コロナショックで自動車業界はなにを失い、なにを得たか――。モータージャーナリスト清水和夫と、レスポンス編集人の三浦和也が、アフターコロナ、withコロナの自動車のあり方について語るオンライン対談の第3回。
withコロナ時代の新しい価値の創造
清水和夫(以下、清水):いままでは(新型コロナウイルス感染前)、自動運転のコア技術である各種センサーは「クルマが自動で走るための技術」にすぎなかったわけですが、車内にいるドライバーが安全運転しているかどうかを見張るモニター(カメラ)は、人の健康状態もモニタリングすることもできるようになりました。そこで私はこれまで開発してきた自動運転技術を応用すれば、新型ウイルス予防にも、活かされるのではないかと思うようになりました。
三浦和也(以下、三浦):なるほど。自動運転レベル3や高度なレベル2ではドライバーモニタリングは必須になってきますから、そのセンサーはヘルスケアに応用できるということですね。
清水:たとえばお年寄りドライバーの脇見運転を検知するようなモニターをADAS(先進運転支援システム)は行うのですが、同時にバイタルの監視や運転動作の反応速度などを通じて健康状態も見守ってくれれば、家族は安心するじゃないですか。車両のセンサーを使ったデータと医療データと紐づければ、ヘルスケアはさらに進歩します。
話は逸れますが、7月1日に発表したプリウスの誤踏み加速抑制装置(プラス・サポート)はセンサーを使わずに、ドライバーの右足の動きのデータだけでアクセルとブレーキの踏み間違えを検知できる技術です。まさにビッグデータの時代になりましたね。
三浦:なるほど。ヘルスケアやQOL(クオリティ・オブ・ライフ)といった領域にも、いまのADASのためのデータの転用ができるとなると今後増える一方の車内のセンサー類はクルマにとっての大きな付加価値になりますね。
センサーなどADASのための部品でクルマの値段が上がってしまう背景があるなか、これらがヘルスケア機能も持つことで消費者に納得して価格上昇を受け入れてくれる理由になる。これはクルマにとって大きな飛躍だと思います。
軽自動車のエンジンはぜんぶ同じでいい
三浦:ところで、清水さんはある自動車雑誌で「軽自動車のエンジンはぜんぶ同じでいいじゃないか」と意見を述べているそうですが、その真意はどこにありますか?
清水:端的に言えば、もっと協調領域を広げないと、CASE時代に生き残れないのではと懸念しています。たとえば国内の軽自動車は、排気量660cc以下(国の規制)、ターボつけると出力は64馬力(自動車工業会自主規制)。これってもはや競争領域ではなく、協調領域ですよね。
だいぶ減ってはきましたが、それでもダイハツとスズキ、ホンダ、そして日産・三菱組が個別にエンジンをつくってます。排気量も同じ、気筒数も同じ。しかし、ボア間ピッチやボア・ストロークは各社バラバラ。そこにどんな意味があるのか、と疑問に思うのです。軽自動車のエンジンはもうぜんぶ同じでいいじゃないかと。
三浦:これは大胆な発言です。初めて聞く話で、驚いています。確かに軽自動車は日本国内のみ200万台に満たない市場で次第にメーカー数が絞られてきましたが、エンジンはまったく同じ規格で未だに4社が競ってつくっている。
清水:同じエンジンにすれば、年間190万台弱という数字は悪くない分量です。各社が共同で事業会社を立ち上げ、エンジンを共通化し、その浮いたコストで安全技術やヘルスケア領域に投資できます。いまクルマをもつユーザはボンネットを開けないし、エンジンなんて同じでいいのではないですかね?
三浦:いいのですか?“Theモータージャーナリスト”の清水さんからこういう話を聞くとは思っていませんでした。
清水:そう。「どの口でしゃべってんだ」っていわれちゃうけど。コロナショックで家にこもり、いろいろ考えさせられました。だって、EVのバッテリーとモーターってどこも一緒じゃないですか。すでに協調領域ですよね。知らないうちに共有化していて、EV時代の自動車メーカーはそれ以外の部分で差別化いくわけです。エンジン車は、まだ独自をつくることにこだわりがあるようにもみえます。
三浦:CASE時代からの視点では、まさに化石時代の話、ということですね。さまざまな動力性能やキャラクターが商品価値になる登録車ならばまだしも、隅々まで規格に縛られどんぐりの背比べになった軽自動車のエンジンならば、協調領域にという考え方もあるかもしれません。
内燃機関は協調領域で
三浦:振り返るに、この10年の燃費競争は激しかったですね。不正事件もありました。いまやハイブリッド技術もありで上位は実燃費20km/リットル以上のハイレベルです。
清水:そう、いままでは競争領域でよかった。でも10年20年と経って、同じ領域でいいんですかと。どの自動車メーカーも、新しい技術を開発するためにコストをかけたい。だからこれまで競争領域だったところを、協調領域に変えていくことが大事だと思います。そして互いに競争する領域は新しい分野にシフトする。そんなチャレンジが必要ではないでしょうか?
三浦:たとえばボッシュなどの欧州系メガサプライヤーは「現行EURO6次のCO2排出規制にはもう内燃機関では対応させるつもりはない」とも囁かれています。サプライヤーにとっては内燃機関の進化にかけるリソースは割に合わなくなりつつあるということでしょうか。
清水:そうですね。この前、トヨタ自動車の寺師茂樹副社長(当時)と話したときに、「2025年まではトヨタのTHS(トヨタ ハイブリッド システム)で欧州の燃費規制に対応できるが、それ以降は、トヨタのTHSでも無理なので、バッテリーEVに向かわざるをえないと言っていました。
三浦:次の10年はパリ協定(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をする)が自動車産業に大きくのしかかってくるわけですね。
清水:そうすると、年率7%ずつCAFE(企業別平均燃費基準)の燃費を上げていかなければならない。これはとてもじゃないけど、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンじゃ無理ってなりますよね。トランプ大統領などはパリ協定を否定しますが、今回の新型コロナウイルス問題の背景も、温暖化で数百年前の凍土が解けて、細菌やウイルスが復活したり、生態系のバランスが崩れた結果だともいわれてます。
三浦:自動車と気候変動という関係は、逃れられない事実だし、課題です。環境変化は食糧危機や水の問題なども起こしつつあります。電動化により環境汚染や破壊の汚名を削ぎ、自動運転技術により死亡事故から開放された自動車産業の次は眩しいステージが待っていると思います。
清水:生死を分けるコロナで健康やQOLの大切さを思い知りました。この領域でもクルマはもっと価値を提供できる余地があるはず。デンソーなどはもともとエアコンなどをつくるメーカーですから、飛沫の動きなどは緻密に把握してると思います。新幹線や旅客機は、空調で客室内の空気を外に出しているけど、クルマのなかは燃費のためか空気が循環しちゃうモードが健在です。そこにもまだ新しい技術が入り込む余地がありますよね。いろいろな可能性があることは間違いない。
トヨタ実験都市 Woven City に想う
三浦:電動化パワートレーンに供給するエネルギーの話をしたいと思います。EV化の流れは再生可能エネルギーを使うということの裏返しですよね。これまでのように化石燃料でつくった電気エネルギーでは意味がない。たとえばトヨタの描く実験都市「ウーブン・シティ」(Woven City、静岡)などは、地下に水素発電所をつくるという構想ですよね。これまでトヨタはクルマのバッテリを水素に置き換えるFCVのトップランナーという見方をしていましたが、都市の電力を水素で発電するという都市インフラへの野心があったことに驚きました。
清水:自然エネルギー(風力・太陽光など)で電気を作り、それで水を電気分解して水素を作るわけです。水素は電気と違い、保存が効く、遠くに運搬できる。自然エネルギーを使いやすくする2次エネルギーとして活躍すると思います。
三浦:バッテリーやモーターなどクルマのパワートレーンはたとえ汎用部品をつかったとしても、さらに上流の都市エネルギー供給に関わってゆく。このあたりが非常に新鮮に思えました。そこで、自動車産業がエネルギー産業に乗り入れるという流れは、清水さんはどのように感じますか?
清水:ぼくは昔から、エネルギーを作る側と、エネルギーを使う側がもっと近づいてもいいと思っています。これまでの自動車産業界は、プラントとかエネルギーの専門家を抱えていないんですよね。自動車産業はものづくりとその販売に徹し、エネルギーを使う側だけにとどまっていました。分かりやすくいうと、自動車技術会という学会がありますが、エネルギー分野の学会ともっと近づいてもよいと思います。
三浦:産業が近づくためにはアカデミー分野での交流も密にしないとということですね。
清水:はい。とくに水素はどうやってつくるか、どうやって運ぶかという議論が重要です。トヨタは実験都市ウーブン・シティで水素インフラを整備するという強烈なビジョンを示しました。循環型社会を世界に先駆けてトヨタが示すというシナリオが、トヨタのハイブリッド戦略の次にある骨太の戦略だと思います。
三浦:なるほど。バッテリーは素材技術ですが燃料電池は加工技術ですから、ものづくり力を活かした水素発電の技術を武器に、都市のモビリティとエネルギーに密接に関わることができる。当然ハーモナイズするためには情報やデータの連携も必須になりますね。
清水:我が家は家庭用燃料電池(1kW)を2005年から取り入れていてます。深夜発電すると朝60度のお湯が200リットルできるんですね。燃料電池は電気と熱と水を出す。冬でもお湯で洗濯できると主婦は喜んでいます。家庭では熱をお湯として使えるのでエネルギー効率は抜群に良くなります。
FCVとしても都市のエネルギーと密接に連携する絵も描いていると思います。ホンダは家庭の太陽光発電システムで水素をつくりだして、その水素を圧縮してクルマに充てんするというシステムも研究しています。系統電力に頼らない水素で走るクルマの出力は120kwぐらいなので、災害時などは約100世帯ぶんの電力を供給できそうです。
三浦:これからの電動車時代。クルマを発電機やエネルギー貯蔵庫として活用するV2Hの技術は、東日本大震災などたびたび災害に痛めつけられる日本では、欧米よりも10年は先を行ってますね。自動車産業とエネルギー産業の結びつきの素地だと思います。
清水:最後にもうひとつ私が注目しているのは、石炭発電の可能性です。仮に石炭発電で出るCO2をトラップする技術が進化すれば、石炭発電で電気をつくれる。たとえばCCS(Carbon Capture and Storage)。日本政府は川崎重工業といっしょに、オーストラリアに埋蔵している褐炭(低品位石炭)を使って電気をつくって、そこで出たCO2はCCSでトラップしてタスマニア海に埋めるというプランも存在します。で、そこで生まれた電気で液体水素をつくって、日本へ船で運ぶのです。
三浦:日本も中国もインドも、アジアはまだ石炭発電に頼る割合が多く、欧州の環境団体などから非難されています。このような技術が確立すればアジアのエネルギーセキュリティにも貢献でき、結果的に地域平和をもたらす技術だと思います。
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July 07, 2020 at 12:00PM
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【清水和夫のコロナ考 第3回】「軽自動車のエンジンはぜんぶ同じでいい」競争と協調、エネルギーを軸に - レスポンス
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