ヤマハ発動機が水素エンジン開発を積極化している。トヨタ自動車やデンソーなどと4輪車用エンジンを開発しているのに加え、2輪車用エンジンでも川崎重工業など国内2輪車メーカーと共同研究の検討を始めた。2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現のための一つの手段と位置付ける。50年までにラインアップをそろえ、ガソリンエンジンなどと入れ替えるために、30年までに開発のめどを付ける方針だ。(浜松・市川哲寛)
ヤマハ発は5年ほど前から水素エンジンの開発に取り組んできた。ガソリンエンジンをベースに、インジェクターやシリンダーヘッド、サージタンクなどを改良し水素への適用を図ってきた。
21年には自動車レース「スーパー耐久シリーズ」に、水素エンジンを搭載したトヨタの「カローラ」が出場した。この水素エンジンは、トヨタやデンソー、ケン・マツウラレーシングサービス(松山市)と共同開発した。
これを機に川崎重工業と2輪車用水素エンジンの共同研究の検討が始まった。スズキやホンダも参加する方針で会社の枠を超えて仲間を増やしている。「個性や得意領域が異なる各社と協力し合い、未来につなげたい」(ヤマハ発の日高祥博社長)と意気込む。
開発現場では「ガソリンの代用という消極的な動機ではなく、水素エンジンならではの特性に可能性を感じる」(AM開発技術部の担当者)と期待する。その一方で日高社長は「水素が一番難しく、開発を急ぐと間違える」と気を引き締める。水素をベースに添加物や常温液体を加えて燃焼する手法の実用化には、まだ時間がかかると見られる。
ただ、この技術を確立してノウハウを蓄積しておけば、二酸化炭素(CO2)を回収して水素と合成して製造する液体燃料「イーヒューエル」分野の取り組みに生かせる。ガソリン燃料やディーゼル燃料に混合して利用する手法を実用化できれば、カーボンニュートラル実現の選択肢を増やせる。
水素エンジンは集合排気管によるハーモニックな高周波サウンドも特徴。ヤマハ発は、動力性能だけでなく、こうした五感で感じる官能性能にも期待している。日高社長は「当社は社名に『発動機』とあり、内燃機関への強い思いとこだわりを持った会社だ」と力を込める。水素エンジンの開発を通じ、まだ見ぬ内燃機関の魅力を追求する方針だ。
日刊工業新聞社2022年1月24日
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