Monday, November 16, 2020

内燃機関超基礎講座 | 世界最強のディーゼルエンジン:アウディのル・マン用V12ディーゼル - MotorFan[モーターファン]

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2000年から2005年の6年間で5回も伝統のル・マン24時間を制したアウディは、優れた実績を誇る3.6ℓ・V8直噴ガソリンエンジンをあっさりと捨て 、2006年から新開発の5.5ℓ・V12ディーゼルエンジンにスイッチした。なぜ5.5ℓ、なぜV型12気筒なのか 。開発の背景と経緯をまとめた。
TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO:AUDI
*本記事は2008年6月に執筆したものです

ル・マン24時間レースは毎年6月に行なわれる。第1回の開催は1923年。コーナーのレイアウト変更やシケインの設置など、いくつかの変更は受けているが、1周が約13.5kmになってから70年以上になる。24時間でどれだけ長い距離を走れるかを競うルールに変わりはないが、耐久レースでありながら、実態は24時間全力疾走を強いるスプリントレースと化しているのが近年の傾向。アウディの発表によれば、1周のうち300km/h以上の最高速に達する機会が5回、全開率は72%に達するという。

しかも、24時間で5000km超を走る。例えば、2006年の優勝マシン、F・ビエラ、E・ピッロ、M・ヴェルナーがドライブしたカーナンバー8のアウディR10は、24時間で380周、5187kmを走行。給油、ドライバー交代、タイヤ交換のために27回のピットストップを行なったが、これらの時間を含めた平均速度が215.4km/h。3人のドライバーで合計5100回のブレーキ操作、15800回のシフト操作を行なった。

ル・マン24時間で歴史上初めて優勝したアウディのディーゼルエンジンは新開発の5.5ℓ・V12で、練習走行と予選を含めて469周、6402kmを走行した。アウディの調査によれば、2006年にF1世界選手権でドライバーズチャンピオンを獲得したF・アロンソの乗ったルノーR26が、シーズン18戦を通じて走った距離が5336km。F1は原則、2レースごとにエンジンを交換する。アロンソの場合はこの年10基のエンジンを使用した。

つまり、ル・マン24時間レースはエンジンにとって過酷な環境にある、ということだ。1基のエンジンで24時間のうちにF1の年間走行距離に相当する5000km超を走りきる耐久信頼性が必要。全開率はF1でもっとも過酷なモンツァに匹敵し、昼夜の気温差が25°C以上に達することもある。アウディは3.6ℓ・V8直噴ガソリンエンジンを積んだR8で、2000年から2005年の間に5回の優勝を記録。2006年から新型ディーゼルにスイッチしたが、その理由はル・マン24時間の過酷さゆえ、だと説明する。

開発がスタートしたのは2003年の夏。排気量が5.5ℓとなったのは、レギュレーションに依存する。ル・マン・プロトタイプ(LMP1)のカテゴリーでは、排気量4ℓから5.5ℓの4サイクルガソリン、あるいはディーゼルエンジンの場合、気筒数は自由。エアリストリクターの径は排気量に関係なく、1個を装着する場合は55.9mm、2個の場合は39.9mmとなる。ターボチャージャーの最大過給圧は排気量によって異なり、4000cc~4250ccの場合は3.87bar、5250cc~5500ccは2.94barとなる。

レギュレーションと過去のレース経験を照らし合わせた結果、ル・マン24時間を制するには476kW(650ps)以上の最高出力が必要だとアウディは判断した。リッターあたり出力が100psを大きく下回っていた過去のディーゼルエンジンの実績から、排気量は5.5ℓが必要と判断。既存の5速ギヤボックスの搭載が前提だったため、最大トルクは幅広い回転域において1100Nmを発生すること。また、エンジンの重量を260kg以下に収めること。燃料消費率が低いこと。車体構造部材のひとつとして機能(ストレスマウント)させるため、モノコックやサスペンションとの結合部に高い剛性を確保すること、といった基本コンセプトが固められた。

V型なのは当然として、8気筒、10気筒、12気筒を比較検討した結果、12気筒に落ち着いたのは、これらのコンセプトを最もバランス良く満足させたからである。V12の場合は全長で不利になるが、幅、高さの面で有利。気筒数を少なくすると1気筒あたりのピストン負荷が増えるため、V8を選択した場合は構造的な補強が必要となり、V12よりも重量が増えることが判明した。

また、車両搭載性、エンジン重心、重量などの面でもV12が最もバランスがいいと判断した。バンク角を60度とせずに90度としたのは、車体のねじれ剛性や重心位置を勘案した結果だという。

こうして、ル・マン24時間に投入するディーゼルエンジンは排気量5.5ℓ、V型12気筒ターボと決まる。この時点で、2006年のル・マン24時間レースまでに残された時間は約30ヵ月。2004年末から2005年初頭に先行開発エンジンを用い、台上テストを開始。2005年11月に走行テストに持ち込むと、2006年3月のセブリング12時間に初投入し、初勝利。そして、6月のル・マン24時間に2台のアウディR10TDIが参戦。予選を1、2番手で通過すると、2番手からスタートしたカーナンバー8が優勝、A・マクニッシュ/T・クリステンセン/R・カペッロ組のカーナンバー7が3位でフィニッシュした。

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November 17, 2020 at 08:37AM
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