[イスタンブール 8日 ロイター] - トルコでは通貨リラの暴落とインフレの進行で国民の所得が目減りし、最大都市イスタンブールでは多くの市民が、わずかでも家計を節約しようと、市の提供する安いパンを買うために行列を作っている。
長らく与党・公正発展党(AKP)の地盤となってきたイスタンブールのスルタンガジ地区では、数十人が市の運営する売店でパンを買おうと待っていた。経済的に苦しくなり、ここで買うほかないという。
家族のためにパンを買ったオズカン・ケスダさん(50)は「1リラ、5リラ、10リラ、20リラといちいち数えるほど追い詰められている」と話した。
苦境の責任は政府にあるとケスダさんは考える。「20年間同じ体制だったのだから、政権が交代しなければだめだ。この地区はほとんどの人が『皇帝万歳』と言うかもしれないが、そういう時代は終わった。私と同じようにAKPに投票した人たちも困っている」という。
ラマザン・カンベイさんは家計が急激に悪化した。これまでは1週間に1000リラでやりくりする生活で、そのうち半分が食費だった。リラ暴落で1000リラはドル換算ではわずか73ドル(約8300円)にしかならず、必需品すら賄えなくなった。
「週に1000リラじゃ足りない。これは誰のせいだ」とカンベイさん。
イスタンブールのエクレム・イマムオール市長は、市の売店にできる行列は経済的な危機のみならず、政治的変化が必要だということを示していると見ている。イマムオール氏はエルドアン大統領の敵対候補と目されている人物だ。
イスタンブール市営の売店で売られているパンは価格が1.25リラ(0.09ドル)と、普通のパン屋の半分程度。需要に応じるため、1日に焼き上げる数を約2倍の150万個程度に増やした。それでも行列はなくならず、この数でも足りないという。
イマムオール氏は市庁舎で行ったインタビューで、「貧困状態は明白だ。好きでパンを買いに並んでいるわけではない」と話した。
トルコ中銀は大統領の圧力を受けて9月以降、政策金利を19%から15%に引き下げた。その後リラは11月だけで対ドルで30%ほども下落し、11月の消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は21.3%に跳ね上がった。
市当局によると、イスタンブールの生計費はこの1年間で50%急騰。家賃は71%上がり、生活必需品の多くは75-138%値上がりした。
イマムオール氏は「今の状況は単なる経済危機ではない。政治危機だということを強調したい」と述べた。
<経済的攻撃>
世論調査によると、エルドアン氏の支持率は6年ぶりの低い水準に落ち込んでおり、大統領選で敗北する可能性がある。2019年にAKPの候補を破って市長の座に就いたイマムオール氏はエルドアン氏の対立候補と言われているが、イマムオール氏自身は市長の職務に専念するだけだと話している。
エルドアン氏は、政府は国民が直面する困難に対処しており、輸出や生産、投資に力点を置く、成長重視の新たな政策を推し進めていると説明している。
4日には南東部シイルト県で演説し、「我々は、国民が日常の生活で見舞われている問題を解決するための手段を講じている」と述べ、賃金が上がり、貧しい人々の負担は軽くなるとした。
また、最近の「法外な」物価上昇は「貪欲な日和見主義者」のせいだと非難。過去3年間、政府は経済を通じた攻撃を受けてきたが、「国民は我々を理解し、支持している」と述べた。
スルタンガジ地区でパンを買った主婦のエミネ・サリ・メフメットさんは、政府は経済をむしばむ勢力に相対しており、国民の連帯を必要としていると言う。
「これは私たちの国に対して仕掛けられた戦いだ。私はそう思う」とメフメットさん。解決策は「自分たちの国を支えること。私たちの国だから」と話した。
(Mehmet Emin Caliskan記者 Daren Butler記者)
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