マツダ渾身の次世代パワーユニットのスカイアクティブXがマツダ3、CX-30に搭載して発売されている。
そのポテンシャルの高さについてはいろいろなメディアでも取り上げられているが、ユーザーはどのように受け止めているのだろうか。
クルマ界はこれまでも画期的だったり、すばらしいポテンシャルを持っていながらも短命に終わった技術もある。
マツダのスカイアクティブXには期待感が高まるが、スカイアクティブXの評判と今後の展開について渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:MAZDA、池之平昌信、奥隅圭之、平野陽
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スカイアクティブXは画期的な新エンジン
今のマツダ車(OEMを除く)は「スカイアクティブ」という技術シリーズによって構成される。この中でも特に注目されるのがスカイアクティブXだ。
スカイアクティブXは、マツダの新世代エンジンに位置付けられる。低燃費で二酸化炭素の排出量も少なく、動力性能に余裕のあるエンジンを目指した。
直列4気筒の2Lで、火花点火制御圧縮着火方式を使うことが一番の特徴だ。
そのほかにも先進技術が豊富で、エアーサプライシステムと呼ばれるスーパーチャージャー(過給器)、マイルドハイブリッドシステム、ディーゼルエンジンに使われるようなパティキュレートフィルター、高燃圧噴射システムなどが備わる。
このスカイアクティブXを搭載するのは、今のところマツダ3とCX-30だ。
マツダ3に搭載されるスカイアクティブXは最高出力が180ps(6000rpm)、最大トルクは22.8kgm(3000rpm)とされ、この数値は2.3Lエンジンに匹敵する。
実際に試乗すると、最大トルクの発生回転数が低めで常用域で発揮することもあって運転がしやすい。スーパーチャージャーが効果的に作動して、1600rpm付近から過給効果を感じる。
巡航時にアクセルペダルを緩く踏み増した時など、若干のノイズと振動を感じたが、動力性能の満足度は高い。そしてスカイアクティブXのWLTCモード燃費は、2WDの18インチタイヤ装着車が17.2km/L(2WD/6速AT)だ。
ちなみに直列4気筒2Lノーマルエンジン車の各種性能は、156ps(6000rpm)/20.3kgm(4000rpm)で15.6km/L(2WD/6速AT)になる。
つまりスカイアクティブXは、ノーマルエンジンに比べて動力性能が高く、なおかつ燃費性能も優れた高効率なエンジンだ。
日本での価格差は68万円!!
ところがスカイアクティブXの売れ行きは伸び悩む。マツダ3、CX-30ともに、スカイアクティブX搭載車の販売比率は10%以下だ。
販売店に尋ねると、「マツダ3、CX-30ともに、スカイアクティブXは価格が高い。そのために売れ筋はノーマルガソリンエンジン車と、クリーンディーゼルターボ車になる」と返答された。
マツダ3の場合、2Lノーマルガソリンエンジンを搭載した20Sプロアクティブツーリングセレクションの価格は263万6741円だ。
スカイアクティブXのXプロアクティブツーリングセレクションは331万9148円だから、スカイアクティブXは2Lノーマルガソリンエンジンに比べて68万2407円高い。
同様の計算をCX-30で行うと、やはりスカイアクティブXは、2Lノーマルエンジンの価格を68万2000円上回る。
動力性能に余裕があって燃費の優れたエンジンでも、価格が68万円高いと、相当に購買意欲が強いユーザーでない限りスカイアクティブXを選ばない。
新開発ゆえのコスト増大
なぜスカイアクティブXの価格はここまで高いのか。
開発者に尋ねると、「スカイアクティブXは、エアーサプライシステムなども含めて、数々の先進機能を搭載している。従ってコストが高くなった。また新しいエンジンであることも、価格を高めた理由だ」と述べた。
クルマの価格は主に使われる部品の点数で決まるから、スーパーチャージャー、マイルドハイブリッド、パティキュレートフィルターなどを豊富に装着すれば、価格も押し上げられてしまう。
しかもスカイアクティブXは新開発エンジンだから、開発費用の負担も多い。10年前からさまざまな車種に使われているエンジンなら、すでに生産台数も膨大で償却も進んでいるが、スカイアクティブXにはこの実績がない。そのために1台当たりの開発コスト負担が増えてしまう。
クリーンディーゼルの買い得感が高い
スカイアクティブXが割高なら、マツダ3やCX-30で最も買い得なエンジンはどれか。機能と価格のバランスで見ると、1.8Lクリーンディーゼルターボがベストだ。価格はマツダ3XDプロアクティブツーリングセレクションが291万1741円になる。
2Lノーマルガソリンエンジンの20Sプロアクティブツーリングセレクションに比べると27万5000円高いが、スカイアクティブXのXプロアクティブツーリングセレクションに比べると40万7407円安い。
そしてディーゼルの最高出力は116ps(4000rpm)、最大トルクは27.5kgm(1600~2600rpm)だ。最高出力の数値は低いが、最大トルクはディーゼルとあって余裕がある。2Lノーマルガソリンエンジンの20.3kgm、スカイアクティブXの22.8kgmを大幅に上回る。
またマツダ3のディーゼルは、WLTCモード燃費が19.8km/L(2WD/6速AT)だから、スカイアクティブXの17.2km/Lと比べても優れている。しかもディーゼルが使う軽油は、価格(正確には軽油に含まれる税金)が安い。
新型コロナウイルスの影響で原油価格が下がった今は、1L当たり120円前後だ。レギュラーガソリン価格の140円、スカイアクティブXが使うプレミアムガソリン価格の150円を大幅に下回る。
購入時に納める税額(環境性能割+自動車重量税)も異なる。
マツダ3の2WD/6速AT仕様同士で比べると、2Lノーマルガソリンエンジンの20Sプロアクティブツーリングセレクションは8万円、スカイアクティブXのXプロアクティブツーリングセレクションは9万1200円
いっぽうディーゼルのXDプロアクティブツーリングセレクションは、クリーンディーゼルがクリーンエネルギー自動車になるから非課税(0円)だ。
そうなるとディーゼルと2Lノーマルガソリンエンジンの差額(27万5000円)は、税額の違いによって19万5000円に縮まる。
この実質差額は、燃料代の節約によって6万7000kmを走ると取り戻せる(レギュラーガソリン価格を1L当たり140円・軽油価格を1L当たり120円・実用燃費をWLTCモード数値で計算)。
ガソリンエンジンには自然な吹き上がりなど、ディーゼルとは異なる魅力があり、その運転感覚は走る楽しさを重視する今のマツダ車と相性がいい。
客観的に損得勘定で判断するとディーゼルが買い得だが、好みに応じてガソリンエンジンを選ぶ余地も十分にある。ただしスカイアクティブXはあまりにも割高だ。
欧州での価格差は19万円!!
ところが海外市場では話が変わる。欧州で売られるマツダ3ファストバック・スポーツLUXの場合、2Lノーマルエンジン車の価格は2万5540ユーロ(299万円/1ユーロを117円で計算)、スカイアクティブXは2万7140ユーロ(318万円)になる。
スカイアクティブXが高いものの、差額は19万円だ。そのために欧州で売られるマツダ3とCX-30では、40%前後をスカイアクティブXが占める。
日本でも価格差が19万円なら、スカイアクティブXが売れ筋グレードになるだろう。19万円は無理としても、せめて40万円以下の上乗せに抑えたい。
仮にXプロアクティブツーリングセレクションの価格が、ノーマルエンジンの36万円アップとすれば299万6741円だ。ディーゼルで同グレードの291万1741円、2Lノーマルガソリンエンジンの263万6741円と比べても割高感は生じない。このあたりが適正価格になる。
スカイアクティブXは大量に売ってこそ意味がある
商品の価値は機能と価格のバランスで決まるから、スカイアクティブXも、機能に見合った価格に改めれば売れ行きを伸ばせる。
そして今のマツダ車はプラットフォームなどの基本設計を共通化したから、今後登場するマツダ車は、マツダ3やCX-30に準じた設計になる。そうなればスカイアクティブXも、今後登場するマツダ全車に搭載できる。
効率の優れたエンジンだから、価格を割安に抑えれば普及も進む。
スカイアクティブXは、突出した高性能エンジンではなく、環境性能にも配慮したバランス型のパワーユニットだ。大量に販売して、マツダ車の環境性能を底上げすることを目的にしている。
その使命を果たす意味でも、コスト低減を進めて、価格を抑えてほしい。今のように価格が割高では、スカイアクティブXに込められた願いを達成できない。
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April 05, 2020 at 05:00AM
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