PCエンジンの時代は、パソコン版のタイトルがある程度の人気を博してコンシューマ向けに移植されるという例も多かった。その代表的な1本が、今回紹介するPCエンジン版「イースI・II」だ。
パソコン版から始まった「イース」シリーズのうち、ストーリーが直結している「イースI」と「イースII」の2本のタイトルを1本にまとめただけでも贅沢な仕様なのに、さらにCD-ROM2ならではのアニメーションを活用したビジュアル強化、音声機能をフル活用し、登場キャラクターのセリフをゴージャスな声優さんたちに演じてもらう、当時の声優好きにとっては大変ありがたい移植作品となっている。
古典にして完成形のアクションRPG
「イースI」はパソコン版(PC88用)が1987年にリリースされたアクションRPGだ。2Dの見下し体当たり型としては完成形の1つとも言える。見下ろし視点のフィールドを主人公アドル・クリスティンを操作して街や森、野原や洞窟、神殿などを冒険する。敵との戦闘はシンプルにそのまま体当たり。ボタン操作は特に不要で、そのまま上下左右から敵に接触することでダメージを与える。
RPGとしての成長要素もあり、敵を倒して経験値を稼ぐことができるほか、特定のイベントをクリアしても経験値が獲得できる。こうして一定の経験値を稼ぐことでレベルが上がり、HPや攻撃力などのステータスが強化されていく。
本作ではレベルが敵との戦闘において重要な位置を占める。というのもシンプルな体当たりのみなので、自分より高レベルの敵が相手だと1度の接触で大ダメージを受けてしまうため、そのままだとあっさりやられてしまうのだ。
そのため、強敵との戦いにおいては装備の見直しや、レベル上げ、体力回復などが重要になってくる。特に装備については武器や防具とは別に、魔力を秘めた様々な効果を発揮する指輪を装着することができるので、この指輪を状況に応じて付け替えることで、アドルをフォローできる。
フィールドは日の当たる場所であれば、敵と接触せずにじっとしていると体力が自動で回復するので、強敵相手の時はフィールドの自動回復で体力を戻しながら戦ったり、といった作戦もアリだ。
さらに見下ろし体当たり型アクションRPGの特徴の1つとして、敵のキャラと自分のキャラの位置を半分だけずらした状態で接触すると、こちらはダメージを受けずに敵にのみダメージが与えられる現象「半キャラずらし」が使えるシステムもあり、「イースI・II」でもこの技は活用可能だ。
とはいうものの、敵も黙って半キャラずらされたままやられるヤツばかりではなく、接触時に位置を戻そうとしてくる敵も多いため、調子に乗って半キャラずらしで攻撃しまくってるつもりが、気が付くと正面攻撃になっていて、ダメージをくらって即死といった事も多々あるので、要注意だ。
フィールド内の要所には巨大サイズのボスキャラがこちらを待ち構えており、こうしたボスキャラ相手では、敵の仕掛ける様々なギミックをかわしながら、敵の弱点を攻撃して倒す必要があるなど、戦略性も重要になる。特に「イースI」では体当たりしか攻撃手段がないため、敵の行動パターンを勉強して攻略の動作を検討したり、レベルをさらに上げて強化したり、指輪の選択などを工夫しながら、ボスを撃退して先へと進めていく。
「イースII」は魔法が解禁! ファイヤーの魔法が圧倒的強さ!
「イースII」は、「イースI」の続編であり続きのストーリーである。前述のようなシステムは基本的には変わらないが、「イースI」と決定的に異なるのは、「イースII」では物語の展開で途中から魔法が使えるようになる。魔法はとある条件を整えた後に魔法の杖を入手することで、その杖ごとに宿った異なる魔法が使える。
ストーリー序盤のうちから手に入る「ファイヤー」の魔法は見下ろし視点のアクションRPGにおいて、正面に魔法の火の弾が飛ぶという非常に強力な攻撃魔法であり、いきなり最強魔法が手に入った感もある。しかも消費MPが非常に少なく、普通に使っている限りはそう簡単にMPは尽きないので、体当たりのアクションRPGからファイヤー弾による遠距離攻撃のアクションRPGになるのだ。
ストーリー後半では、このファイヤーの魔法に敵の追尾機能を付加するアイテムが登場するなど、もう圧倒的強さとなっていくため、手が付けられなくなる……かと思いきや、道中では魔法が使えなくなる仕掛けが用意されたり、そもそも終盤のボス戦ではファイヤーの魔法が効かなかったりなど、きちんと考えられているのがわかる。
PCエンジン版「イースI・II」は1989年発売で、各社の8bitパソコン版と比べても後発作品のため、ゲームとしてのバランス調整がしっかりしていて、ストーリーの整合性も取れており、全体的に親切設計で遊びやすい印象だ。それでいて肝となるボス戦の難易度の高さはしっかり引き継がれており、苦戦するボスたちの難易度はあまり下がっていないため、やりごたえもしっかり残っている。
何より道中のデモや会話に音声が追加されたことで、物語への理解がより深まるようになっており、ゲームとして楽しみつつ、ストーリーを存分に満喫できる作品として仕上がっているので、近年リリースされた「イース」の新作をプレイした人で、まだ「イースI・II」を未プレイの方には是非お勧めしたい仕上がりだ。
海外版「Ys book I&II」は英語音声で収録
最後に今回「PCエンジン mini」に収録されている海外版「Ys book I&II」についても紹介しておこう。こちらは海外版の「イースI・II」で、画面上の表示メッセージが全て英語となり、各キャラクターのボイスが英語音声に変更されている。
最初の出だしのところを軽くプレイしてみたが、動きなどについては日本語版と遜色なく普通に楽しめる。音声が英語になることでゲームの雰囲気が変わるのが面白いので、ストーリーを把握している人は英語版でプレイして音声の違いを確認してみるのも面白そうだ。
「イースI」と「イースII」の繋ぎが残念
ここからはPC88版などの8bitパソコン版で本作を知る筆者が個人的に残念に感じたポイントだ。本当に1か所だけだ。PCエンジン版「イースI・II」は名前の通り、「イースI」と「イースII」がセットになっており、ストーリー上の繋がりもある事から、タイトルでどちらかを選んでプレイするといった形ではなく、あくまでも2つのソフトが1つになった状態だ。そのため、PCエンジン版ではイースIのラスボス撃破後のイベントを1つ終えると、そのまま「イースII」のオープニングが始まる作りになっている。ここの急な繋ぎが本当に残念なのだ。
というのもPC88版「イースI」はラスボス撃破後のイベントのあと、「イースI」のエンディングとして、その後のアドルの心情や、現場の状況の変化についての情報がテキストと1枚の画像で描かれている。このテキストがスクロールするバックに流れてくる「THE MORNING GROW」という曲がすごくいいのだ。
曲について簡単に説明すると、ラスボスを倒した後だというのにちょっと悲壮感の漂う音調で、若干こちらの心を不安にさせる出だしで曲は始まる。実際のところ、PC88版「イースI」のラストはむしろそこから新たな物語が始まる、という流れになっているため、その不安な気持ちが煽られる感覚なのだ。一方で曲の後半はそんな不安なプレーヤーをなだめ、鼓舞するように盛り上がりをみせながらも、曲は静かに終わり、テキストのスクロールの最後には「THE END」の文字が出る。
こうした一連の流れの後に、スタッフロールが開始されると、雰囲気は一転して明るい曲調の「SEE YOU AGAIN」がかかり出す。この曲はカーテンコールのような雰囲気で、出演者やスタッフ一同が登場してこちらに会釈をしてくれているような、今回の物語はここで一旦一区切りですよ、というエンディングの雰囲気が感じられる楽曲で、本作「イースI・II」でも最後のスタッフロールにはこの曲が流れてゲームプレイを締めくくる。
それだけに、PCエンジン版「イースI」のラストと「イースII」のOPまでの間はあまりにも余韻に浸る時間がなさすぎるのだ。せめて「THE MORNING GROW」のかかる時間だけでも、ラスボスに勝利した余韻に浸らせてほしかったし、できることなら、パソコン版「イースI」のラストに流れるテキストを映像で見せてほしかった。PCエンジン版全体の流れを考えると、「イースI」のエンディング相当の映像が入っていれば、完璧だったと感じられるだけに、その点が非常に残念なのだ。
なお、PCエンジン版「イースI・II」のサウンドは全てがPCエンジン向けのアレンジバージョンとなっている。これには好みが別れるところだが、PCエンジンのサウンド性能を遺憾なく発揮したいい音だと思う。個人的にはPC88版のサントラが最高なのだが、ここではその発言は控えておこう。
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March 13, 2020 at 10:00PM
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