Sunday, September 5, 2021

500psオーバーのピュア内燃エンジンを後輪駆動で - GQ JAPAN

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本家「Mハイパフォーマンス・モデル」のコアモデル

「M」の名がつくのは、BMW M社が手がけたハイパフォーマンス・モデルの証。かつては知る人ぞ知る希少な高性能車だったけれど、近年はBMW本社のモデルバリエーションの増強をうけて2つのカテゴリーを設けるなどビジネスを拡大しており、昨年M社は過去最高の約14万4000台のセールスを記録している。

好調なセールスを牽引する新カテゴリーが、公道走行を前提にサーキットで培われた技術を取り入れた「M パフォーマンス・モデル」。4シリーズクーペを例にあげれば、通常グレードの最上位に位置する「M440i xDrive クーペ」がそれにあたる。

日本での価格はM4 1298万円、M4 コンペティション 1348万円、M4 コンペティション トラックパック 1460万円。ちなみにコンペティション比で、M3より24万円高となっている。

© Derek Ichiro Makishima

そしてもう1つはサーキット走行を念頭に開発された「Mハイパフォーマンス・モデル」。こちらがいわゆる本家Mモデルで、基本はM+数字ひと桁でモデル名が構成されている(SUVでは「X4M」と後ろにMが加わる)

今年1月に導入が始まった新型M3/M4は、M社にとってもビジネスのコアとなるモデルだ。初代M3は1986年に当時のDTM(ドイツツーリングカー選手権)のホモロゲーション用モデルとして開発されたもので、その成功がM社を一躍有名にした。M4はかつてのM3クーペに該当するモデルであり、先代よりベース車が、セダンは3シリーズ、クーペは4シリーズと区分されたことを受けていまの名称になった。したがって、新型はM3としては6世代目、M4としては2世代目ということになる。

エンジンサウンドを走行モードに応じて変えてくれるMスポーツエキゾーストを装着する。

© Derek Ichiro Makishima

新型ではさらにM4に3つのバリエーションを用意。ベースの「M4クーペ」、ハイパワーバージョンの「M4コンペティション」、そしてさらにサーキット走行に特化した「M4コンペティション トラックパッケージ」がある。さらに今秋には4WDの「M4コンペティション xDrive」が追加されるという。

エンジンはM社謹製の3リッター直列6気筒ツインターボで、「M4クーペ」では最高出力480ps、最大トルクは550Nmを発揮。トランスミッションは6速MTで、後輪を駆動する。M3にはこのMT仕様は設定されておらず、直6エンジンをMTで味わいたいとなれば、これ一択となる。

ハイパフォーマンス・モデルにも、3眼カメラとレーダーを用いた運転支援装備を採用。ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能などが備わった。

© Derek Ichiro Makishima

MモデルにもADASが標準装備

試乗車は、サンパウロ・イエローという鮮やかな黄色の「M4コンペティション」だった。こちらは、最高出力510ps、最大トルクは650Nmにまで高められており、トランスミッションは8速ATになる。さすがに500ps超となると人間のMT操作スピードでは本来の性能を引き出せないこともあって、いまやスーパーカーの世界でも2ペダルが常識となっている。

大型エアインテークを備えたフロントバンパー、リアスポイラー、ディフューザーなどで空力性能を向上。車両低重心化のため、カーボン製ルーフを標準装備した。

© Derek Ichiro Makishima

エクステリアでは賛否両論ある縦長の大きなキドニー・グリルが目を引くが、Mモデルになると、抑揚のあるワイド&ローなスタイリングになることもあって、実際に見るとそれほどバランスは悪くないと感じた。日本のナンバープレートとの相性の悪さはいかんともしがたいが。

ボディサイズは全長4805mm、全幅1885mm、全高1395mm、ホイールベース2855mm。これは先代比で120mm長く、15mm幅広く、10mm背が高く、ホイールベースは45mm拡大している。大きくなったボディは、ボンネット、フロントフェンダー、ドアをアルミニウムに、ルーフにカーボン(CFRP)を用いて軽量化を施しているものの、車両重量は1730kgと、先代に比べて約100kg重くなっている。

ベーシックモデルでは最高出力480ps/最大トルク550Nm、コンペティションでは510ps/650Nmまで引き上げられている。

© Derek Ichiro Makishima

ドアを開くと、エクステリアに負けじと鮮やかなヤス・マリナ・ブルーとブラックの2トーンに、イエローのアクセントを配したオプションのMスポーツシートが装備されていた。ちなみにこれらMモデル専用の内外装色にはレースやサーキットの名称が使われている。

ドライブモードは、エンジン、シャシー、ステアリング、ブレーキ、トラクションコントロールの設定を選べる。またシフトスピードも設定変更が可能。さらにオプションのMドライブプロフェッショナルを装備すると、距離や角度、時間などでドリフトの腕を採点してくれるMドリフトアナライザーなる機能も備わるというから驚きだ。もちろんこれはクローズドコースでの使用に限定されている。

M専用デザインのメーターパネルや、専用ステアリングなどを採用。ドアシルにもMのロゴが入っている。

© Derek Ichiro Makishima

先代のM3/M4の頃に開発者に聞いた話だが、MモデルにはあえてADAS(安全運転支援システム)は搭載しない方針をとっていたようだった。しかし、時代の要請をうけ最新モデルでは標準装備されている。ステアリングには、アダプティブクルーズコントロールや渋滞時の手ばなし運転を可能にするハンズオフの起動スイッチなどが備わる。もしADASは一切必要ないという硬派な方は、「コンペティショントラックパッケージ」を選ぶといい。こちらはADAS系装備が省かれており、カーボンセラミックブレーキや先のMドライブプロフェッショナルは標準装備となる。

© Derek Ichiro Makishima

スーパースポーツながら日常領域で扱いやすい

走り出すと、いたるところが補強された屈強なボディもあって、電子制御ダンパーがしっかりと仕事をしているのがわかる。もちろんMモデルだから引き締められてはいるが、コンフォートモードにセットしておけばとても乗り心地がいい。かつてのMモデルを知る人は、きっと驚くはずだ。

新設計という直6ツインターボエンジンは、低回転からよどみなく力を発揮し、途切れることなく滑らかに高回転まで吹け上がっていく。高回転域だけでなく、低回転域でのアクセル操作に対する追従性がよく、意のままにクルマが加速してくれるので飛ばさなくても運転が楽しい。500psを超えるスーパースポーツでありながら、日常領域で扱いやすいのがこの直6ターボエンジンの特長といえる。

Mスポーツシートを標準装備。オプションでカーボン製の軽量バケットシートも用意される。

© Derek Ichiro Makishima

スポーツモードに切り替えれば、怒涛のパワーが押し寄せ、4本出しマフラーから心躍る直6サウンドが聞こえてくる。しかし、高速道路での料金所ダッシュ程度じゃほんの数秒しかこのクルマ本来の性能を体感できない。このエンジンの高回転域を存分に味わいたいなら、やはりサーキットに行くしかない。

© Derek Ichiro Makishima

新型M4は、コンフォートとスーパースポーツとのあいだにある振り幅をより一層拡大したモデルだった。有り体にいえば、快適で安全で洗練されていて実用性があって、しかもめちゃくちゃ速い。フェラーリですら電動化するこの時代に、500psオーバーのピュアな6気筒の内燃エンジンを、後輪駆動で味わえるなんて、おそらくラストチャンスに違いない。できることなら、いまのうちにこの青春を謳歌しておくべきだ。

文・藤野太一 写真・デレック槇島 編集・iconic


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