トヨタ自動車が、水素エンジンの開発サイクルを加速している。4月に水素エンジンの開発と耐久レースへの挑戦を表明して以来、出力や水素充填効率などに関し、約2カ月おきに実施されるレースごとに改善を実現。数カ月でガソリンエンジン並みの出力やトルク性能を達成した。耐久レースという過酷な条件で実走行しながらリアルタイムにデータを取り、次のレースを「納期」と定めて改良を進めていることが、開発スピード向上の秘訣(ひけつ)だ。(名古屋・政年佐貴恵)
「開発は想定以上に進んでいる」。トヨタでスポーツ車領域を統括する佐藤恒治執行役員は、手応えを示す。トヨタが本格的化したのは、2020年末頃。水素エンジンは小型スポーツ車「GRヤリス」で使われる、排気量1・6リットル直噴ターボエンジンがベースだが、5月の24時間耐久レース初参戦時点では、ガソリンエンジンに比べて出力が10%以上劣っていたという。
水素エンジンの技術的な難題の一つが、燃焼制御だ。水素は燃えやすく、温度上昇により点火プラグによる着火の前に自己点火してしまい出力低下の原因となる「プレイグニッション」が起きやすい。この異常燃焼をいかに抑えるかが性能向上のポイントだ。燃焼室の様子やアクセルやブレーキの状況など、さまざまなデータをリアルタイムに取得。解析すると同時に、次回レースに向けた改善につなげてきた。
8月に行われたレースでは、トルクを前回よりも約15%向上したほか、1分当たりの水素流入量を増やして水素充填時間を約5分から3分に40%短縮。その次戦となる9月18―19日に三重県鈴鹿市で開かれたレースでは、出力を更に約6%向上し、4本あるタンクに2系統で充填することで水素充填時間は半分にした。4カ月という短い期間で、ガソリンエンジン並みの出力を実現。佐藤執行役員は「モータースポーツで車を鍛えるからこそのスピード感だ」と、レースを開発現場にすることの効果をかみ締める。次の大きな技術テーマは燃費向上だ。
鈴鹿のレースの解析データなどを基にさらなる改良を進め、11月に岡山県で開催されるレースに臨む予定。水素エンジンが走る21年のレース活動はここで一度、区切りとなる。
佐藤執行役員は「(短期で試作と改良を繰り返す)アジャイル開発を短期で終わらせてはいけない」と、来年以降を見据える。アジャイル開発の手法を“手の内化”し、あらゆる事業にそのやり方を浸透させていくのが目標だ。
日刊工業新聞2021年9月23日
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