Tuesday, June 8, 2021

水素エンジンの世界普及には課題 官民で環境づくりを - 日本経済新聞

misaltag.blogspot.com
日経ビジネス電子版

トヨタ自動車が水素エンジンの開発に本腰を入れた。日本の強みを生かし雇用も守る脱炭素技術として期待をかけるが、世界で普及するには様々な課題をクリアしなければならない。

5月22~23日、富士の裾野に爆音が響いた。静岡県の富士スピードウェイで開催された24時間耐久レース。ここで、自動車関係者が注視する世界初の試みが行われた。トヨタ自動車が開発した水素エンジンがレースに実戦投入されたのだ。水素だけを「燃やす燃料」として使う車両がレースに参戦するのは、世界でも例がない。

エンジンオイルが燃焼する際に、ごく微量の二酸化炭素(CO2)が生じる以外は、CO2は発生しない。カーボンニュートラル(炭素中立)に対応するため、トヨタは2016年ごろから水素エンジンの研究を強化。20年末、豊田章男社長の鶴の一声で24時間耐久レースへの参戦が決まった。

水素エンジンは普及を目指しカローラに搭載した。燃焼の仕組みは、ガソリンエンジンとほぼ同じで、多くの部品を流用できる。燃焼速度がガソリンの8倍も速いとされ、低速時の加速力が強く、アクセルに対する応答も速いため、スポーティーな走りができる。

水素燃料の供給システムは20年に発売した燃料電池車(FCV)、新型「ミライ」の技術を活用し、炭素繊維を用いたタンクを搭載する。直噴技術を生かし、エンジン内で水素を高速燃焼させる。

耐久レースに投入したのは、過酷な条件下で開発のスピードを加速するためで、「水素は爆発するので危険」という負のイメージを払拭する狙いもあった。トヨタのマスタードライバーである豊田氏も57周走行し、合計358周、1634キロメートルを完走。世界初の挑戦は成功に終わったといえそうだ。

エンジン産業の希望になるか

パワートレインがFCVより安価になる可能性があり、使用する水素もFCVほどの純度が求められない水素エンジンは、音や振動などの趣味性も含めて楽しみな技術ではある。

ただし、量産化に向けては越えるべき壁も多い。エンジンが高温になるため、出力や熱の制御が課題になる。安全面の検証も必要だ。生産時にCO2を排出しない再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」が一般に流通する見通しがまだ立たず、コストも下げる必要がある。

07年に水素エンジンを生産した独BMWは、技術とコストの壁に阻まれ軸足をFCV開発へと移した。ただ近年、欧州が水素戦略を本格化させるとともに関心が高まっている。脱炭素に向けて「全方位の開発」を旨とするトヨタは水素利用の選択肢として、エンジンの可能性を捨てなかった。

背景には内燃機関の技術と雇用を守りたい苦しい事情が透ける。電動化の波でエンジンの立場は弱いが、日本の鋳物の精度や噴射技術は世界トップレベルで、日本車の国際競争力を支えてきた。乗用車を構成する3万点の部品のうち1万点は、内燃機関に関連するとされ、エンジンが廃れれば、技術に加えてその雇用も失われる。

トヨタが水素エンジンの開発を公式に表明した4月22日、豊田氏は日本自動車工業会会長としてオンライン会見に臨み、「脱炭素イコールEV(電気自動車)化ではない」と、内燃機関の産業維持を訴えた。日本の強みを守りながら脱炭素時代を生き抜く道。その一つが水素エンジンというわけだ。

ただ、世界に売れる商品にするには、もう一つ課題がある。ハイブリッド車(HV)のようなガラパゴス化の懸念を回避することだ。欧州は、HVでトヨタに勝てないと悟るとEV化に大きくかじを切り、手厚い政策支援で市場をつくった。HVの技術がこれ以上普及しなければ、規模拡大による部品のコスト低減なども見込みづらい。トヨタは19年にHVで培った約2万3740件の特許技術の無償開放を決定した。

脱炭素市場は伸びしろが大きいだけに、各国で官が民をバックアップし、国内・域内の産業に有利な環境をつくる政策面の競争を繰り広げている。水素エンジンの普及には、水素供給インフラや関連制度の整備も不可欠。「技術」で先んじて「商い」で後れを取る日本企業の負けパターンに陥らない巧みさが求められる。

(日経ビジネス 吉岡陽)

[日経ビジネス 2021年6月7日号の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://ift.tt/3irUkyR

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 水素エンジンの世界普及には課題 官民で環境づくりを - 日本経済新聞 )
https://ift.tt/3pymqcW
Share:

0 Comments:

Post a Comment