マツダは令和5年11月、同社の象徴ともいえるロータリーエンジンを搭載し、発電機として使用するプラグインハイブリッド車「MX-30 ロータリーEV」を発売した。プラグインハイブリッド車とは、エンジンとモーターの両方で走り、外部からの給電も可能な電動車だ。なぜ車名は「EV」なのか、なぜマツダは11年ぶりにロータリーを復活させたのか-。試乗と取材で、その一端が明らかになった。
「おむすび」が回転
元年秋の東京モーターショーで一般公開されたMX-30。国内では3年にEVモデルが投入された。さらに今回、追加されたのがロータリーEV。外観は変わらないが、側面にはロータリー搭載モデルであることを示すエンブレムが付いている。
このエンブレムは三角形のおむすび型で、ロータリーの「ローター」を表している。一般的な「レシプロエンジン」はピストンが上下に動くが、ロータリーはこのローターが回転することで、車輪を回す力などを生み出す。
ロータリーはマツダが昭和42年に量産化に成功。同年にスポーツカー「コスモスポーツ」を発売して以降、「RX―7」などに搭載してきた。平成3年には自動車耐久レースのルマン24時間で搭載車が総合優勝を果たした。小型・軽量化をはかりやすく、出力が高いのが特徴。だが、燃費性能を上げるのは難しく、15年、搭載車両の生産終了につながった。
MX-30は、後部座席のドアも内側から開く、いわゆる〝観音開き〟が特徴。くしくも、現時点でロータリーを動力として使った最後のスポーツカー「RX-8」と共通している。
ロータリーEVの希望小売価格は423万5000円から。プラグインハイブリッド車なので、政府による補助金(45万円まで)を活用できるほか、東京都など自治体が支出する補助金も使える場合がある。
乗り味、まさにEV
試乗ではまず、ハンドルの左奥にある「POWER」というボタンを押す。当然ながらエンジンはかからず、電子機器の電源が静かに入るような印象だ。
パーキングブレーキをボタンで解除し、ブレーキペダルから足を離すと、スムーズに動き出す。乗り心地はまさにEVで、振動はほとんど感じられない。アクセルを踏み込むと伸びやかに加速する。車内の静粛(せいしゅく)性は高い。ハンドルの感覚はどっしりとしており、床下にリチウムイオン電池が敷き詰められているからか重心が低く、安定感がある。
車輪を動かしているのはモーターで、電気は電池から供給されていた。では、どんな時にエンジンがかかり、発電を始めるのか。一つは、高速道路などでアクセルを踏み込んだときに、急激に出力を上げるために稼働する。そのほか、設定した電池残量に応じて、発電を始める。①ノーマル②EV③チャージ-という3モードがあり、ノーマルモードでは電池残量が40%を下回ると、EVモードでは0%になるとロータリーによる発電が始まる。そしてチャージモードでは、あらかじめ設定した電池残量までEV走行を続ける。
このため、試乗でエンジンの稼働・発電を実感するには、チャージモードに切り替える必要があった。そして、設定した電池残量に達するとついに、ロータリーエンジンが〝咆哮(ほうこう)〟した。
その音は通常、車の内部から聞こえる音とは全く違うものだった。発電として使われているだけあって、露店などで見かける発電機の音に近いだろうか。快いサウンドとは言えない。ただ、これはチャージモードで電池から発電機に電力の供給手段が切り替わり、出力が上がっているためで、マツダによると、例えばノーマルモードで発電をしながら走る場合は、もっとマイルドな音になるという。
開発に携わったマツダ商品開発本部の上藤和佳子主査が、「滑らかな乗り味にすることを重視して作った」と言うように、基本的にEVのように使うことが前提だ。「ロータリーはあくまで黒子(くろこ)」(上藤氏)であることが、プラグインハイブリッド車でありながら、車名にEVと冠した理由だという。
「壁取り払う」役割
ロータリーEVには、マツダの電動車戦略の基本的な考えが反映されている。
同社の説明によると、車の所有者が平日、運転するのはほぼ100キロ未満。たまの休みの日に遠出するというのが一般的な使い方だ。電池での航続距離は107キロで、通勤や買い物などの普段使いは電池によるEV走行でこなし、遠距離のドライブは発電しながら走行することを想定している。燃費から逆算すると、フル充電・ガソリン満タンで約800キロを走破できる。これがプラグインハイブリッド車の強みだ。
一方、電池とモーターだけで走るEVには「電欠」で走れなくなる不安がつきまとう。また、MX-30のEVモデルがプラグインハイブリッド車であるロータリーEVより30万円近く高いように、電池のコストがEVの価格を押し上げている。現在の電動車を巡る状況の中で、マツダの現実的な〝解〟が、このロータリーEVだというわけだ。
中井英二執行役員は、「電動化の取り組みは加速させるが、バッテリーEVに関して、マツダはフロントランナーにならない」と言い切る。2030年までの電動化の進展を3つに分け、電池への投資も視野に入れたEVの本格導入は28(令和10)年からの第3フェーズだとしている。その頃には、電池の性能向上・コスト低下を含め、EVに関する技術が成熟するとともに、マツダの開発態勢も整うとみているようだ。
ロータリー搭載車の復活には、思わぬ効果もあった。マツダの担当者によると、所有車の整備などで販売店を訪れた顧客が次々と、ロータリーEVに「試乗したい」と要望。足もとで約8割の来店者が試乗しており、これは驚異的な比率だ。エンジンにこだわるマツダのユーザーだけに、電動車に対する心理的な〝壁〟を持っている人も多いとみられるが、「ロータリーEVへの試乗で、そうした壁が取り払われる。マツダの電動車に初めて触れる機会になっている」(同社)という。
ロータリーエンジンという重要な〝資源〟を有効活用するマツダ。もっとも、独自の電動車戦略の成否が分かるのはこれからだ。(高橋寛次)
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