Thursday, May 5, 2022

世界の先頭走るエンジン - 読売新聞オンライン

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 音速を超える衝撃波のエネルギーが、宇宙飛行の推進力となる。名古屋大学未来材料・システム研究所は、宇宙航空研究開発機構( JAXAジャクサ )と共同で、次世代のロケットエンジン「デトネーションエンジン」の開発を進めている。同研究所の笠原次郎教授(54)は「実用化されれば、人類の宇宙開発を大きく飛躍させる」と期待を込める。

 「より安全に、長時間の稼働に耐えうるものにしていく」。笠原教授は研究室のメンバーと、エンジンの改良作業を続けている。

 デトネーションエンジンの仕組みはこうだ。メタンガスと酸素の混合ガスを爆発的に燃焼させ、エンジン内部に、秒速2キロ・メートルもの燃焼を伴う衝撃波「デトネーション波」を発生させる。衝撃波は高圧の燃焼ガスを生成、それが噴き出し、ロケットの推進力となる。

 従来のエンジンは、燃料の圧縮と燃焼を別々に行っていた。デトネーションエンジンは、両者を同時に行うことで、 莫大ばくだい なエネルギーを効率よく生み出すことができる。構造も単純になり、大幅な小型化や軽量化が可能に。これまで到達できなかった天体も目指せるようになる革新的な技術だ。

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 笠原教授らは、衝撃波を一定間隔で次々と発生させる「パルスデトネーションエンジン」と、円筒構造内で衝撃波を回転させ、連続して発生させる「回転デトネーションエンジン」を組み合わせたシステムを開発。主に「回転」でロケットを飛ばし、「パルス」で姿勢の制御を行う。

 昨年7月27日には、デトネーションエンジンの宇宙飛行の実証実験に、世界で初めて成功した。JAXAが鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から、笠原教授ら開発のシステムを搭載した観測ロケット「S520」31号機を打ち上げたのだ。笠原教授はコントロールルームで、「祈るような気持ちでロケットの状態を監視していた」という。

 飛行中のエンジンの状態などを記録したデータはカプセルに入れられ、打ち上げから約40分後、奄美大島沖に着水して無事「帰還」。ヘリコプターで回収されたとの連絡をメールで受け取った笠原教授は、ホッと胸をなで下ろした。

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 チームは初回の飛行データを改良に生かし、早ければ2024年7月、再び観測ロケットによる実験を行う。初回はガス燃料を使い、回転デトネーションエンジンで6秒間、パルスデトネーションエンジンで2秒間×3回噴射させた。次回は、より長時間の飛行の実現に向け、ガス燃料より体積が小さく、大量に積載できる液体燃料に切り替える。エンジンだけでなく、燃料のタンクや供給系を一から設計し、システムの総合的な見直しを進めている。

 成功すれば、いよいよ地球周回軌道上での実証実験が見えてくる。「簡単には私たちの技術をまねすることはできない。世界の先頭を走っている」と胸を張る。

 「このシステムを搭載したロケットが、月や火星のさらに向こう側へ飛ぶようになれば。いずれは、太陽系外の惑星の探査も可能になるだろう」。ぐっと未来をたぐり寄せた手応えを胸に、笠原教授は、宇宙のかなたへ思いをはせている。(原田展)

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