Wednesday, January 4, 2023

エンジン認証に新たな「死角」、自動車業界に性善説は通用するか - ITpro

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 自動車のエンジン認証試験(以下、認証試験)のプロセスに「死角」が見つかった。自動車メーカー各社の「性善説」が崩れる事態になれば、不正に発展しかねない(図1)。日野自動車のディーゼルエンジン(以下、エンジン)不正に関する取材によって明らかになった。

図1 エンジン認証試験において発覚した「死角」

図1 エンジン認証試験において発覚した「死角」

エンジン認証試験の1つである排出ガスの浄化性能を評価する「劣化耐久試験」において、「劣化触媒を誰が作るか」が死角となる。ここで開発側が製作した劣化触媒を、品質保証部門など他部門が使って同試験を実施しても牽制(けんせい)機能を果たせない可能性があることが明るみに出た。開発側が劣化具合を偽った劣化触媒を故意に作った場合、それを見破れないからだ。(イラスト:穐山 里実)

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 日野自動車のエンジン不正(排出ガスと燃費の不正)については、2022年8月2日に特別調査委員会(以下、調査委員会)が調査報告書を公表してから3週間もたたないうちに新たな不正が発覚。立ち入り検査に入った国土交通省から不正を指摘されるという失態を犯し、調査委員会と日野自動車の調査力不足および検証力不足が露呈した。

 この事態を受けて動いたのが、親会社であるトヨタ自動車だ。同社から「エンジン関連の技術者が日野自動車に支援に入った」(エンジンの専門家、以下専門家)。日野自動車の現行のエンジン開発プロセスには不正発生のリスクが考慮されていない。そのため、この支援によって「不正ができない仕組み」を織り込んだトヨタ自動車のエンジン開発プロセスが移植されるとみられる。

 もちろん、日野自動車が扱う商用車のエンジンとトヨタ自動車が造る乗用車のエンジンとでは、低コストを筆頭に要求される仕様が異なる。従って、トヨタ自動車のエンジン開発プロセスをベースに、日野自動車に適したものへと調整する作業が発生する。両社は粛々とこの作業をこなしていくことだろう。

 これで一件落着かと思いきや、専門家は「依然として日野自動車で不正が起きる可能性がある」と指摘する。それだけではない。「このままではトヨタ自動車を含めた他の自動車メーカーでも、不正が発生する可能性を否定できない」と警鐘を鳴らす。

 一体、どういうことか。

「お手盛り」の認証試験を排除

 今回のエンジン不正を受けて、日野自動車は再発防止策として「牽制(けんせい)構造(チェック体制)の確立・強化」を打ち出した。その筆頭に掲げたのは、認証試験およびエンジン認証申請(以下、認証申請)の機能をエンジンの「開発本部」から「品質本部」に移管することだ(図2)。この施策について同社は「健全な社内牽制体制に改組」と説明。調査委員会はこの施策を含む同社の一連の再発防止策について「当面の止血策としては妥当なもの」と評価した。

図2 日野自動車が打ち出した不正の再発防止策

図2 日野自動車が打ち出した不正の再発防止策

真っ先に牽制構造の確立・強化を掲げ、認証試験と認証申請機能を開発本部から品質本部に移管して不正防止につなげる施策を打ち出した。(写真:日経クロステック)

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 これがまさにトヨタ自動車から導入した不正防止の仕組みの1つだ。日野自動車の現行の認証試験・認証申請は、いわば「お手盛り」だ。そこに真っ先にメスを入れたというわけである(図3)。

図3 日野自動車の認証試験・認証申請の仕組み

図3 日野自動車の認証試験・認証申請の仕組み

トヨタ自動車の不正防止の仕組みを導入。開発本部で閉じていた認証試験・認証申請機能を品質本部に移管した。こうして開発本部を牽制して不正の再発防止につなげる考えだ。(出所:日経クロステック、写真:日野自動車)

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 日野自動車の不正の中身をざっと振り返るとこうだ。

 「エンジン設計部」が技術力不足により、排出ガス浄化および燃費の両性能に関して法規や規制(以下、規制)を満たす設計を施していなかった。にもかかわらず、以降の対応を適合業務を担う「パワートレーン実験部」に丸投げした。日野自動車には「エンジン設計を頂点とするヒエラルキー」(調査報告書)が存在する。そのため、エンジン設計部に忖度(そんたく)したパワートレーン実験部は、規制への未達の事実をエンジン設計部にフィードバックできなかった。代わりに、不正な手練手管を駆使して認証試験をクリアしたように見せ掛けた上で、国交省への認証申請もパワートレーン実験部が行っていた──。

* 適合業務 排出ガスや燃費などの性能が設計目標値を満たすように電子制御ユニット(ECU)の制御(ソフトウエア)などで調整する作業のこと。

 すなわち、エンジンの開発・設計はもちろん、認証試験および認証申請まで開発本部の中で閉じて実施していたために牽制機能が働かず、不正を招いた。その反省から、認証試験・認証申請を開発本部から切り離し、品質保証を担う「品質本部」に任せることにしたというわけだ。

 実は、認証試験を品質保証部門が担う自動車メーカーは珍しい。「トヨタ自動車だけではないか」(専門家)という声もある(本記事末の囲み記事参照)。実際、執筆時(2022年12月31日)までに確認できた日産自動車とマツダ、スズキ、いすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バスのいずれも、認証試験を品質保証部門が担っていない。こうした企業は「認証試験および認証申請の機能については人も設備も場所もきちんと分離している」(日産自動車)、「認証試験については開発部門のエンジン実験担当が実施しているが、実験担当が取得したデータを開発部門の商品企画と設計、実験、法規認証、品質保証部門によるクロスチェックで確認した上で認証業務を進めている」(いすゞ自動車)、「品質保証部門ではないが、設計部門から独立した認証技術部が行っている。エンジン単体の出力認証試験は設計部門が行うが、法規通りに実施されているか認証技術部が試験に立ち会いチェックをしている」(スズキ)、「認証試験は開発部門とは別の認証専門の法規認証部門が行っている」(マツダ)といった方法で不正を回避している。

 逆に、品質保証部門が認証試験を行うトヨタ自動車の仕組みについては、他の自動車メーカーから「なぜ、同じ試験を2度も行う必要があるのか」と不思議がる意見が聞こえてくるほどだ。というのも、トヨタ自動車では開発側にある適合部門(日野自動車のパワートレーン実験部に相当)が開発段階で認証試験を実施する。そして、それとは別に品質保証部門が独自に認証試験を行うからだ。

 トヨタ自動車が開発側と品質保証部門とで別々に認証試験を実施するのは、不正を防ぐ牽制機能を働かせることの他に、もう1つの理由がある。

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