スバルの技術フラグシップであり、最新のツーリングワゴンになる新型「レヴォーグ」。この新型レヴォーグでは、高度運転支援を行なう「アイサイトX」も話題だが、それに負けず劣らず大きな話題となっているのが新開発の水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”「CB18」エンジンになる。
現行レヴォーグに搭載されている1.6リッターの水平対向4気筒エンジン「FB16」はNA(自然吸気)から発展したDIT(直噴ターボ)で、現行レヴォーグと同時にデビュー。登場当時はダウンサイジングターボと呼ばれることが多く、パワーと燃費の両立を図ったエンジンと位置付けられていた。
CB18エンジンは、そのFB16エンジンの革新を目指したもので、基本仕様は最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpm。排気量は1795cc、ボア×ストロークは80.6×88.0mm(ボアストローク比約1.09)で圧縮比10.4。FB16同様に無鉛レギュラーガソリンを用いる。JC08モード燃費は16.6km/L。
一方、現行のFB16DITは、最高出力125kW(170PS)/4800-5600rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1800-4800rpm。排気量は1599cc、ボア×ストローク78.8×82.0mm(ボアストローク比約1.04)で圧縮比11.0。JC08モード燃費16.0km/Lとなる。
CB18はFB16に比べて排気量が若干増え、馬力も7PS向上しているが、それ以上にトルクの上がり幅が大きい。50Nm増になるとともに、よりロングストーロークタイプとなり、最大トルク発生回転数を下方向へとシフト。燃費効率がよくなるとともに、普段の使い勝手を重視している。
このCB18では、燃焼方式に超希薄となる混合気を燃やすリーン燃焼を採用。熱効率は40%に達している。このCB18エンジンの各部を見ていこう。
全長を短縮したCB18エンジン
アイサイトXの試乗会では、このCB18エンジンのカットモデルとシリンダー&クランクセット、そして比較のためのFB16エンジンのシリンダー&クランクセットが展示されていた。
シリンダー&クランクセットを見比べてすぐに分かるのが、CB18エンジンの全長の短さになる。CB18のボアピッチ98.6mm、クランク長315.9mmに対して、FB16のボアピッチは113.0mm、クランク長は350.5mmになる。もちろんFB系はFB20などより排気量の大きいバリエーションもあるためこのような数値になっているが、CB18はクランク長で約35mm、エンジン全長では約40mm短くなっているという。
CB18のボアピッチ98.6mmでボア80.6mmという値は、ほとんどボア方向に拡大の余地のない値となっており、排気量を拡大したバリエーションの登場は難しいと思われる(そもそも考慮していないように見える)。CB18がシリーズ化されるとするなら、下方向、例えば1.6リッターエンジンなどになるだろう。
そのほか、特徴的なのはCB18のクランクウェブの薄さ。かつてのEJ20時代も水平対向4気筒エンジンの振動の小ささを生かしたクランクウェブの薄さは特徴的だったが、CB18にはその雰囲気がある。EJに比べてFBのクランクウェブが厚くなったのは「筒内の爆発圧力向上に対応するため」とのことだったが、圧縮比はFB16の11.0から、CB18の10.4へと若干低下しており、CB18で積極的に採用されたリーン燃焼の影響もあるのか、それとも薄くしたかったからなのか気になるところだ。
オフセットシリンダーなど徹底的にフリクションを低減
このCB18で一番配慮されているのが、エンジン各部のフリクション低減、つまり不要摩擦の削減になるという。そのためCB18ではスバルとして初めてオフセットシリンダー(クランクオフセットともいう)を採用。これはシリンダーの中心軸とクランクピンの中心軸をずらすことで、爆発時のピストン下降時圧力による摩擦の増大を減らす仕組みになる。
スバルスタッフによると、「フリクションが減るのは分かっていたが、スバルの水平対向の場合ピストンが水平になるためオイルの扱いの工夫が必要だった」と言い、今回は計算などで効果があることを確かめて実際のエンジンに用いたとのこと。気になるオフセット量に関しては、左右バンクとも8mm。
また、フリクションの低減に関しては、ピストン側面のフリクション低減加工のパターンを変更。ピストン上昇時に圧力のかかる側面には谷型のパターンを、ピストン下降時に圧力のかかる側面には山形のパターンを刻み、それぞれオイルを中心に(つまりピストン側面に)かき集める効果を狙っている。オイル膜を薄くできるとともに、効率的に使えるようになっている。
コンロッドの分割パターンも、FB系の斜め割りからCB系では水平割りとなり一般的に。FB系では、FB25のストローク90mmの組み立てに対応するためにコンロッドの分割を斜めにするなどとされていたが、CB18ではサービスホールなどによりEJ20と同様の水平割りに。現時点では高効率な環境エンジンとしてデビューするCB18だが、随所に高回転を意識したような設計が見て取れる。これらは何かの布石なのだろうか?
リーン燃焼を実現するための工夫
新型レヴォーグに搭載されるCB18エンジンは、リーン(希薄)燃焼を採用しており、熱効率も40%に達している。この高い熱効率を実現するためにリーン燃焼を採用。薄い混合気で確実に燃焼・爆発を行なうための工夫が随所に取り入れられている。
まずは、薄い混合気を作るためのターボの採用。自然吸気エンジンでは慣性過給などを用いることである程度空気を詰め込むことはできるが、たくさん詰め込むことはできない。そのため、リーン燃焼を行なうほどのエンジンはなんらかの過給装置を装備している。スバルではターボチャージャーを採用。ただし、レスポンスを向上させるため、1.6リッターのFB16エンジンに採用したものより、「ワンサイズ下げた」とのこと。排気量を向上させながら、タービンサイズを下げることで、アクセルに対するエンジンの基本的な反応を向上させていることになる。
これにより、実現したλ(ラムダ、空気過剰率。空燃比/理論空燃比)は2となり、理論空燃比である14.7の2倍薄い混合気で燃焼していることになる。この薄い混合気を確実に着火するために、直噴インジェクターをポート内からシリンダー内へと位置変更。
また、しっかり燃やしていくためのタンブル流(縦方向の渦)をより作っていくために、1つのシリンダーに2つある吸気ポートの分岐部をより長いものにしているという。吸気がより勢いよく燃焼室に入ってくることとなり、それがシリンダー内の壁にぶつかって縦渦となっていく。そこに直噴インジェクターからλ2の混合気を投入し、すぐそばにあるプラグで着火していく。
そして、せっかくリーン燃焼で得られたトルクを、少しでも減らさないようオフセットシリンダーを採用し、ピストンの側面では油を減らしつつ油膜が切れないようにかき集める設計が行なわれている。
CB18エンジンに驚くのは、これが水平対向4気筒という世界的に見てもレアなエンジン形式で実現されていること。例えば直列4気筒エンジンであれば、ほかに直列4気筒を採用する他社にOEMするなどの施策が採れるが、水平対向4気筒を購入してくれそうな自動車会社は、数社あるかないかだろう。つまり、スバルは自社のクルマの販売で、この技術投資を回収する覚悟を決めていることになる。
スバルは2020年1月の技術ミーティングで、「脱炭素社会の実現」を目指す観点から3つの長期目標を公表。
2050年に、Well-to-Wheelで新車平均(走行時)のCO2(二酸化炭素)排出量を、2010年比で90%以上削減
2030年までに、全世界販売台数の40%以上を、電気自動車(EV)+ハイブリッド車にする
2030年代前半には、生産・販売する全てのSUBARU車に電動技術を搭載
新型エンジンの投資は、10年、20年かけて回収していくものになる。2030年には多くのハイブリッド車を出すと宣言している以上、このCB18エンジンはそれらのハイブリッド車のマザーエンジンとしても存在しているように思える。すると、この全長の短さは、公表されているような衝突安全向上のためもあるが、モーターを搭載する空間、もしくはほとんどあり得ることはないだろうが+2気筒の空間を稼ぎ出しているようにも見える。技術的見所の多い、夢のあるエンジンといえる。
FA/FBエンジンがタフな高効率エンジンを目指していたのに対し、CB18エンジンは全長短縮による軽量化(エンジン全体で14.6kgの軽量化)や、薄いクランクウェブ、水平割りのコンロッドなど、高効率でありながらレーシングエンジンのような高出力を狙ったすごみを感じるエンジン設計。1.8リッターながらワイドバンドの最大トルク300Nm(30.6kgfm)というスペックは、3リッター自然吸気エンジンに匹敵するもので、新型レヴォーグとの組み合わせたときのスポーツ性にも期待したい。
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August 27, 2020 at 09:04AM
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スバル、新型レヴォーグのCB18エンジンは熱効率40% λ=2のリーン燃焼やオフセットシリンダー採用 - Car Watch
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