Monday, December 4, 2023

マツダ『MX-30 Rotary-EV』試乗レポート〜ロータリーエンジンである必要性には疑問 - EVsmartブログ

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初のロータリーエンジン搭載PHEV

マツダ『MX-30 Rotary-EV』が発表されたとき、多くのメディアがロータリーエンジンの復活を喜んでいました。マツダと言えばロータリーエンジンというのは、ほとんど刷り込みに近い企業イメージなのでしょう。確かに、ロータリーエンジンを搭載したマツダ車のル・マン24時間レースでの優勝は衝撃的でした。

時が流れて21世紀。そんなロータリーエンジンを、マツダはプラグインハイブリッド車(PHEV)に搭載して復活させてきました。名前に「EV」と付いていますが、純粋な電気自動車(EV/BEV)ではなく、エンジンを発電にのみ使うシリーズハイブリッドです。

ロータリーエンジンは、小型軽量で高出力が得られるほか、高回転までストレスなく回るエンジンによる気持ち良いドライビング感覚などが特徴です。でもシリーズハイブリッド方式で使うエンジンは、アクセルの追従性とか高回転でもよく回るなどの特徴は必要ありません。

それをあえて使ってきたのはなぜなのか。またそんなロータリーエンジンを使ったPHEVがどんな車なのか。ちょっと意地悪な見方を含めて、興味が尽きませんでした。

11月末の快晴のある日、横浜にあるマツダのR&Dセンターを拠点に実施された試乗会に参加することができたので、そんな不思議部分を確かめてきました。

新開発の1ローターエンジン搭載

『MX-30 Rotary-EV』は、マツダがPHEVに搭載するために新開発した1ローター、排気量830ccのロータリーエンジンを搭載しています。シリーズハイブリッドなのでエンジンは発電専用です。

走行時の駆動はすべてモーターで、エンジンをどのように使うかによって、バッテリーのSOCが0%近くになるまでエンジンを使わない「EVモード」、走行状況によってエンジンを自動制御する「ノーマルモード」、設定に応じたSOCを確保することができる「チャージモード」の3種類の走行モードがあります。

ただ、このモードはモーターの出力制御とは関係がなく、よくあるスポーツモードやエコモードといった切り替えは選択肢にありません。

回生ブレーキの強弱は、ステアリングホイールに装備されたパドルでコントロールできます。切り替えは4段階で、最も弱くするとアクセルオフでコースティングになります。最も強くするとワンペダルに近い状態になりますが、停止まではいきません。

車の装備で注目なのは、1500Wを供給できるACポートが付いていることでしょう。センターコンソールの前方下と、トランクルームに、合計2つのポートがあります。インバーターのコストが高いためACがとれるEVは少ないので、ちょっと嬉しい装備かもです。

また、外部給電器や充放電機器などを利用したV2L、V2Hにも対応しています。V2Lは最大4500Wまで給電可能になっています。

EVの走りは上々

ということで、まずは試乗の感想からいってみたいと思います。ひと言で言えば、EV走行は上々なのでした。

フルにバッテリー走行をする「EVモード」では、当たり前ですがEVの走りができます。出力も申し分ないです。パドルスイッチで回生ブレーキの強弱がコントロールできるのも、個人的には好印象です。

時間の関係で、試乗したのは横浜の都市高速を周回するコースになりました。距離も短いしあまり大きな負荷がかかる道ではないのですが、それでもEV走行の気持ちよさは感じることができました。

一方で、そんなコースだったため、「ノーマルモード」でどのような時にエンジンが回るのかなど、エンジンの使い具合は確認できませんでした。ただ、「チャージモード」でどんどん発電するようにした時に、エンジンのオン/オフを確認できました。

これが結構、自然で静かなのでした。モーターと同軸でつながっているロータリーエンジンのせいなのか、始動時のショックも音も振動も、不快に感じることはありませんでした。

不思議な回生ブレーキ制御

不思議なのはパドルスイッチでの回生制御の設定でした。普通に回生力の強弱をつけるだけでなく、回生力を強めた時に、出力を抑えるようになっているのです。ちょっとわかりにくいですよね。

パドルスイッチで回生力をコントロールできる場合、一般的には、単に減速方向の回生力の強弱をコントロールできるようになっています。

ところが『MX-30 Rotary-EV』では、回生力を強くすると、アクセルを踏んだときの加速力、つまりモーター出力を抑えるようになっているのです。

『MX-30 Rotary-EV』では前述したように、よくあるエコモード、スポーツモードの設定がありません。要するにパドルスイッチで、エコモード/スポーツモードの設定のような出力制御を一緒に行っていることになるのですが、回生を強くしたままだと加速力が落ちるのは、どうもしっくりきません。

マツダの開発担当者によれば、回生を強くしたままアクセルを踏み直すと、減速力→加速力の差が大きくなり調整が難しいので、踏み出しの出力を落として加速のショックを抑えているのだそうです。

でも、回生力の強弱と出力の強弱をまとめてしまうと、加速力が必要になるたびにパドルスイッチで回生力を弱めなければいけません。なんとなく面倒です。

それならエコモードのように別のドライブモードで一定の出力特性にして、パドルスイッチは回生力の強弱だけにした方が自然に運転できるようにも思うのですが、どうなのでしょう。

このあたりは慣れの問題かもしれませんが、回生の強弱を出力特性に関連させた制御の車は筆者は見たことがないので、ちょっと奇妙な感触でした。

ところで『MX-30 Rotary-EV』のドアは、観音開きです。後席に乗ると助手席のドアを閉めるのがとても難しいのですが、乗り込むのは楽です。この形状は好みが分かれるかもしれません。

EV走行可能距離は日常使いに十分な107km

バッテリー容量は17.8kWhで、フルにEV走行をした場合の航続距離はWLTCモードで107kmです。単純計算で電費は6km/kWhなので、車重が1.8トン近くあることを考えるとそこそこの数字になっていると思えます。

充電は急速充電にも対応しています。この点については、現状の充電インフラの状況を考えると普通充電だけにしてほしいと思ってしまいます。

マツダの担当者によれば、販売時などでのユーザー教育を通して、充電インフラに負荷をかけないような使い方を薦めたい意向があるそうです。でも急速充電が可能ということは、ユーザーに急速充電を促しているように見えてしまいます。

それにユーザーからすれば、もし保有している充電カードで充電した方がガソリンより安い場合、やっぱり高速道路の急速充電を利用するのではないでしょうか。現状は、そうなっているので、急速充電対応のPHEVが出てくると不安がふくらんでしまいます。とはいえ、少々無理矢理ですが「V2Xに対応するにはチャデモの規格が必要なので、急速充電可能になってしまう」と考えればいいのかもしれません。

ハイブリッド燃費の悪さは疑問

ところで『MX-30 Rotary-EV』は、EV走行の電費が良好なのに対して、ハイブリッド燃費が15.4km/Lというのはちょっといただけません。車重が『MX-30 Rotary-EV』より230kgも重い三菱『アウトランダーPHEV』が16.6km/Lなのです。

電費を見ると、『アウトランダーPHEV』が239Wh/kmなのに対して、『MX-30 Rotary-EV』は176Wh/kmと、大きな違いがあります。それにもかかわらずハイブリッド燃費が逆転してしまうのは、エンジンの違いとしか考えられません。

ロータリーエンジンは小型軽量かつ高出力が期待できる一方で、その形状のため燃料を燃やしきるのが難しいこともあり、燃費や排ガス性状の悪さがついて回ります。スーパーカー的な使い方ならともかく、環境性能が必須の大衆車にロータリーエンジンで対応するのは困難ではないのでしょうか。

そもそもPHEVやハイブリッド車(HEV)の最大の目的は、車の熱効率、つまりエネルギー利用の効率を高めるためです。だからこそトヨタは、ハイブリッド用にアトキンソンサイクルという特殊な方式のエンジンを採用しています。

そう考えると、PHEVにロータリーエンジンを搭載するのは矛盾を感じます。PHEVに使うエンジンで、吹け上がりの良さや高回転、高出力などの特徴は優先されないからです。エンジンのために総合性能が落ちるのでは、PHEVの環境性能が台無しです。

ロータリーエンジンよりモーターをアピールしたくなる

マツダが『MX-30 Rotary-EV』にロータリーエンジンを採用した理由は、現行車のパッケージに収めるためにコンパクトさが必要だった、ということに尽きるようです。マツダの開発責任者からも、それ以上の理由は聞くことができませんでした。

でも、この話にも疑問を感じます。マツダは『MX-30 Rotary-EV』のエンジンは、EV走行を補完するものだと説明しています。日常使いなら100km以上のEV走行ができれば十分で、エンジンによる発電は遠出の時などにだけ、限定的に使うことを想定しているそうです。

そうであれば、PHEVではなくレンジエクステンダーでも良かったのではないかと思ってしまいます。そうすれば、50Lもある燃料タンクは小さくできるだろうし、その分バッテリーを増やせるだろうし、エンジンの出力も下げることができ、ロータリーエンジンにする必要性は減りそうです。

などとモヤモヤを感じてしまうことが多くて、性格がひねくれてしまいそうなのですが、読者の皆さまはどう感じるでしょうか。それに理由の一端に、もしロータリーエンジンにこだわる社内事情があるとしたら、残念なことです。それこそ、ハイブリッドシステムの意味を根底から消滅させてしまうように思うのです。

一方で、『MX-30 Rotary-EV』のモーターは台湾の『富田電機(FUKUTA ELEC. & MACH. CO., LTD.) 』と共同開発したものを採用しています。富田電機は車載用モーターなどの開発、製造を手がけていて、豊田通商も資本参加しています。

マツダは、電気自動車(EV)の『MX-30 EV』用モーターは外部調達していますが、PHEV開発にあたってはモーターを手の内に入れるため共同開発に踏み切ったそうです。この共同開発は、今後の電動化に向けてとても重要な一歩だと感じます。

ところが、この事について、マツダのプレスリリースではひと言も触れていません。理由はわかりませんが、なんだかもったいないことです。

そんなこんなの複雑な思いが残る『MX-30 Rotary-EV』なのですが、基本的なEV走行については不満は少ないし、せっかくモーター開発にも参画したのなら、もっと腰を据えてEV化を進めてほしいなあと思ったのでした。

残念ながら現行の『MX-30 EV』は、売る気があまり感じられない台数しか出ていません。今回の『MX-30 Rotary-EV』も、台数は追わない方針のようですが、欧米中の自動車大国を中心に進む電動化の波の中では「出してみた」というだけでは済まないのではないでしょうか。

『MX-30 Rotary-EV』でなぜロータリーエンジンを搭載したのか、根本的な理由はわかりませんが、将来的にマツダの喉に刺さった棘にならず、電動化の正常進化が進むことを期待したいと思います。

取材・文/木野 龍逸

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