Monday, January 2, 2023

トヨタ・新型プリウスが搭載する4気筒2.0Lエンジン[M20A] - MotorFan[モーターファン]

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レクサスUXで国内に初登場し、順次トヨタ/レクサスの新型モデルに搭載されていく2.0L直列4気筒エンジンM20A型は今後、全世界で年間200万基もの生産数が見込まれるという、まさに主力ユニットである。その誕生には、最適な燃焼をコモンアーキテクチャー化し、開発のスピードアップを図るなど新しいアプローチが用いられた。
TEXT:安藤 眞(Makoto ANDO) PHOTO:MFi/TOYOTA FIGURE:TOYOTA/LEXUS

モーターファン・イラストレーテッド Vol.155「第5世代エンジン」より一部転載

「もっといいクルマづくり」を掲げるトヨタが、TNGA戦略(Toyota New Global Architecture。これまで慣例的に行なってきたコンポーネント別の開発を改め、パワートレーンからプラットフォームまでを一括開発することで、車両全体の性能を底上げすると同時に、モジュール化による開発効率の向上や、グローバル生産にも対応できる仕様の共通化、フレキシブル生産システムの構築などを指す)の一環として進めているのがパワートレーンの刷新。2017年から2021年までの5年間に9機種17バリエーションの新エンジンを投入し、旧世代エンジンとの置き換えを図る計画だ。

新世代エンジンシリーズの愛称は「ダイナミックフォース」。現在までに、2.5L直列4気筒のA25A型、2.0L直列4気筒のM20A型、3.5LV型6気筒のV35A型と、3機種が量産化されている。今回はそのなかから、トヨタ/レクサスの世界生産の約20%を担う中核エンジンM20Aシリーズの開発を指揮した松井淳氏と、右腕となった高木功氏にお話を伺った。

これまで中排気量ガソリン4気筒を担ってきたR系エンジンは、1.6〜2.0LをカバーするZR型が06年、2.0〜2.7LをカバーするAR型が08年のデビュー。そろそろモデル終盤とはいえ、全面刷新には微妙に早い時期だ。それを刷新するモチベーションとなったのはなにか。

「強化の進むCO2排出規制や排ガス規制などの法規対応を図りながら、走る楽しさも両立するという点で、そろそろ限界が見えていたんです。幸い、先行開発してきた技術や、レース車両で培ってきた技術で量産車に使えそうなものが充分に蓄積されていたため、これらを一挙に投入して、R系の限界を跳び越えるエンジンを作ってしまおう。という開発意図でした」(松井)

最大熱効率40%超に注目の集まるA25A型とM20A型だが、数値目標はあったのだろうか。

「トヨタでは『エンジン7大性能』として、出力・燃費・排ガス・NV・信頼性・質量・原価に数値目標を掲げて開発していますが、数値目標は“天から降ってくる”ものなので(笑)、コンセプトを私なりにかみ砕いて再定義しました。法規対応はマストとはいえ、私はファンtoドライブを譲るつもりはありませんでしたから、第一に、『出力性能の高さ』を掲げました。その上で、自然吸気ならではの『他を寄せつけない燃費』。さらに、中核エンジンとして『世界中で作れる製造のロバスト性』と『世界中を走れる諸々の信頼性を持つ』こと、です」(松井)

これらのうち、性能面を達成するためのキーワードは「高速燃焼」だという。

燃費を向上させるには、燃焼速度の速さがカギを握る。燃焼速度を高めれば、ノッキングが生じる前に正規の火炎伝播燃焼を終えられるから、ノッキングタフネスが向上して圧縮比を高めることができる。また、同じ熱エネルギーを短時間で発生させれば、クランク角の効率が高い位置で圧力エネルギーを集中的にかけることができる。さらに、ノッキングに厳しい低回転中高負荷領域での点火遅角が抑制でき、実用域での高い熱効率が維持できる。失火も起きにくくなるので、EGRの大量導入も可能になる。

その高速燃焼に必要なのが、高い吸気流速によるタンブル流の強化だ。

「R系でも、吸気ポートの下側を極端なジャンプ台状にして吸気流を偏らせれば、タンブル流の強化はできないわけではありません。しかし、それでは流量係数が小さくなり、最高出力が低くなる。また製造技術的にもこうせざるを得ない理由があり、それはバルブシートの圧入構造でした。シートはバルブの軸方向に向かって圧入しなければ、密封が確保できませんから、せっかくのストレートポートも最後のところで曲がってしまい、圧力損失が増えて流量係数が低下してしまうのです」(松井)


圧入式のバルブシートは、バルブと同軸で加工する必要があるため、吸気ポートの最終端はバルブの軸方向に向けざるを得ず、出口が曲がってしまう。その制約を取り払ったのが、レーザークラッドバルブシートだ。特殊な合金の粉末をレーザーで溶かしつつバルブの着座面に溶着するので、圧入式では不可欠だったスペースが不要となり、ポートがより直線化できる。高速燃焼達成のコア技術である。

これを解決した技術が、レーザークラッドバルブシートだ。銅系合金の粉末をレーザーで溶かしながらヘッドに溶着させていくこの工法なら、ポート形状はバルブシートの圧入方向に制約されない。だから、最終端までストレートなポートが作れ、流速を高めても流量係数が維持でき、低燃費と高出力が両立できる。レース用エンジンに使用されていた技術だが、量産工法を確立することで、市販車用エンジンへの導入が可能になった。

しかし、それだけでは100Nm/Lを超える大トルクは出せない。ダイナミックフォースエンジンの大きな特徴は、ストローク/ボア比約1.2のロングストロークであることだが、ストロークが長ければボア径は小さくなり、バルブ面積も大きくは取れず、吸気量が確保できなくなってトルクも出ない。そこで行なったのが、バルブ挟み角の拡大だ。こうすれば燃焼室の天井面積が広くなり、そのぶんだけ大きなバルブ径が確保できる。R系では約31度だったバルブ挟み角を、ダイナミックフォースエンジンでは41度まで拡大している。


ロングストローク化によってボア径が小さくなると、バルブ面積が取りにくくなり、タンブル流を強めるために吸気流を偏らせれば、有効に使えるポート面積も狭くなる。そこでバルブ挟み角を拡大し、ヘッド側の面積を大きくしてバルブ面積を確保。タンブル比と流量係数の両立を図った。

ここまではすべてヘッドの改良だが、“腰下”を見ても、高出力・高効率化のための技術が数多く採用されている。M20A型エンジンは、リッター当たり出力が4.5kW(87.7ps)に達する高出力エンジンだが、限られたボア径(≒吸気ポート径)で高出力を出すには、回転数を高めるしかない。その阻害要因がピストンスピードなのだが、それに対応するための技術のひとつが、偏心バレル型のピストンリングだ。

M20A型の許容回転数は6800rpmだから、平均ピストン速度は約22.1m/s。少し前のF1エンジン並みである。この領域になると、従来のオイルリング形状では、自身の作った油膜にリングが浮かんでしまい、オイルを掻き落とすことができなくなる。いわばリングとシリンダー壁の間でハイドロプレーニング現象が起きているようなもので、掻き落とせないオイルがどんどん消費されていく。そこで採用されたのが、リング断面の偏心バレル形状。膨張ストローク側を鋭角にすることで、油膜の形成性とオイルの掻き落とし性能の両立を図った。

ロングストローク化によってピストン速度が高まると、ピストンとシリンダー間の摺動速度が高まり、ピストンリングが油膜の上に浮かんでしまい、油を掻き落とすことができなくなる。かといってリング張力を高めたのでは、フリクションが増大する。そこで端部を非対称形状として対策を行なっている。

ほかにも、ピストンやコンロッドへの高強度材使用による軽量化や、それによって熱容量の小さくなったピストンへのオイルジェット冷却(3本/気筒)、そこにオイルを供給する可変容量トロコイドポンプの採用など、ピストンスピードの高速化に対応するための技術は数多い。

そこで、少々意地悪な質問をしてみた。ダウンサイジングターボにすれば、ピストン速度に起因する苦労は少なくて済んだはずで、そういう選択肢もあったのではないか、と。

しかしそれは、設計現場のレベルでは、検討にも上がらなかったという。

「とくに2.0Lエンジンがカバーする領域は、CVTと組み合わせることを前提に開発がスタートしています。その特性を利用して、熱効率が高い低回転高負荷領域の使用頻度を高めようと考えたときに、NA(自然吸気)ならば圧縮比が上げられますから、そもそもの熱効率が高められます。EGRも広い領域で使えますから、ポンピングロスが減らせますし、燃焼温度が下がりますから、冷却損失も抑えることができる。それに、アクセル操作に対するレスポンスは速いし、駆動力のリニアリティも高めやすい。しかも私たちは、D-4Sやレーザークラッドバルブシートなど、NAでも出力を上げられる技術を持っていましたから、ターボという選択肢は、最初からありませんでした」(高木)

すかさず、松井氏が後を受ける。

「あくまでもこのクラスでは、ということですが、私たちがこれまで手にしてきた技術を並べたときに、ターボよりNAのほうが、圧倒的にやりやすかったということです。とくに今回は、発進ギヤ付きのCVTと組み合わせましたから、NAならではのレスポンスの良さを、より引き出すことができました。それに、グローバルに展開する主力エンジンですから、むやみにコストはかけられませんし、燃料性状に対する信頼性も確保しなければなりません。ですからNAの高速燃焼というのは、最適な選択肢だったと考えています」(松井)

とはいうものの、これは松井氏らが担当した4気筒シリーズの話。V6のV35A型は、5.0LV8のパワーレンジをカバーするダウンサイジングターボだ。シリンダー数まで減らすダウンサイジングなら、コストでも損失でもメリットが生かせる。そこを正しく使い分けるトヨタ/レクサスのパワートレーン戦略は、さすがにしたたかである。

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