メルセデス電動のスポーツロードスター、SLの新型、メルセデスAMG SL43のエンジンは、2.0L直4ターボだ。SLに2.0L直4? と思うことなかれ。このエンジン、F1譲りのEEGT(エレクトリックエキゾーストガスターボチャージャー)を採用して381psを叩き出す。リッターあたり190ps以上という現代最強のM139エンジンとは?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Mercedes-AMG
AMG SL43が積むM139ユニットとは?
メルセデスAMGがエレクトリックエキゾーストガスターボチャージャー(EEGT)を発表したのは、2020年6月17日のことだった。この電気の力を利用したターボチャージャーはF1のパワーユニット由来で開発の最終段階にあり、将来的にはメルセデスAMGの市販車に搭載されることが予告されていた。
それが、2022年10月24日に国内で発表・発売されたメルセデスAMG SL 43である。EEGTはM139と呼ぶ2.0L直列4気筒エンジンに搭載される。量産車としては世界初採用だ。AMG SL 43はこのM139をフロントに縦置きに搭載し、AMGスピードシフトMCTと呼ぶ、発進デバイスにトルクコンバーターではなく湿式多板クラッチを用いた9速トランスミッションを介して後輪を駆動する。
EEGTはターボチャージャーにモーターを組み合わせたデバイスだ。ターボはタービンとコンプレッサーがセンターハウジングを介して背中合わせになった構造。エンジンから排出される排気に残るエネルギーでタービンホイールを回転させると、シャフトでつながったコンプレッサーホイールが同じ速度で高速回転し、空気を圧縮。シリンダーには自然吸気エンジンでは原理的に不可能な量の大量の空気が入るため、その空気に見合った燃料を噴くことで出力/トルクが向上する(実質的に排気量が大きくなったのと同等の効果が得られる)。
出力を高めるにはタービン/コンプレッサーを大きくすればいいが、小さな風車(かざぐるま)は息をフッと吹きかけるだけで簡単に回るのに対し、大きな風車は一所懸命息を吹きかけないと回らないのと同じで、大きなタービンを回すには大きな排気エネルギーが必要だ。そのため、アクセルペダルを踏んでいるのに力が湧いてこない、ターボラグ(応答遅れ)も大きくなりがちだ。大きな出力を得ようとターボを大きくすればするほど、ターボラグは悩ましい問題となって立ちはだかる。
それを解消するのがタービン/コンプレッサーと同軸に配置されたモーターだ。過給圧を立ち上げるのに充分な排気エネルギーが供給されるまで、排気の到達を待たずにモーターを駆動してコンプレッサーを回転させるわけだ。これにより、大きなターボを採用してもターボラグに悩むことなく、レスポンス良く反応し、大きな出力を得ることができる。EEGTは48Vシステムによって作動し、最高170,000rpm回転まで回る。
F1由来の技術、MGU-Hとの違いは?
メルセデスAMGがEEGTをF1由来の技術だと説明しているのは、2014年以降、F1のパワーユニットもタービン/コンプレッサーと同軸にモーターを配置しているからだ。F1の場合はこのシステムをMGU-Hと呼んでいる。モーター/ジェネレーターユニット-ヒートの略で、熱エネルギー回生システムを構成するユニットの位置づけだ。
F1のMGU-Hに組み込んだモーターはEEGTと同様にアシスト側に使うだけでなく回生(発電)側にも使い(むしろ、こちらがメイン)、排気に含まれる熱エネルギーを電気エネルギーに変換してリチウムイオンバッテリーに蓄える。MGU-Hに組み込まれるモーターの出力は未公表だが、70-100kWが相場だ。出力の大きさを考えればコンパクトに設計されているが、それでも茶筒大だ。EEGTも原理的には熱エネルギーを回生することは可能だが、M139への適用にあたってはアシスト側の機能のみしか使っていない。
M139 Engine Specifications エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ エンジン型式:M139 排気量:1991cc ボア×ストローク:83.0mm×92.0mm 圧縮比:- 最高出力:381ps(280kW)/6750rpm 最大トルク:480Nm/3250-5000rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:DI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:70ℓ トランスミッション:9AT モーター:EM0025型スイッチトリラクタンスモーター 定格出力 8kW 最高出力 10kW 最大トルク58Nm
メルセデスAMG SL 43のボンネットフードを開けると、否が応でもエンジンの右側に配置されたターボチャージャーが目に付く。それほどに巨大だ。「今どきこんなに大きなターボ見たことない」と笑っちゃいそうなほどにデカい。なにしろ、2.0Lの排気量で280kW(381ps)/6750rpmの最高出力と480Nm/3250-5000rpmもの最大トルクを発生させるのだから、相応のサイズを必要として当然だ。
排気量によらずエンジンのトルク特性を評価する指標がBMEP(正味平均有効圧)で、M139の場合30.3barである。GRヤリスのG16E-GTS(1.6L3気筒)が28.7bar、シビック・タイプRのK20C(2.0L直4)が26.4barだから、SL 43のM139がいかに大きな圧力を発生させているかわかるだろう。ターボの大きさは性能の高さを物語っている。
EEGTが内蔵するモーターの存在は希薄で、外からその存在を明確に指摘するのは難しい。大きなタービンとコンプレッサーの陰に隠れてしまっている印象だ。実際には、コンプレッサーの背後に4cm幅のモーターが隠れている。コンプレッサーとモーターが内蔵されたセンターハウジングの下部にコントロールユニットがあり、そのコントロールユニットにGarrettの文字が確認できる。EEGTはメルセデスAMGとギャレットの共同開発だ。
ウェイストゲートのアクチュエーターは応答性に優れ、制御性が高いとされる電動式(負圧式ではなく)。エンジンの前にはマーレ(MAHLE)製の、2基が直列に配置された水冷インタークーラーが見える。
SL 43のエンジンルームに収まる巨大なターボを見ると、「ターボラグがあっても仕方ないか」と思ってしまう。繰り返すが、それほどに巨大だ。ところがこれが、まったくないのである。アクセルペダルの動きに即応して力が生まれ、背中をシートに押し付ける加速力として返してくれる。「なにこれ?」というのが実感で、F1のパワーユニットもきっとこういう感覚なのだろうと想像させてくれる。
F1のパワーユニットと同種の鋭いレスポンスを味わえる高出力/高トルクのターボエンジンという意味でも、M139を搭載するメルセデスAMG SL 43の存在は貴重だ。
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