ガソリンは“過給ダウンサイジング”
トヨタ・ランドクルーザーが新型の300シリーズに移行した。2007年に市場投入した従来型の200シリーズをフルモデルチェンジするにあたっては、“世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走り”の実現を目指したという。この狙いを実現するにあたって、エンジンが果たす役割は大きい。
新型の300シリーズはガソリンとディーゼルの2種類のエンジンを設定する。200シリーズもガソリンとディーゼルを設定していたが、国内向けはガソリンエンジンのみの設定だった。国内ユーザーにとって、選択肢が増えたのは朗報だ。
【主要諸元(ZXガソリン)】全長×全幅×全高=4985×1980×1925mm、ホイールベース2850mm、車両重量2500kg、乗車定員7名、エンジン3444ccV型6気筒DOHCガソリンターボ(415ps/5200rpm、650Nm/2000〜3600rpm)、トランスミッション10AT、駆動方式4WD、タイヤサイズ265/55R20。
プラットフォームは、TNGA(Toyota New Global Architecture)思想に基づき開発された「GA-F」を新採用。
200シリーズ発売当初のガソリンエンジンは、2UZ-FE型の4.7リッターV型8気筒自然吸気だった。2012年の商品改良にともない、1UR-FE型の4.6リッターV型8気筒自然吸気エンジンに置き換わっている。
新型の300シリーズは、V35A-FTS型の3.5リッターV型6気筒プラスパッケージツインターボを搭載する。ベースの自然吸気エンジンよりも小さな排気量でベースと同等の出力とトルクを発生し、より良好な燃費を実現するのが、2000年代半ば以来流行している“過給ダウンサイジング”のコンセプトだ。ランクル300シリーズの場合は4.6リッターV型8気筒自然吸気から3.5リッターV型6気筒ツインターボへの交代なので、典型的な過給ダウンサイジングといえる。
ガソリンは3.5リッターV型6気筒ツインターボで、最高出力は305kW(415ps)、最大トルクは650Nm。
サスペンションは、フロントがハイマウントダブルウィッシュボーン式、リアがトレーリングリンク車軸式になる。
と、言いたいところであるが、実のところ過給ダウンサイジングのコンセプトを超越した性能が与えられている。200シリーズの1UR-FE型4.6リッターV型8気筒自然吸気は、最高出力234kW(318ps)/5600rpm、最大トルク460Nm/3400rpmを発生したのに対し、300シリーズのV35A-FTS型3.5リッターV型6気筒ツインターボは最高出力305 kW(415ps)/5200rpm、最大トルク650Nm/2000〜3600rpmを発生する。前型よりも低い回転数で1.4倍もの強力なトルクを発生し、1.3倍のパワーを発生するのだ。
1UR-FE搭載車の燃費はJC08モードで6.7〜6.9km/Lだったが、V35A-FTSを搭載する300シリーズは、より厳しい測定モードのWLTCで7.9〜8.0km/Lである。燃費の向上に関しては、組み合わせるトランスミッションが6速ATから10速ATに進化している効果も大きいだろう。
アプローチアングルは32°で、最大渡河性能は700mmに達する。
ランドクルーザー初のGRスポーツは専用の内外装や足まわりを持つ。
300シリーズのガソリンV6ターボエンジンは、排気量の大きな200シリーズのV8自然吸気エンジンより力強く、燃費がいい。トヨタは「ランドクルーザーにふさわしいパワー・環境性能を備えた新パワートレーン」と、表現しているが、まさにそのとおりだ。「新」と表現しているがV35A-FTSはすでに適用例があり、レクサス「LS500」などが搭載している。
ランクル300シリーズに搭載するにあたっては専用のチューニングを施すことにより、最高出力を5kW(7ps)低下させたのと引き換えに、最大トルクを50Nm引き上げたのが特徴だ。
インパネ上部は水平基調で、車両姿勢を把握しやすい形状という。
3列・7人乗り仕様。明るいベージュ内装も選べる。
完全新設計のディーゼル
ディーゼル・エンジンは完全な新開発だ。海外版ランクル200シリーズに設定されていたディーゼルエンジンは1VD-FTV型の4.5リッターV型8気筒ツインターボで、最高出力195(265ps)kW/3400rpm、最大トルク650Nm/1600〜2800rpmを発生する。
新型の300シリーズは、F33A-FTV型の3.3リッターV型6気筒ツインターボを搭載する。最高出力は227(309ps)kW/4000rpm、最大トルクは700Nm/1600〜2600rpm、WLTCモード燃費は9.7km/Lだ。10速ATを組み合わせるのは、ガソリンエンジン仕様とおなじである。
ボンネット、ルーフ、全ドアパネルをアルミニウム化するなどして約200kgの大幅な軽量化を達成した。
新開発のディーゼルは3.3リッターV型6気筒ツインターボで、最高出力は227kW(309ps) 、最大トルクは700Nm。可変ノズル付きの2Wayツインターボ機構を搭載し、低速域ではシングルターボの高レスポンスによる力強い加速を、高速域ではツインターボの大吸気量によるのびやかな加速を、それぞれつくりだすという。
“エンジンの開発はやめる”あるいは“フェードアウトさせていく”と、発表している自動車メーカーが世界的に多い状況で、トヨタはランドクルーザーのために、新しいディーゼルエンジンを開発した。
ランドクルーザーの使命は“世界各地で人の命や暮らしを支える”あるいは、“より豊かな人生を支える”ことであり、そのためには他社の動きがどうであろうとエンジンを新開発する必要があると判断したわけだ。しかも、この新開発のディーゼルエンジン、実に革新的だ。
ディーゼルは2列シート・5人乗りのみ。
なにしろ、「ホットV」である。V型エンジンはVバンクの内側を吸気、外側を排気にするのが一般的だ。その逆で、Vバンクの内側を排気にするレイアウトをホットVと呼ぶ。熱い排気がVバンクの内側に位置することからのネーミングだ。新開発のF33A-FTVはホットVを採用した。
公式発表はないが、公開された画像を見る限り、Vバンク角は90度のようだ。ガソリンのV35A-FTSが60度なのに対し30度広いバンク角を選択したのは、2基のターボチャージャーをVバンクの内側に収めるためだろう。
GRスポーツの内装は専用デザインの本革巻きステアリング・ホイール(GRエンブレム付) やフロントシート(GRエンブレム付)、カーボン調のインテリア加飾を装備。
ガソリンのGRスポーツは7人乗りのみ。
V型エンジンでツインターボの場合、片バンクあたり1基を外側に配置するのが一般的だ。F33A-FTVは2基をVバンクの内側に配置し、両バンクで共用する。
トヨタは「2ウェイ・ツインターボ」と呼んでいるが、2基のターボを「プライマリー」と「セカンダリー」に役割分担し、低回転域はプライマリーターボのみを作動させ、高回転域ではコントロールバルブを開き、セカンダリーターボにも排気を導いて2基のターボを同時に作動させる。この仕組みにより、低回転域のレスポンスと高回転域の出力を両立させている。
歴代ランドクルーザーの系譜。
ホットVではない通常の吸排気レイアウトで「2ウェイ」を成立させようとすると、片バンクに2基、合計4基のターボチャージャーが必要になってコスト増になるし、重量は増え、スペースも要る。だからトヨタはF33A-FTVを開発するにあたり、パッケージング効率が高く、コストも低減できるホットVを選択したのだろう。2基のターボチャージャーはいずれも、排気流量に応じて流路面積を制御する可変ノズル付きで、ディーゼルエンジンとしては一般的だ。
ランドクルーザーの新型300シリーズは、前型200シリーズでは国内で設定のなかったディーゼルエンジンが選択できるうえ、そのエンジンは完全新開発で、しかも意欲的な技術が採用されている。進化した陸の王者にふさわしいパワーユニットだ。
文・世良耕太
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