エンジンをかけたら、シリンダーヘッドの辺りからカタカタ……と音がするけれど、しばらく暖機したら音が消えた。エンジンが冷えている時だけ鳴るなら問題ないのかな? ……と思っていたら、最近は走り始めても音がしているような……。
「隙間」は必要だけど、音がするのはNG!
エンジンが発する「異音」にも様々な種類があるが、けっこうメジャーなのがシリンダーヘッド付近からカタカタ……となる連続音で「タペット音」と呼ばれているモノだろう。近年のバイクはそれほど気にすることはないけれど、キャブレター時代のバイクはたまにこの「タペット」を点検する必要があったのだ。
ヤマハSRのミーティングなんかに行くと、結構な割合でひたすらキックをした後にやっとエンジンを始動でき、始動直後に「タペット音」の大きなバイクをよく見かけた……。
タペットとは、広義において「カムとカムによって駆動される部品の間で動作を伝達する部品」とされている。これだと少々わかりにくいが、ザックリ言うとカムやロッカーアーム、そして近年の高性能エンジンではフィンガーフォロワーと、吸気/排気バルブの軸端が接触する部分やそのパーツをタペットと呼び、そこから発する音がタペット音だ。
エンジンは燃焼・爆発によってエネルギーを生み出すが、同時にかなりの熱が発生する。そして燃焼室にある吸気/排気バルブは高温にさらされているので熱膨張する(とくに軸方向に延びる)。その膨張して伸びる分を考慮して、エンジンが冷えている状態ではタペット部にホンのわずかな隙間を設けている。この隙間を「タペットクリアランス」または「バルブクリアランス」と呼び、その数値はエンジンや車両ごとに定められている。
たとえば
カワサキ 750RS(Z2)吸気側、排気側ともに0.05~0.10mm
カワサキ ゼファーχ 吸気側:0.08~0.17mm 排気側:0.17~0.26mm
ヤマハ SR400 吸気側:0.07~0.12mm 排気側:0.12~0.17mm
ヤマハ YZF-R1(2018年)吸気側:0.09~0.17mm 排気側:0.18~0.23mm
という具合だ。
タペットクリアランスはほんのわずかな隙間なので、きちんと規定値内に収まっていれば、エンジンを始動した直後の温まっていない状態でも音はしないが、規定値より隙間が広いとカタカタと打音が聞こえる。さらに隙間が広くなると、エンジンが温まっても音が止まなくなる。
もちろん新車時はバイクメーカーがしっかり調整した状態で出荷するが、走行距離が伸びてくるとタペット部分(カムやロッカーアームの接触面など)の摩耗によってクリアランスが広がったり、バルブの傘と燃焼室の接触部分(バルブシート部分)が摩耗することでクリアランスが狭くなることもある。
タペット音がうるさいと気になるのはもちろんだが、そのまま放置すると隙間が広い分、打撃の衝撃が強くなり、ますますタペットクリアランスが広がってしまい、こうなると始動性が落ちたりバイクがだんだんと調子を崩していってしまうため調整が必要なのだ。
反対にタペットクリアランスが規定よりも狭いと、タペット音は出ないがバルブが完全に閉じ切らずに圧縮漏れを起こす危険があり、パワーダウンやさらなるトラブルの原因になる。だからタペットクリアランスは広すぎても狭すぎてもダメなのだ。
タペットクリアランスが適正
タペットクリアランスが過大、または不足した状態
タペットクリアランスは、どうやって調整するの?
調整方式は基本的に2種類。ロッカーアームでバルブを開く形式のエンジンは、アジャストスクリュー式が多く、カムが直接バルブを押す直押し式や、近年のフィンガーフォロワー式は、タペット部に厚みの異なるシムに入れ替えて調整する。隙間を測るシックネスゲージや、シムの厚みを測るマイクロゲージなどを用いて、クリアランスが規定値に収まるように調整するのだ。
いずれの場合もシリンダーヘッドのカムカバーを外さないと調整できないので、近年の「身が詰まったバイク」だとそこに到達するまでが大変。反対にシンプルな空冷単気筒のヤマハのSR400や、ホンダのスーパーカブ系の横置きエンジンなどはカスタムやチューニングも盛んなので、タペット調整を自分で行っているユーザーも多い。とはいえ相応に工具が必要な上に、サービスマニュアル類を用意して正しく調子しないとかえってトラブルの原因になるので、作業に自信が無ければショップに依頼するのが安心だろう。
ドゥカティはMotoGPマシンから市販車まで、多くの車両にバルブ強制開閉機構のデスモドロミックを採用。金属スプリングではなくロッカーアームを使ってバルブを閉じているため、1本のバルブに対して開ける側と閉じる側のシムが存在し、それぞれのクリアランス調整が必要。とくにクローズ側のクリアランスの計測の難易度が高く、シムも多数用意する必要があるのでバルブクリアランスの調整はかなり大変なのだ。デスモドロミックの詳細はこちら。
タペットクリアランスの自動調整機構もある
タペットクリアランスの調整は相応に難易度が高く、ショップ等に依頼してもコストや時間がかかる。そこで登場したのが「油圧式タペット」や「ラッシュアジャスター」と呼ばれる自動調整機構。
ホンダは1982年に、既存の油圧タペット式では不可能だった1万回転の高回転でも確実に追従する油圧式バルブクリアランス・オートアジャスターを日鍛バルブ株式会社(現在は「NITTAN」)と共同開発し、CBX650カスタムを始めCBX750Fなどにも装備した。
しかし現在、自動調整の油圧式タペットは採用していない様子。タペット部の材質や設計の進化によって摩耗しにくくなって昔よりメンテナンスのスパンが伸びたのと、複雑な機構による重量増やコンパクト化に反するのも、バイクで普及しなかった理由かもしれない。
ちなみにハーレーダビッドソンのOHVの空冷Vツインエンジンは、1948年の「パンヘッド」から油圧式タペットを採用している。ただしエンジンチューンの際に、手動調整式に改造するユーザーも多いという。
また、現在の四輪の乗用車の多くはラッシュアジャスターを装備してメンテナンスフリー化しているが、スポーツタイプやレースで使うようなエンジンは手動調整式が多いという。
現行バイクもタペット調整した方がよいのだろうか?
前出のSR400や旧車系だとカタカタとタペット音がするバイクを目にする(耳にする?)コトはままある。しかし最近のバイクからタペット音がすることは滅多にないし、おそらく車検や定期点検時に「タペット調整しましょう」といわれたライダーも少ないのではないだろうか?
じつは近年のバイクは素材や設計の進化によって、タペットクリアランスの点検や調整は、走行2~3万km毎に行えば大丈夫なバイクが多い(車種や乗り方、使い方によって異なる)。たとえばドゥカティのデスモドロミック非搭載の「V4グランツーリスモ」エンジンは、バルブクリアランス点検/調整はなんと6万km毎(!)となっている。
というワケで、近年のバイクからタペット音が聞こえないのは「まだ音が出るまでの距離を走っていない」のが主たる理由だろう。これは歓迎すべきことだ。
とはいえ長く乗っていれば走行距離は伸び、いずれは点検や調整が必要になり、それを怠ればかなりの確率でタペット音が出る。そしてそれは現行新車の話で、旧車はもちろん相応に距離を走った中古車なら、いつタペット音が出ても不思議ではない。そして前述したように、いったんタペット音が出始めると加速度的に症状が悪化する。
だから愛車に長く乗り続けたいのなら、メーカーが規定する点検タイミングをきちんと守り、もし疑わしい音がしたなら直ちにタペットクリアランスの点検/調整を行うのが得策。ある程度費用はかかるがメンテ頻度は少ないので、とにかく放置しないようにしよう。
からの記事と詳細 ( 【Q&A】エンジンからカタカタ音がするけど……大丈夫? 始動性はイマイチだけど温まれば音は収まるし…… - WEBヤングマシン )
https://ift.tt/uRMYaGb
0 Comments:
Post a Comment