フォルクスワーゲンの空冷エンジンが今も現役で活躍中
「モーターグライダー」なる航空機をご存じだろうか。通常の「グライダー」は動力をもたないので離陸するにはウインチや他の飛行機による曳航が必要なのに対して、離陸と上昇のためのエンジンを搭載しているタイプがモーターグライダーで、日本の法律では「動力滑空機」と分類されている。 小型飛行機とも違って、エンジンの役割が限定されること、上空に昇ったあとは滑空飛行となるため軽ければ軽い方がいいということで、モーターグライダーにはクラシックカーのエンジンを流用されていることもある。 そこで、クラシック・フォルクスワーゲンのエンジンを搭載したモーターグライダーをご紹介しよう。 【画像】空冷時代のVWエンジンを積むモーターグライダーを見る(全26枚)
離陸と上昇にだけエンジンのパワーを使い、あとは滑空
茨城県の大利根飛行場にある「日本モーターグライダークラブ」は、1971年に発足して日本に初めてモーターグライダーを導入した。以来、半世紀にわたって活動し続けていて、ライセンスの取得を目指す人への操縦練習や、ライセンス保持者への機体レンタルを行なっている飛行クラブだ。モーターグライダーを中心に、ピュアグライダーや飛行機もラインアップしている。 細長い翼で風をうけて滑空するグライダーは、競技性をつきつめるならモーター無しになるものの、曳航なしに自力で離陸と上昇を行なえるモーターグライダーは、気軽に好きなように飛行を楽しめるのが魅力だという。 実際に同乗させてもらったところ、エンジン音と振動につつまれながら滑走路を突き進み、ふわりと離陸したとたん、軽飛行機との違いを如実に感じたのだった。大きな翼で風をグイグイ受け止めて気流に乗っていく感覚だ。 「飛行機がクルマならグライダーはバイクですね」とパイロットさんが言うように、ダイレクトに風と格闘している体感が強い。ベテランのパイロットは空を見て上昇気流を読みながら飛んでいくそうで、より高高度の長時間フライトも可能になっていくのだそうだ。
温度差が激しいハードな使用環境にはシンプルでタフなエンジン
かつてドイツの「リンバッハ社」をはじめ、いくつかの会社がモーターグライダー用にフォルクスワーゲンの空冷水平対向4気筒(フラット4)エンジンを改造して供給していた。 こちらのモーターグライダーに搭載されているのは2500ccにボアアップされた仕様で、形式は不明ながら、おそらくポルシェ914用のVWエンジンがベースと思われるとのこと。 軽くて気流の影響をうけやすいグライダーの機種に積むエンジンは軽量さとコンパクトさが求められるし、地上と高空を行き来して温度変化が激しい仕様環境では、エンジン機構のシンプルさ、耐久性、さらにメンテナンス性も重要となる。そのようなシーンで、実用エンジンのベストセラーであるVWエンジンが使われていたのも納得である。そして今もなお現役というわけだ。 この機体は操縦の教習用で、左シートに機長(教習のときは教習生)、右シートに教官が座るようになっている。メーター部分の回転計や外気温計は「VDO」製で、細かい所にも当時のドイツ自動車製品との共通点を見出すことができる。
日本初のモーターグライダーにもVWエンジンが搭載
なお、日本モーターグライダークラブでは、半世紀前の発足時に最初に国内導入した機体も屋内で保存している。 この日本第一号機ではVW用の1200ccエンジンそのものを使用していて、上部に付いているオイルクーラーだけ、油温上昇を抑えるために国内で取り付けられたのだそうだ。 日本モーターグライダークラブでは一般人が体験搭乗することも可能で、目安は1時間3万円前後とのことだ。グライダーでのフライトを手軽に味わえる機会はなかなかないので、ご興味のある方は飛行場へ問い合わせてみるといいだろう。
Auto Messe Web編集部 竹内耕太
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