Wednesday, March 18, 2020

【実はエンジン以外も必要だった!!】ハイブリッドやEVの慣らし運転は必要? それとも不要?? | 自動車情報誌「ベストカー」 - ベストカーWeb

 現代のクルマには、慣らし運転は必要ないとよく言われているが、本当なのだろうか?

 さらに、モーターとエンジンの両方を使うハイブリッドやモーターのみを使うEVには、慣らし運転は必要なのだろうか? 

 そもそもエンジン車だから必要なのか? 発電用として使われるエンジンやモーターも慣らし運転を行わなければいけないのだろうか? 

 本企画では、ハイブリッドやEVなど最新車の慣らし運転はどうすればいいのか、自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/ベストカーWeb編集部

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現代のクルマに慣らし運転は必要か?

2020年2月に発売されたばかりの新型フィットには2モーターのe:HEVが搭載されている

 「現代のクルマのエンジン部品は非常に高い精度で作られていて、エンジンオイルも低粘度、すなわち油膜が薄いため、慣らし運転は必要ない」というのが慣らし不要派の代表的な意見だ。

 これに対し「新車は試運転程度の走行しかしていないし、昔よりエンジンや変速機は複雑で高度になっているので、初期の馴染みを丁寧にしてやった方が良い状態が長持ちする」というのが慣らし必要派の意見である。

 これは「どちらも間違ってはいない」というのを結論としたい。というのも昔と違い、工業製品は精密で高度になっただけでなく、それにまつわる情報も豊富で、様々な手段で情報が発信、伝達されている。

 メーカーが自社製品の仕上がりに自信があることをアピールするためには、慣らし運転は不要と謳うケースもあるだろう。

 その一方で、メンテナンスフリーではなくメンテナンスパックでユーザーの囲い込みをしているブランドは、クルマの扱い方もユーザーにティーチングすることで慣らし運転の重要性を説くこともある。

各自動車メーカーの慣らし運転に対する見解の違い

 以下、各自動車メーカーの公式ホームページなどで、慣らし運転が必要かというユーザーからの質問に対して、見解を見ることができる。

 トヨタ、ホンダ、三菱、スズキは「慣らし運転は必要ありません」と回答している。

 トヨタの見解は、「慣らし運転の必要はありません。ごく一般的な安全運転に心がけていただければ、各部品のなじみは自然と出てきます。お客様が新しいクルマに慣れるまでの期間を慣らし運転の期間と考えてください」。
※トヨタの慣らし運転に関する見解が掲載されているホームページ

 ホンダは、「現在のクルマは、エンジンやその他の部品精度が向上しているため、慣らし運転を行う必要はありません。ただし、機械の性能保持と寿命を延ばす為には以下の期間はエンジンや駆動系の保護の為に、急激なアクセル操作や急発進をできるだけ避けて下さい。
・取扱説明書に慣らし運転期間の記載がある場合→その期間
・取扱説明書に慣らし運転期間の記載が無い場合→1000km走行までを慣らし運転の期間。としている。
※ホンダの慣らし運転の見解が掲載されているホームページ

 日産は、「エンジン車には一般的には、エンジン本体や駆動系など、車の性能を十分に引き出すためには慣らし運転は必要です。走行距離1600km~2000kmまでは、適度な車速、エンジン回転数で運転してください」。
※日産の慣らし運転に関する見解が掲載されているホームページ

 一方、e-POWERに関しては、「VCM(車両制御モジュール)によって最適にエンジンをコントロールしていますので慣らし運転は必要ありません。ただし、安全や環境をいたわるためにも、急加速などの無理なアクセル操作を控えることをお奨めします」と回答している。
※e-POWERの慣らし運転に関する見解が掲載されている日産のホームページ

日産はガソリン車には慣らし運転が必要としているが、e-POWER搭載車には慣らし運転は必要ないとしている
セレナやノートのe-POWERはガソリンエンジンで発電機を稼動し、得られた電気でモーターを駆動して走るシリーズ方式のハイブリッド

 スバルは公式ホームページなどで慣らし運転に関する公式な見解はないが、スバル各車の取扱説明書には次の通り明記されている。「1000kmまでの距離を目安にエンジンの回転数は4000回転以下に抑えて運転してください」と明記している。

エンジンの有無だけでは決まらない慣らしの必要性

スイフトのマイルドハイブリッドシステム。発電効率に優れたISG(モーター機能付発電機)により、減速時のエネルギーを利用して発電し、アイドリングストップ車専用鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーに充電。加速時には、その電力を活かしてモーターでエンジンをアシストすることで、さらなる燃費の向上を実現するハイブリッドシステム

 さて、現代のクルマは車種だけでなく、その動力源も多彩になっている。ガソリン車やディーゼル車などの純エンジン車もあれば、ハイブリッドにバッテリーEV、燃料電池車まであらゆる種類のパワーユニットが市場に揃っている状態だ。

 やはりエンジン車においては、慣らし運転はした方がいい。やってはいけない行為ではないのだから、どちらかといえばやるに越したことはないだろう。

 初回のオイル交換を早めに行なう必要があるのは、それだけオイルが汚れるためで、どんなに精密に成形し、そして表面処理を施したとしても摩擦はゼロにはならないので、慴動面が馴染むまでは優しい運転を心がけた方がいい。

 それは慣らし運転の時期を終えてからも、走り始めには続けた方がいいことだ。

 となれば残る問題はEVやハイブリッド車ではないだろうか。モーターで走るクルマなら、慣らし運転は必要ないのでは、そう思う読者もおられるだろう。

 ハイブリッドとバッテリーEVでは、パワーユニットの構成がかなり違うので、同じように考えることはできない。ハイブリッドも方式によってエンジンの使い方が様々だ。

 まず、圧倒的に多いと思われるプリウスやヤリスなどが採用するトヨタのTHS-IIのシリーズ・パラレル方式。

 動力分割機構を設け、エンジンとモーターの両方を動力源として上手く使い分ける方式だ。発進や低速時にはモーターを使用。速度が上がるとエンジンも併用し、両方を効率よく使いながら走行する。

 エンジンを頻繁に使用するため、できればエンジン車と同じような考え方で、慣らし運転を心掛けたい。

 ノートやセレナのe-POWER、ホンダのスポーツハイブリッドiMMD搭載のインサイトやiMMD改めe:HEVを搭載した新型フィットハイブリッドや新型アコード、三菱アウトランダーPHEVなどが採用するシリーズハイブリッドはエンジンと駆動系を完全に切り離し、エンジンは発電のみに使用し、駆動は電動モーターによって行っている。

 ただし、ホンダのe:HEVは基本的にはエンジンで発電してモーターで走行するが、エンジンで走行した方が効率がいい場合(主に高速走行)にエンジンと車輪をクラッチで直結する。アウトランダーPHEVも高速巡航時のみエンジンを直結する駆動機構を備えている。

 シリーズハイブリッドは発電専用のエンジンを搭載しているため、エンジンが新品状態ではエンジンオイルが汚れるため、最初のオイル交換は早めに行ないたい。

 これも慣らし運転の一種といえるだろう。日産はe-POWER車の慣らし運転は必要なしとしているものの、急加速などの無理なアクセル操作を控えることをお奨めすると回答している。

 エンジンと変速機を搭載し、 発進時や加速時などパワーが必要な時にモーターがエンジンをサポートするパラレル方式は、慴動部分が多い機械を搭載しているのだから、馴染みができるまでは慣らし運転をした方がいい。

 通常のクルマに搭載されるオルタネーター/セルモーターを、車体を駆動できるほど強力なモーターに換装することで構築する簡易的な低電圧ハイブリッドシステムであるマイルドハイブリッドもこのパラレル方式に含まれる。 

 パラレル方式の車種はスバルXVやフォレスターのe-BOXER、ホンダi-DCD(フリードHV)、ホンダスポーツハイブリッドSH-AWD(レジェンド、NSX)、日産エクストレイルHVなど。マイルドハイブリッドはスズキが多く採用している。

スバルのe-BOXERはフォレスターとXVに設定されている。両車種ともにFB20型2L直噴エンジン(145ps/19.2kgm)に13.6ps/6.6kgmを発揮するモーターを組み合わせている。e-BOXERのシステム制御は、発進や低速走行時などエンジン効率が悪い場合にはEV走行となり、加速時や中速走行時にはエンジンを駆動させ、モーターはその働きをアシストするモーターアシスト走行になる。エンジン効率のいい高速走行時にはエンジンのみで走行し、必要に応じてモーターを回して充電してバッテリーに充電する。減速時にはその減速エネルギーを電気に変換して充電し、停車時にはアイドリングストップを行う

 モーターはハイブリッド車には耐久性に優れたブラシレスモーターを採用しているから、ブラシがある程度摩耗して電極に馴染んだ状態になるまで慣らしをする必要はない。

 しかしパワー半導体などが組み込まれたPCUなど電子部品の集合体には「エージング」が必要だという意見もある。

 電子部品におけるエージングとは、一定時間電流を通して動作させることによって安定した状態に仕上げることを指す。

 さらに金属の導電性を安定させるという考えもあるようだが、これは測定限界以下のレベルの違いだから、ちょっと眉唾モノと言えそうだ。

 エージングには老化とか劣化という意味もあるが、まさに「慣らし」という意味もあるのだ。

 さらに動作チェックのための耐久試験としてエージング試験という言い方をするところもある。

 年を重ねる=使い込まれるという以外にも、エージングは幅広く使われている。それだけ「慣らし」という行為が様々な業界で必要とされているのだ。

パワーユニット以外にも慣らしが必要な箇所はある

エンジン以外でも慣らし運転が必要なのだろうか?

 今まではパワーユニットや駆動系について慣らし運転の必要性を語ってきたが、クルマにとって慣らしが必要なのはパワーユニットと駆動系だけではない。

 電子部品のエージングを考えなくても、クルマにはその他にも可動部品が無数に存在する。例えばサスペンションだ。

 コイルスプリングは、初期のヘタリを予め取っておく「セッチング」という工程が施されている。

 これは新品のスプリングに荷重をかけ、一定時間縮めておくもの。セッチングをしないと、新車からしばらく走っただけで初期ヘタリにより、車高が下がってしまう可能性があるからだ。

 セッチングを施されているから、スプリングは10万kmくらいまでは本来のバネレートから大きくヘタることなく使い続けることができるのだ。

 ただしスプリングは初期の馴染みを高めているが、ダンパーは組み上げたら工場から納車までの短い距離をゆっくり回送されているだけだ。そのため新車ではオイルシールの締め付けが強くフリクションも大きい。

 ダンパーの伸縮方向に対して真っすぐに力が掛かっているならいいが、実際にはダンパーには曲げ応力も発生し、ピストン回りやシェルケースとインナーロッドのシール部に負担が掛かっている。

 したがってシールの締め付けやピストンとシリンダーのクリアランスが小さい状態で横方向に大きな力が加わると、シール表面やシリンダー内壁の摩耗や傷みが早まる。それは減衰力の低下を早める原因の一つになるだろう。

 ディスクブレーキは、最初の100km程度はパッドのあたりが均一ではなく、その状態で頻繁に強くブレーキを掛けると、ディスクローターの偏摩耗につながる可能性が高まる。それはブレーキング中のジャダー(振動が出て、ステアリングが揺れる)の原因になる。

慣らしをすることによって得られるメリットとは

慣らし運転を行っていれば確実にクルマに反映されるという

 慣らし運転が重要だと考えるのであれば、エンジン始動直後の暖気走行をしてやったり、長期間エンジンを動かさない状態からのエンジン始動、いわゆるドライスタートはなるべく避けるよう定期的にエンジンを掛け、クルマを動かしてやることも大事なことだ。

 もちろん慣らしなどすることなく普通に乗り回しても壊れることはないし、新車保証のうちならトラブルや不調が起こっても修理してもらえるが、そこまでコンディションが悪化することはなく、徐々にクルマのフィーリングに変化が出てくるのだ。

 最初のうちは特に優しく扱って小まめなメンテナンスを心がければ、それは確実にクルマのコンディションに反映される。

 それが下取り価格にまで影響するとは言えないが、長くそのクルマの本来の乗り味を維持したい、良い感じに各部の硬さが取れた本来の乗り味を長く楽しみたいなら、やはり慣らし運転は必要ではないだろうか。

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