Thursday, April 2, 2020

6気筒エンジン+6速MT。ポルシェの新型718 ボクスター/ケイマン「GTS 4.0」に公道&サーキット試乗 - Car Watch

“オーバー200PS”と“6気筒”という2つの記号

 販売台数は前年比10%増となる28万台余り。売上高は同じく11%増加した285億ユーロ。そして営業利益は3%増の44億ユーロ……と、いずれも「新記録を樹立!」と報じられた2019年のポルシェの業績。

 業界内でも一歩抜きん出た“飛ぶ鳥を落とす”かの好調ぶりが伝えられる今となってはちょっと信じ難くあるものの、このメーカーにも実は極度の経営不振に見舞われた過去がある。

 旧態化して整備性にも劣り、維持費も高騰した空冷「911」のみへと依存した結果、販売台数が大きく落ち込んで他メーカーへの身売り説すらまことしやかに聞かれるようになったのは1980年代の後半。そんな危機的状況からの脱却を試みた”新世代ポルシェ”の第1号として社運を賭けた開発が行なわれ、1996年に満を持して発売されたのが2シーター・ミッドシップのブランニューモデルとして生み出された初代「ボクスター」だった。

 911と共に30年以上に及ぶ長い時間を歩んできた空冷式ユニットについに終止符が打たれると同時に、2人分のシート背後に搭載されたのは、新開発された水冷式の水平対向エンジン。2480ccの6気筒自然吸気エンジンが発した最高出力は204PS、最大トルクは245Nmと、その出力データはさすがに最新モデルのそれに比べれば、何とも控え目な数値だ。

 加えれば、前出の最大トルクを発するエンジン回転数は4500rpmと高く、また恐らくはスポーツカーらしいシャープなレスポンスを得るためにフライホイール重量も軽めに抑えられてあったと見え、アイドリング付近の低回転領域でクラッチミートを行おうとするといとも簡単にストールしてしまった。特に、前輪を大きく切って抵抗が増した状態ではそうした傾向が顕著。何年乗り続けても、車庫入れの場面ではまるで初心者のごとく簡単にエンストを繰り返すことになった……というのは、実は当時オーナーであった自身の経験でもある。

初代ボクスター

 そんな問題点を開発陣が知らなかったはずもなく、ベーシック・グレードのエンジン排気量が207ccも拡大されて2.7リッターになったのは、初代モデルの誕生のタイミングからわずかに3年後のこと。

 ちなみに、それでは何故当初のモデルは2.5リッターで登場したのか? と、後の機会に開発陣に問うてみたところ、そこで得られたのは「ポルシェ車に必須と考えられたのは、オーバー200PSの最高出力と6つのシリンダー数。それを満足させられる最小の排気量が2.5リッターだった」という回答だった。

 すなわち、経営危機から脱するために低廉さを売り物とする新たなカテゴリーを開拓しながらも、ポルシェであることをアピールするのに外すことのできないアイデンティティと認識されていたのが、“オーバー200PS”と“6気筒”という2つの記号であったということ。いずれにしても、そんな初代ボクスターは見事にヒットを飛ばし、後の「カイエン」を筆頭とした4ドアモデルの成功にも繋がる新たなロードマップを描くきっかけにもなった、というのはご存じの通りのヒストリーだ。

 そうしたボクスター誕生の時から、早いもので20年以上。アメリカを追い抜いて中国が世界最大のマーケットの地位へとのし上がり、かつては人畜無害と考えられたCO2が地球環境を破壊する物質としてやり玉に挙げられるなど、自動車を取り巻く状況は時の流れと共に大きく変化した。

 かつてはポルシェにとって必須の条件と位置付けられた“6気筒”という記号も、そんな時代の変化と共にプライオリティを大きく下げることになったのか? 改めてそう認識させられることになったのが、まだ記憶にも新しい2015年末の「718 ボクスター」「718 ケイマン」の登場でもあった。

2015年に発表、日本には2016年に導入された「718 ボクスター」(上)と「718 ケイマン」(下)

 2気筒を削減する一方でターボチャージャーを装着し、排気量を減らしつつもパワーアップを果たしたことで、「効率を高めながらパフォーマンスも向上」というポルシェが常に掲げてきた課題をクリアしたかに見えたのが、718シリーズに搭載された新たなる心臓。しかし、その決断の背景にはマーケティング上の戦略も含まれていたのではないか? と、実は個人的にはそのようにも感じている。

 前述したように“世界一の自動車消費国”になった一方で、スポーツカーのマーケットはまだまだ未成熟というのが中国市場の1つの特徴。そして、そんな中国では日本と同様、排気量によって自動車税額が決定されることになる。

 すなわち、前出のエンジン刷新はカタログ上で効率アップを謳えると同時に、中国マーケットを刺激する一策にもなる。上海に専用のクローズドコースも含むエクスペリエンスセンターをオープンするなど、中国の人々に改めて自らが“スポーツカーのブランド”であることを発信したいポルシェにとって、より身近なスポーツカーとなったことをアピールするとともに世界に向けては環境性能の向上を謳い、911とのさらなる差別化をも明確にすることのできるエンジンの4気筒ターボ化は、二兎を追うに留まらず一石三鳥とも言える方策なのだ。

GTS4.0に唯一足りないものとは?

 まずはボクスターで一般道をスタート。と、ある程度予想をしていたとはいえ、思わず頬が緩んだのは上質そのものの乗り味だった。

 ロサンゼルス近郊でのテストドライブの経験から、「やっぱりそれなりにスパルタンだな」と感じたボクスター スパイダーの印象に比べると、よりフラット感に富み、遥かに快適なのはこちら。と同時に、ワインディングロードをちょっと飛ばす程度のペースで走る限りはロールやピッチング挙動もほとんど認められず、ボディコントロール性が完璧であることにも感心させられる。

 ボクスターの設定コース内にエンジンをレブリミットまで引っ張れるようなシーンはなかったが、そうした中でも印象に残ったのは、常用域でもすこぶるトルキーで、かつレスポンスにも優れるなど常用域でもその“美味しさ”が十分味わえたこと。

 一方、少々気になったのは軽負荷でのクルージング中に時々エンジンこもり音が急増する場面があったことで、実はこれはこのエンジンならではのエコデバイスである“アダプティブシリンダーコントロール”の作動による3気筒運転が行なわれた際の状況。もっとも「この機能のお陰でCO2排出量の削減が可能になり、自然吸気の6気筒エンジンを復活させることができた」と言われると、それも止むなしと思えることに。「スイッチ操作でアイドリングストップ機能をカットすれば、この機能も作動を中止する」というので、なおさら納得するしかなさそうだ。

 一方、そんな心臓のポテンシャルをフルに開放させたケイマンでのサーキット走行では、すこぶる強力な加速力と共に官能的なフィーリングも強く心に残ることに。エンジン回転数が高まるにつれてパワーとレスポンスがシャープさを増し、同時にむせび泣くかのような澄んだ快音を聞かせてくれるのは、やはり自然吸気のフラット6ユニットならでは。絶対的なスピード性能では例えターボ付きユニットに多少の先行を許すとしても、「どちらをとるか?」と問われれば、スポーツ派ドライバーの多くの答えは聞くまでもないはずだ。

 ミッドシップならではのシャープな動きを、高い安心感と両立させたフットワークの仕上がりも、もちろん相変わらずのケイマンの魅力ポイント。比べれば、ボクスター比でのボディの強靭さも、「やはりこちらが明確に上だな」と実感できることとなった。

 そんなボクスターとケイマンのGTS4.0に唯一足りないものがあるとすれば、それは2ペダル式のトランスミッション。しかし、それも「鋭意開発中で年内には追加設定の予定」というから、もはや完全無敵と言うしかない“6気筒のGTS”なのである。

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April 03, 2020 at 05:00AM
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