スバルの人気を支え、数多くのスバリストを作り出したといっても過言ではないEJ20ターボエンジンが生産終了。そのEJ20ターボエンジンを、職人の手によって一から組み上げたバランスドエンジンを搭載して特別仕様とした「EJ20ファイナルエディション」を555台の限定車として発売したのは周知のとおり。
そこで、このWRX STIでニュル24時間も走ったことのある松田秀士が「お疲れ様、ありがとう!」と花を手向け、ついでに試乗した!!
※本稿は2020年3月のものです
文:松田秀士、永田恵一/写真:西尾タクト、SUBARU
初出:『ベストカー』 2020年4月10日号
【画像ギャラリー】スバルが誇る名機「EJ20ターボ」を搭載した歴代WRXを振り返る!
■EJ20ターボに感謝!! 松田秀士がインプレッション!
(REPORT/松田秀士)
スバルというメーカーがなぜ水平対向エンジンを選択したか。それはスバルのルーツが航空機メーカーにあることが大きく影響しているのをご存じだろうか? 走る、曲がる、止まるという運動性能こそクルマの原点であるという信念。そのためには左右対称で低重心で回転バランスに優れること。それが水平対向エンジンという結論なのだ。
では、さっそくファイナルエディションに試乗してみよう。試乗車はフルパッケージだったのでレカロのシートが装着されている。ステアリングはウルトラスエード巻きステアリングホイール。インパネには艶消しカーボン調が採用され、シフトノブとエンジンスタータースイッチのレッドの加飾がひと際目立つ。
注目なのはシートベルトやステッチがシルバーで統一されていることだ。まずレカロシート、ステアリング、シフトブーツ、リアシート、インパネセンターバイザー、あらゆるステッチがシルバーで統一されている。ガッチリとした剛性感のあるレカロシートは10ウェイの電動パワーシート。ステアリングのテレスコピック&チルトの調整量も充分にあるので100%理想的なドライビングポジションにセットできた。
スタータースイッチを押しエンジンを始動して走り出そう。アイドリングは心なしかおとなしい感じがするが、バランスが取れているからだろうか。少ししっかり感のあるクラッチペダルを踏み込みギアをローギアにセット。走り出しはとてもスムーズだ。
でもショートストロークエンジンのウィークポイントである極低回転域ではそれほどトルクはない。だから多人数乗車の時とひとりで乗る時とではクラッチミートの回転数を変える必要がある。その代わり8000rpmという高回転域でのパフォーマンスが感動を与えてくれるのだから。
2速3速とシフトアップするたびにしっかりとゲートが分かれたシフトの剛性感。今どこで何速に入っているかを左手がはっきりと教えてくれる。MTのシフトフィールはこうでなくちゃいけない。
サスペンションはしっかりと締まっている。ビルシュタインのダンパーは初期から減衰を立ち上げるので、BBS19インチ鍛造アルミに被せられた245サイズの35%扁平タイヤの荷重による潰れる様を如実に伝えてくる。
つまり、このファイナルエディション、ボディ本体もいっそう締まっているように感じる。ノリシロがなく遊びもなく、まるでカーボンフレームのフォーミュラーカーのようだ。だから高級スエードのステアリングワークで面白いようにコーナリングが楽しめる。リアのスタビリティもバツグンで、高速ではステアリングのセンターがビシッ! と落ち着いて自立直進する。
走り始めて感じるのはとてもスムーズな回転フィールだということ。このファイナルエディションのエンジンは特別にレーシングエンジン並みのバランス取りが行われている。いわゆるバランスドエンジンだ。
その内容はピストン&コンロッドは重量公差50%低減、クランクシャフトは回転バランス公差85%低減、フライホイール&クラッチカバーは回転バランス公差50%低減という内容で、回転マスを小さくする。高回転域を常用するレーシングエンジンはこの回転マスにこだわっている。摺動および回転部のバランス取りは基本中の基本なのだ。
バランスが狂ったタイヤホイールで高速を走行した時の振動を経験した人にはわかると思う。バランスの不均衡が不必要な歪みを起こすので、高回転域で振動が出るのとピストンとシリンダーの摺動部に余計なフリクションが発生してしまう。このようなチューニングは職人の手にかけるしかない。手間をかけられない量産エンジンで行えるはずがないのだ。
では、気持ちよくアクセルを床まで踏みつけてみる。このエンジンには低中速重視などという、スバリストの期待に反するような調律は行われていない。4000rpmを超えるあたりから明らかにブーストが上がり、ワープするようにWRX STIの車体に命が吹き込まれる。8000rpmのレッドゾーンまで一気に吹き上がる。しかも、そのトップエンドでのフィーリングがとてもスッキリして振動感がない。
通常EJ20は7000rpmから上のあと1000rpmの部分でこの回転域以上必要はあるのか? と瞬間的に考えてしまうほどのもったり感があったけれど、このファイナルエディションにそのような印象はない。ボクが感じたのはこのあと1000rpmだ。作り手の意図はすべてそこにあるといってもいいだろう。素晴らしい。これが本当のEJ20ターボ。このEJ20ターボエンジンの本当のキャラクターを吟味できるのはかぎられた555人だけだ。
■歴代WRXでのEJ20ターボの歩み
(TEXT/永田恵一)
WRX用EJ20ターボは、1992年の初代インプレッサWRX登場と同時に、初代レガシィRS用のインタークーラーを水冷から空冷にするなどの変更を受けてデビュー(240ps/31.0kgm)。
以降、1993年にAT用(220ps/28.5kgm)、カタログモデルではなかった1994年登場のWRX STi(250ps/31.5kgm)などを経て、1996年のD型のWRX STiバージョンIIIで2Lながらついに280ps/35.0kgmに到達。1998年のF型では標準のWRXも280ps/34.5kgmとなり、STiのコンプリートカーとなるS201では300ps/36.0kgmに。
2000年登場の2代目インプレッサWRX系での大きな改良は吸気側のAVCS(可変バルタイ)の採用で、スペックは標準のWRXで250ps/34.0kgm、STiが280ps/38.0kgmでスタート。
C型と呼ばれる2002年の涙目フェイスのモデルでは等長エキマニの採用やタービンの改良などにより最大トルクは39.0kgmに向上。また2代目からスペックCの名がつく競技ベース車はオイルクーラーやレスポンスに優れるボールベアリングターボを装着。
2007年登場の3代目での大きな変化は吸気側、排気側両方となるデュアルVACSの採用やSIドライブなどの電子化で、STIでは280ps規制撤廃もあり308ps/43.0kgmに向上。この後は2014年登場の現行型まで、ファイナルエディションを含め大きなスペックの変更はない。28年間でここまで成長したWRX用EJ20ターボは偉大だ!
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April 01, 2020 at 09:00AM
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