V8、V10、V12などスペシャルなエンジンはいろいろあるが、一般的の常識内で購入対象になるのは6気筒が上限と言っていいだろう。
その6気筒エンジンには直6とV6があり、50歳以上の人にとっては直6は、高級エンジンではあるが、トヨタのツインカム24ブームなどもあり慣れ親しんだエンジンでもあった。
20世紀の終わりから21世紀にかけて直6エンジンが続々と消滅し、絶滅のピンチに陥ったが、ここにきて直6エンジンが復活し、再び注目を集めている。
直6エンジンの消滅危機から復活劇という紆余曲折について、その理由を松田秀士氏が考察する。
文:松田秀士/写真:TOYOTA、LEXUS、NISSAN、MERCEDES-BENZ、BMW、FCA、ベストカー編集部
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直6エンジンは完全バランスでスムーズな回転フィール
4サイクルエンジンのレイアウトにはいろいろある。シリンダーの配置により名称が異なり、現在は直列、V型、水平対向、W型が市販されている。昔は星型エンジンも存在していた。
いっぽうシリンダーの数は2、3、4、5、6、8、10、12、16などがあり、シリンダーレイアウトと数によってエンジン形式は豊富にある。しかし8気筒以上のエンジンは特殊で、一般的なのは6気筒以下ということになる。
4サイクルエンジンはクランクシャフト2回転に1回ずつ燃焼するため、その際に振動が発生する(一時振動)。それを抑えるためにはバランサーシャフトなどが必要になってくる。
その点直6エンジンは一列に並んだシリンダーを1~6番とすると1番と6番(外同士)、2番と5番(外から2番目同士)、3番と4番(中同士)を同じクランク角度にすることで、理論上は一時振動をゼロにすることができる。
直6が完全バランスと呼ばれるゆえんだ。
この振動の少ないスムーズな回転こそが直6エンジンの最大のメリットと言える。そのため、直6エンジンは上級モデル用、スポーツエンジンとして名を馳せた。
同じ6気筒でもV6エンジンの場合は、シリンダーが配置されるVを形成する角度(これをバンク角と呼ぶ)によって振動の出る方向が変わってくるので、直6のように完全バランスを取るのは難しくなってくる。
直6エンジンは続々消滅して絶滅の恐れ
その理想とも思える直6エンジンだが、1997年にメルセデスベンツが「M104」エンジンを生産中止にして、順次V6に切り替えていった。
いっぽう日本メーカーで直6エンジンをラインナップしていたのはトヨタ、日産のみだったが、トヨタは2007年に2.5L、NAの1JZ-GE、日産は2004年に2.5LターボのRB25DETの生産をそれぞれ終了し、日本の乗用車用直6エンジンは消滅してV6に切り替わった。
続々消滅したことで、直6エンジンは絶滅の危機を迎えたのだ。
直6エンジンはシリンダーが6つ一直線に並んでいるためエンジンが長くなってしまう。同じ6気筒でもV6なら約半分のエンジン長に抑えることができる。
基本的に直6エンジンはFR用の縦置きユニットゆえ、衝突安全性の確保が難しかった。各メーカーとも衝突時にエンジンがキャビン内に侵入してこないように、ボディ下側に潜り込ませるなど工夫したがそれも限界。
メルセデスベンツ、日産、トヨタの順に直6をやめていったのは、衝突時の安全を確保するクラッシャブルゾーンの確保が難しくなったからに他ならない。
例外的なのはボルボで、長い直6エンジンを横置きにすることでエンジンの前後にスペースが生まれ、これをクラッシャブルゾーンとして活用。
そのボルボは4気筒以上のシリンダー数を持つエンジンを作らないと公表し、これは事実上の直6廃止宣言ととれる。
この直6廃止の流れに抗うように、伝統のシルキー6を守り続けたのがBMWで、その孤軍奮闘ぶり、頑固なまでのポリシーを守る姿勢が評価されていた。
しかし、3シリーズを見てもわかるとおり、BMWも直6をラインナップしているものの、直4比率が高くなっているのも事実だ。
直6エンジンが廃止された初期はV6エンジンに順次切り替えられたが、その後は欧州に端を発したダウンサイジングターボに取って代わられた。
動力性能と環境性能を高いレベルでバランスさせた2L前後の直4直噴ターボで充分じゃないか、という風潮も直6不要論を後押しした。
メルセデスベンツがほぼ21年ぶりに直6を復活させた
直6エンジンが少数派であることには変わらないが、メルセデスベンツが2018年に3L、直6エンジンを搭載するS450の販売を開始。
メルセデスベンツが直6搭載モデルをラインナップするのは、前述のとおり1997年以来ほぼ21年ぶりのことだ。
では、なぜメルセデスベンツは一度やめた直6を復活させたのか?
その要因はいくつかあるが、まず、直6搭載の最大のデメリットであった衝突時のクラッシャブルゾーン確保の問題だが、現代の技術ではエンジンの気筒間のピッチを短くでき、全長も少しながら短縮できるようになったことだ。
ボディに高張力鋼板などを使うことによってボディも大きく進化している。
パワートレイン、ボディの進化によりクラッシャブルゾーン問題は解決したとみていいだろう。
もう1点は、ダウンサイジングターボに比べると燃費や環境性能に劣る直6エンジンだが、メルセデスは48Vのマイルドハイブリッドを組み合わせて燃費、環境性能も大きく向上させ、直6のネガを潰していることも大きい。
メルセデスの場合はハイパワーのAMGをラインナップしているが、こちらには電動スーパーチャージャーを組み合わせることで対処することができた。
上記のような技術的に克服したものと同時に、直6のスムーズな回転フィール、上質感という最大のメリットがプレミアム性には欠かせないというのも見逃せないポイントだ。
ドライブフィールで言えば、今欧州車では主流となっているDCTの場合、多気筒のほうがエンジンブレーキが効きやすい。すなわち直4よりも直6のほうが上質な運転が可能というわけだ。
マツダは2022年に直6+FRを市販開始予定
日本の自動車メーカーに目を移すと、マツダが直6エンジンを搭載したFR車を発売することを正式発表している。
2021年の発売が有力視されていたが、2019年に発表した『2020年3月期第2四半期決算説明会』での資料によれば約1年遅れの2022年となるもよう。
マツダが開発しているLARGEアーキテクチャーは、直列6気筒SKYACTIV-Xと直列6気筒SKYACTIV-D GEN2(第2世代)を縦置きに搭載する後輪駆動用プラットフォームだ。
同時に48Vマイルドハイブリッド、プラグインハイブリッドという電動化も見据えていると言われている。
マツダにとって直6エンジンは初めてのチャレンジとなり、ブランド価値を高める戦略を推進しているマツダにとってLARGEアーキテクチャーは非常に重要だ。
マツダは直4のSKYACTIV-Xはすでにマツダ3、CX-30に搭載して発売している。直6は新開発のエンジンとなるが、基本は直4の延長線上にあるため、直4をベースに6気筒化することができるので開発はしやすいと思われる。
これは開発が遅れていると言われている第2世代のSKYACTIV-Dについても同様のことが言える。
マツダの新開発する直6エンジンは、次期マツダ6のユニットとなるほか、CX-5以上のSUVのユニットとして使われるというから楽しみである。
マツダ以外のメーカーで直6を新たに開発しているメーカーは今のとこないようだ。かつてラインナップしていたトヨタ、日産についてもしかり。
ただ、ベストカーのスクープによればトヨタとマツダの協業の一環として、次期クラウンにも搭載されるという情報もあるので、このあたりについては続報に期待したい。
まとめ
一時は絶滅危惧種として考えられていた直6エンジンをメルセデスベンツが復活させてにわかに注目を集めている。
マツダがFR用の新開発直6エンジンを2022年に登場させることもわかっている。
現代の技術で作られた新世代直6は、これまで以上にスムーズな回転フィールと燃費性能、環境性能を高いレベルでバランスさせているのは間違いないだろう。
直6エンジンの復活はユーザーにとっては選択肢が増え歓迎すべきことではあるが、あくまでもFR用の3Lクラスの特殊なエンジンのひとつで、主流になるエンジンではない。
逆に言えば、主流にならないからこそプレミアム性が付加されるとも言えるだろう。
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August 29, 2020 at 05:00AM
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