットで臨むべきだろう。
すなわち明確な実益だけをそこに求めるのではなく、「己の精神に何らかの良き影響を与える」という薄ぼんやりとした、しかし大変重要な便益こそを主眼に、都会人の自家用車選びはなされるべきなのだ。
そう考えた場合におすすめしたい選択肢のひとつが、現代のクルマでは絶対に醸し出せない、「諸君。これが真のラクシュリーというものなのですよ」とでも言いたげなオーラをその全身から放つ往年の英国製サルーン、デイムラー ダブルシックスである。
クルマにさほど詳しくない人にとって「デイムラー」というのは聞き慣れないブランドかもしれない。これは要するに英国のジャガーである。というか、デイムラーは1960年にジャガーが買収した英国王室御用達ブランドだ。ある時期のジャガー車の最上級モデルは、ジャガーではなく「デイムラー」という冠が付いた別ブランド扱いだったのだ。
で、今回推したいデイムラー ダブルシックスは、マニアは「シリーズⅢ」と呼ぶ1979年に発売されたジャガーXJ6の最上級バージョン。6気筒エンジンを基本とするXJ6の2倍に相当する5.3LのV型12気筒エンジンを搭載したことから「ダブルシックス」という車名になった。ちなみにこの車名は、デイムラーがまだ独立メーカーだった1926年に発売された同社の上級サルーン「ダブルシックス」から採っている。
ベースは同時代のジャガーXJ6だが、エンジンは前述のとおり6気筒ではなく「絹のようなタッチで回転する」と形容するほかない5.3LのV型12気筒SOHC。このエンジンは往年の名車「ジャガー Eタイプ」に搭載されていた12気筒の進化版である。
そしてフロントグリルは、往年のデイムラー車で特徴的だった職人の叩き出しによるフルーテッド(fluted=縦溝彫りの)グリル。これは古い時代にエンジンの冷却効果を高めるために採用されたデザインだが、その後はもちろん冷却効果のためではなく「デイムラーの象徴」たるデザインとして生き残った。
そしてインテリアは、ジャガーのXJ6でも十分に豪華といえば豪華なのだが、ダブルシックスはコノリー社(英国王室御用達だった高級皮革メーカー)の最上級レザー「オートラックス」をふんだんに使用。そしてウッドは、ロールスロイスにも使われる希少なバー・ウォールナット(burr walnut=くるみの木の根のコブをスライスした、ウォールナットの中でも最上級の部位)に象嵌細工(ぞうがんざいく)を施したものが装着されている。当然これも機械でできる類の加工ではないため、職人が手作業で象嵌を施したものだ。
そしてシフトノブなどのクローム部分の作りとデザインも非常に繊細かつ美しく、フロアにはウィルトンカーペット(表面のパイル糸以外に径糸2種類と緯糸1種類を交錯させ、丹念に織り込んだ織り絨毯。高級ホテルなどでしばしば使われる)が敷かれている。
……つまりシリーズⅢのデイムラー ダブルシックスとは、2020年の今となっては億円単位の超絶高級車以外には採用されていない「贅と技能の限りを尽くした手仕事」がぞんぶんに投入されていた、美しくも儚いラクシュリーサルーンだったのだ。
男なら故障や燃費を恐れるべからず
それに今、乗ろうじゃありませんか。古いですが、なにせそんじょそこらの比較的大量生産な現代的高級車なんぞよりよっぽど趣があり、よっぽど貴殿ならではのセンスと見識もアッピールできるクルマですから──というのが、今回の提案の主旨である。
だがそのような「贅の限りを尽くした往年の高級品」に対しては、当然ながら以下のごとき懸念および疑問もあるだろう。
「……そんなややこしくて古いクルマ、ガレージに飾っとくべきで普段使いするとなると、壊れて大変なんじゃないか?」と。
これはある意味そのとおりで、ただただクラシカルな趣だけに引かれて未整備の個体を妙な販売店で購入してしまうと、大変なことになるだろう。古いクルマゆえ、電気系を中心に次から次へとあちこちが要修理状態に、つまり走行不能な状態になってしまうことは想像に難くない。
だがさすがに「名車」とされているデイムラー ダブルシックスだけあって、蛇の道は蛇ではないが、これを得意とする(というか偏愛している)専門店が徹底的に各所を整備したうえで販売している個体もそこそこ多い。そういった個体は当然ながら決して安価ではないが、トヨタ カローラの新車並みに乱暴に扱わない限り、そうそうひんぱんに壊れるものではない。
また先ほど「整備済みの個体は決して安価ではない」と申し上げたが、とはいえランボルギーニ アヴェンタドールSのように4000万円以上となるわけでもなく、300万円台か、行ってもせいぜい400万円台である。決して安くはないが、その価値を考えれば「妥当」あるいは「意外と手頃」とすら言えるニュアンスなのだ。
ただ当然ながらエンジン排気量5.3Lゆえ自動車税の年額は8万8000円であり、実燃費も悪い。走り方によっても変わるが、まあ3〜6km/Lぐらいだと思っておけば当たらずといえども遠からずである。
自動車税はなんとかなるとして(……なりますよね?)、問題は燃費か。
仮に燃費が5km/Lだとすると(実際は、高速道路では7〜8km/Lぐらいまで伸びるはずだが)、たかが200kmを走るたびに40Lのハイオクガソリンが消費されることになる。昨今のハイオク相場が152円/Lほどなので、40Lというと約6000円か。
……まあ6000円ぐらい良いではないか。
もちろん「毎日のように6000円の燃料費がかかる」というのであればさすがに考えものだ。
しかし、クルマなんてどうせたまにしか乗らないのだ。6000円など、「素晴らしき陶酔世界」への入場料として時おり払う分には、てんで安いものじゃあないか。
文・伊達軍曹 編集・iconic
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February 29, 2020 at 07:30PM
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