航空会社のスターフライヤー(北九州市)が9月、廃棄予定だったタービンブレードと呼ばれるエンジン部品を自社サイトで売り出した。同社だけではない。調べてみると、ここ1、2年、国内の航空各社が相次いで廃棄部品の一般向け販売に乗り出していた。それも操縦かんやシート、計器類など、従来ならばめったに出回らなかった本格的かつマニアックなものも多数含まれる。何が起きているのか。
タービンブレードはエンジン内部に無数に並ぶ羽根状の部品。スターフライヤーが販売するのは、HPTブレード(高圧タービンブレード)と呼ばれるもので、耐用年数がきたため、2021年夏にエアバスA320のエンジンから取り出された。一つの大きさは高さ8センチ、幅4・3センチ、厚さ2・7センチ。インテリアとして飾れるように台座とアクリル製のケースを付け、9月20日から3万8000円で売り出したところ、これまでに15個売れた。
高温の燃料ガスを浴びながら、分速1万回転超の過酷な環境に耐えられるように作られたタービンブレードは技術の結晶だ。興味がない人には単なる金属片にしか見えないが、各地の空港などで時折開催される、「ジャンク市」と呼ばれる中古部品の販売イベントでも人気が高く、スターフライヤー経営戦略部の山口正樹シニアマネージャー(47)は「高熱で焼け焦げた色なども魅力なのかもしれません。私たちも最初は本当に売れるんだろうかと思ったのですが」と語る。
全日空グループはさらに本格的だ。全日空商事が21年4~6月に販売したのは①スラストレバー(コックピットに装備されている燃料調整用のレバー)②操縦かん③コックピットパネル(コックピットに配置したスイッチやレバー類)④モックアップシート(機能性や快適性の検証、新シートお披露目用などに使われ実際には空を飛んでいないシート)――の4種類計20点。22万(コックピットパネル)~120万円(スラストレバー)と高額だが、いずれも抽選になった。予想以上の人気から、同社は21年9月、ネットオークションサイト「ヤフオク!」での部品販売も始めた。
日本航空(JAL)も21年11月以降、クラスJ用の未使用のシート(70万円)や、客室の仕様変更で不要になったカート(15万8000円)、収納ボックス(13万8000円)などを相次ぎ販売。中でも未使用シートの人気は高く、当初予定の13脚から27脚に増やした。
商品化したのは大型部品だけでない。JALエンジニアリングは22年1~8月、羽田空港のカプセル自動販売機(1回500円)で、整備士が使う「操作禁止タグ」やボルト、読書灯のカバーといった小さな部品を4回に分けて販売。計1950個が各回数日以内になくなる人気で、今後も定期的に販売予定だ。
廃棄部品を再利用した身の回りのグッズ製作にも力を入れており、JALエンジニアリングが21年10月に1000個限定で発売した、ライフベストから作ったポーチはオンライン販売を一時停止せざるを得ないほど注文が殺到。現在は第2弾のサコッシュ(携帯用のミニバッグ、7700円)を販売中だ。この他、シートベルトからキーホルダーを、シートカバーからペンケースなどを作り、百貨店で限定販売した。
それにしても、航空各社が一般向けの部品販売に力を入れるようになったのはなぜなのか。一つ目のキーワードがSDGs(持続可能な開発目標)だ。
日本航空の場合、年間約2000着のライフベストが定期交換のため、使用されないまま廃棄されてきた。厳しい安全基準がある航空機部品という特性上、一定の頻度で交換せざるを得ないが、航空機以外では十分に使用できる部品や素材も多い。同社は「SDGsへの取り組みが重要視される中、航空機部品に新たな命を与えることで廃棄物の削減を進めている」と説明する。
もう一つのキーワードが新型コロナウイルスだ。航空業界はコロナ禍で打撃を受けており、ある航空会社の担当者は「少しでも収入源を増やしたかった」、別の航空会社の担当者は「退役させざるを得なくなった機体もあり、部品の活用を考えた」と明かす。日本航空が未使用のシートを販売することになったのも、改修して使用予定だった機体が退役となったからだ。
航空部品を手に入れたいファンにとっては、従来から「ジャンク市」が一般的で、それは今も変わっていない。中でも1990年に始まり、毎年3月と9月に開催される航空科学博物館(千葉県芝山町)のジャンク市は有名で、今年9月10、11日には2日間で約2600人が来場。値段も数百円から数万円程度と手ごろで、今年最も高額だったのは35万円のコックピットパネルだった。ただ、関係者によると、これまでは中古部品の販売に積極的でなかった国内の航空会社の部品がこうしたジャンク市に出品されることはほとんどなく、同博物館も海外の航空会社の部品を扱うアメリカの会社から仕入れている。
博物館企画課の秋葉希(のぞむ)課長代理(36)は「航空ファンの分母は鉄道ファンほどはないが、熱狂的なマニアも多い」とした上で、国内の航空各社が相次いで高額の部品を販売するようになったことについて「どうしてもほしい人にとって選択肢が広がるのではないか」と話す。【井上俊樹】
からの記事と詳細 ( 操縦かんにシート、エンジン部品… 航空部品の出品が相次ぐ理由 - 毎日新聞 - 毎日新聞 )
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