Friday, December 4, 2020

ドコモの激安「ahamo」で携帯業界に激震も、“料金プラン”扱いには疑問 - ITmedia

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 政府の意向を受け、UQ mobileやY!mobileといったサブブランドに20GBプランを用意するKDDIとソフトバンクに対し、ドコモが打ち出したのは、メインブランドの“新料金プラン”だった。同社は12月4日に、若者をメインターゲットに据えた「ahamo(アハモ)」を発表。料金は、20GBのデータ容量に5分間の通話定額が付いて月額2980円(税別、以下同)と、他社より低い水準の料金を打ち出した。ドコモが最安料金を打ち出したことで、業界には激震が走っている。

ahamo 20GBで2980円の超低価格を打ち出した「ahamo」。提供開始は3月を予定する

デジタルネイティブに向けた“新料金プラン”のahamoで激安料金を打ち出したドコモ

 ahamoは、いわゆるデジタルネイティブ世代に向けた、新料金プランだ。ドコモは、従来の「ギガホ」や「ギガライト」を「プレミア」というくくりに位置付けし直し、それとは別建ての料金ブランドとして、ahamoを発表した。料金プランと銘打たれているものの、サービス内容まで大きく異なるため、実態としては他社のサブブランドに近い。「システムが間に合わなかった」(代表取締役社長 井伊基之氏)ため、ドコモからの移行も当初はMNP扱いになってしまうが、手数料などは無料だ。

ahamo 料金プランを3つのコンセプトに分け、新プランとして投入する
ahamo システム開発の遅れから、当初はドコモ内のプラン変更でもMNP扱いになるという。なぜ「MNPとしてなら3月に間に合うのか」は説明されなかったが、恐らくサブブランドにすることを想定していたとみられる

 料金は2980円。ここには、20GBのデータ通信量や5分までの音声通話定額も含まれる。20GBを超えた際には速度制限がかかり、1Mbpsでの通信になるが、1GBあたり500円で高速データ通信容量を追加できる。音声定額の時間制限がなくなる「かけ放題オプション」は、1000円で追加可能だ。さらに国際ローミングも、この容量範囲内なら無料で利用できる。対象となる国や地域は82と、従来の「パケットパック海外オプション」の200より少ないが、恐らくこれは、接続料の安いキャリアに絞ったためだろう。

ahamo
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ahamo 料金は2980円。ここに20GBのデータや、5分以内の通話定額が含まれる
ahamo 国際ローミングも、国や地域を絞り込んで無料化した

 各種手数料も無料化した。新規契約事務手数料、機種変更手数料、MNP転出手数料は全て撤廃されており、ユーザーが気軽に契約できる。受け付けはオンラインに限定。契約後の各種手続きも、原則としてWebや専用アプリで行う仕組みだ。ショップなどのリアルな場は活用せず、オンラインに特化したのも、デジタルネイティブ世代向けをうたう理由だ。同時に、オンラインなら、代理店であるドコモショップを介す必要がなくなり、コストダウンにつながる。2980円という低料金を実現するには、これも欠かせない要素だ。

 dアカウントや、それにひも付くドコモの各種サービスは利用できるが、その他のサービスも、従来のプランと比べて簡素化されている。キャリアメールがなくなるのが、その1つ。ドコモの料金プランの1つとされているが、ファミリー割引のグループからは外れる他、ドコモ光とのセット割も提供されない。実態はサブブランドに近いと述べたのはそのためで、単なる料金やデータ容量の違いだけでなく、サービス内容にも深く踏み込んでデジタルネイティブ世代に向けて再整理したのがahamoといえる。

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他社比較でも優位性のある料金プラン、投入の狙いは若年層の獲得にあり

 20GBに、5分の音声定額が付いて2980円という料金水準は、大手キャリアのメインプランとしては“激安”だ。しかも、5Gまで使えて国際ローミングは無料だ。他社のサブブランドはおろか、MVNOとの比較でも優位性がある料金プランといえる。井伊氏も、「競争戦略でこの料金をつけたが、少なくとも他社に勝てる価格だ」と自信をのぞかせた。

ahamo 「他社に勝てる戦略」と自信をのぞかせた井伊社長

 実際、10月にKDDIが発表したUQ mobileの「スマホプランV」は、20GBで料金が3980円と、ahamoより1000円高い上に、音声通話定額は付かない。ソフトバンクがY!mobile向けのプランとして発表した「シンプル20」は、10分間の音声通話定額が付くものの、20GBで料金は4480円になり、ドコモのahamoより1500円高くなる。

ahamo UQ mobileの20GBプランは3980円で、音声通話定額は付かない
ahamo Y!mobileは10分間の通話定額が付くものの、料金は4480円とさらに高い

 MNOでは、楽天モバイルの「UN-LIMIT V」がahamoと同額の2980円で、データ通信は使い放題と、唯一スペック上はドコモをリードしているものの、エリアには大きな開きがある。楽天モバイルはユーザーのデータ通信量が多く、他キャリア平均の2倍というが、現状では15GB前後といったところ。“ドコモ品質”のエリアや速度で20GB使えて価格が同じなら、あえて新興キャリアの楽天モバイルを選ぶ理由は少なくなる。

ahamo 楽天モバイルの2020年度第3四半期決算説明会の資料より。楽天モバイルユーザーの利用データ量は他キャリアの2倍としており、他のMNOの平均値は、総務省が2020年3月に公表している「我が国の移動通信トラヒックの現状」で約7GBとされている。つまりその2倍の14〜15GB程度が楽天モバイルの平均利用データ量であることが分かる
ahamo 楽天モバイルは同額の2980円で、データ容量は無制限。ただし、エリアはドコモと比べて大きく見劣りする

 MVNOも、例えばIIJのIIJmioは、12GBの「ファミリーシェアプラン」が音声通話付きで3260円で、容量、価格ともにドコモのahamoには及んでいない。mineoには20GBプランが用意されているが、こちらの価格はドコモ回線を使うDプランで4680円と、ドコモより1700円高く、音声通話定額が付かない点も差がある。

 ahamoを投入した背景には、20代のユーザーを取り逃していたドコモの焦りがある。井伊氏は「ahamoは中容量の若いお客さま、具体的には20代の世代がターゲットになるが、当社はこの層に大変弱い。他社にどんどん取られているし、そこにピッタリのプランがなかった」(同)と話す。

ahamo ターゲットはデジタルネイティブ世代の20代で、同世代の若手社員がプラン内容を検討したという

 確かに、ドコモは平均トラフィックが他社に比べて低い。2019年4月にギガライトを発表した際には、実に4割ものスマートフォンユーザーが、1GB未満の最低料金で済むことが明かされていた。データ使用量の多い、若年層のユーザーを取りこぼしていなければ、この割合はもっと低くなっていたはずだ。井伊氏が「ギガホ、ギガライトで申し上げると、大層の方が低容量」と語っていたのも、それを裏付ける。

 若年層の獲得が進まないと、ドコモユーザーの人口ピラミッドがいびつな形になる。低容量のユーザーだけが大量に残ることになれば、将来的に、ドコモの収益性は悪化する。「緊急的にでも20代の方を取り戻さないと、われわれの10年後、20年後にそこだけが低くなってしまう」(同)ことに対し、危機感を持っていたというわけだ。政府からの要請で新設したかのように見える20GBプランだが、「ドコモにとって切実な競争戦略上の打ち手」(同)だったともいえそうだ。

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ドコモ内での移行は限定的か? “料金プラン扱い”が残した課題

 このユーザー層を踏まえると、ahamoに移行する既存のドコモユーザーは、限定的になることが分かる。現状でギガホを契約しているユーザーにとって、20GBだと物足りない。逆にギガライトのユーザーは、「みんなドコモ割」を使えば1980円で済むユーザーが多く、ahamoに移行すると容量は増えるが、料金は上がってしまう。こうしたユーザーは店頭でのサポートを必要とするケースが多く、受け皿がオンラインだけのahamoとは相性も悪い。その意味で、ahamoは他社からユーザーを奪う武器になりそうだ。

ahamo 低容量のユーザーはギガライトの方が安くなるため、無理に移る必要はなさそうだ

 一方で、ギガホで容量が大幅に余っていたり、ギガライトで上限に近い容量を使っていたりすると、サポートさえオンラインでよければ、ahamoに移行するのが最適解になる。こうしたユーザーが増えると、ドコモの収益に与えるインパクトは増加する。そのため、ギガホとギガライトも、ahamoの水準に合わせた見直しが必要になる。井伊氏によると、「プレミアと位置付ける既存の料金プランも、5Gの利用促進に向け、シンプルかつお得な新しい料金に変えていく」といい、矢継ぎ早に値下げに打って出るようだ。

ahamo 井伊氏は、既存プランであるギガホやギガライトなどの見直しも表明した

 ただ、ahamoを料金プラン扱いにしたことは、禍根を残すかもしれない。政府がメインブランドでの値下げを強烈に要望していたことを受けてか、ドコモは、サブブランドではなく、あくまで料金プランという体裁にこだわった。プレスリリースからは“ブランド”の4文字を排除する徹底ぶり。発表会では、うっかりブランドと呼んでしまったシーンもあったが、井伊氏は「決してサブブランドありきだったわけではない」と強調する。

ahamo プレスリリースからは、ブランドという文字を完全に排除した

 結果として、オンライン限定というコンセプトは置き去りになり、2980円という金額や、20GBというデータ容量だけが独り歩きしてしまう恐れがある。ドコモのブランドを冠している以上、ドコモショップにサポートを求めるユーザーは必ず出てくる。井伊氏も、「そのようなことは起きうると考えている」と語る。こうしたケースが増えると、ドコモショップにとって重荷になりかねない。井伊氏は「ダメですという対応はない」と語っていたが、そうであれば、店頭サポートの有料化など、何らかの仕組み作りは必要になりそうだ。

 販売する端末が異なることにも疑問が残った。ahamoがサブブランドであれば別だが、同じドコモ内で、選ぶ料金プランによって購入できる端末が分かれてしまうのは、直感的に理解しづらい。もし、iPhoneのような人気モデルがahamoで購入できないとなると、早々に“プラン変更”してしまったユーザーは「だまされた」と感じてしまうはずだ。料金プランによって購入できる端末に差が出てしまうのは、分離プランの原則にも逆行する恐れがある。メインブランドでの値下げを求めた政府の無理難題に対する苦肉の策にも見えたが、そのために理解がしづらくなっているのも事実。ユーザーに対しては、今まで以上に丁寧な説明が求められそうだ。

ahamo ahamo端末をそろえるというが、料金プランによって購入できる端末が異なるのは混乱を招きそうだ

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