◆「ディーゼルゲート」以降のVW車の変化
VWと言えば、ビートルの時代からそのドイツらしいクルマの作りや、生真面目で遊び心の少ない、一言で言えば「質実剛健」を地で行くブランドである。
そんなVWがほんの数年前にディーゼルゲートを引き起こしたことはご存じの通り。以来本来は進めていたはずのディーゼルに見切りをつけて一気に電動化に走った。しかし、ディーゼルゲートに対する代償が大きかったのか、割を食ったのは既存の化石燃料エンジンを搭載するモデル群だった。
ズバリ言おう!当時からVWの品質は一気に落ちた。値段の割に全体的なクォリティー(主として素材)が落ち、室内で使用するプラスチック系もハードなものが目立つうえ、加飾も少なかった。
VW ゴルフ ヴァリアント eTSIスタイル『ゴルフ』が7世代目から8世代目に移行した時もボンネットを支える支柱がダンパーから単なる支え棒に質が落とされていたり、インテリアは全く加飾のないプラスチックが使用されていたりした。これはほんの1年半前の話だ。しかしながら徐々にではあるがVWの化石燃料車も昔の良さを取り戻しつつある。
まだゴルフ8がデビューした当初はステーションワゴンの「ヴァリアント」の設定がなく、ヴァリアントがデビューした時に試乗したディーゼルモデルではセンターコンソールはハッチバックで乗った時の無機質なプラスチックから一応ピアノブラックの加飾が施された少し質が向上したインテリアに姿を変えていた。そうは言ってもボンネットの支柱は今もダンパーにはされていない。
◆VWエンジンの良さを痛感させられる
VW ゴルフ ヴァリアント eTSIスタイル今回の試乗車は1.5リットル4気筒とマイルドハイブリッドを組み合わせたeTSIと呼ばれるエンジンを搭載したモデルである。evoの付いたディーゼルのEA288もだいぶ良くなったとは思ったが、ガソリン仕様に乗るとやはりVWエンジンの良さを痛感させられる。
とりわけVW系のガソリンエンジンの優れているところは、その燃費の対策だ。4気筒の場合、可変気筒システムが装備されていて負荷のかからない時は2気筒エンジンで動く。これは主として高速などでその表示が現れるが、もう一つのコースティング機能は一般道でも常に感じることができる。
一般的にコースティングと言えば、アクセルをオフにした時などにギアのニュートラルにしてしまうのが普通。しかし、VWはさらに踏み込んでエンジンを止めてしまうコースティング機能がある。一般道でも空いた直線道路などでアクセルをオフにする機会は多いと思うが、注意してタコメーターを覗くと多くのケースで針がゼロを指す。つまりエンジン停止状態である。
VW ゴルフ ヴァリアント eTSIスタイルブレーキに足を載せたり、あるいはアクセルを踏み込んだりすればエンジンはすぐに目覚めるのだが、その繋がり具合が実に巧妙で、一般ドライバーだとまず感知できないはず。こちらも注意してそれを感知しようと努めればわかる程度で、普段は全く違和感なく乗っていることができる。
VWはトランスミッションにDSGと呼ばれるツインクラッチを持つ自動化されたトランスミッションを装備している。このクラッチの断続がとてもうまく制御できているから、こうしたことが可能になったのかもしれない。
◆ワゴンの魅力は捨て難い
VW ゴルフ ヴァリアント eTSIスタイルいずれにしてもエンジン自体も素晴らしくスムーズで気持ち良い吹け上がり感を堪能できるから、ハイオクであることに目をつぶって(最近ガソリン価格が高いので気にはなる)ガソリン仕様を選びたくなる。しかも48Vのマイルドハイブリッド仕様だから、発進時や渋滞時の低速走行なども実にうまくやってくれる。
1.5リットル150psという性能は机上の性能としては大したことはない。しかし、実際に乗ってみると、モーターのアシストも奏功しているのか、かなり速く感じられる。これをドライブモードを切り替えてスポーツにする(上の話はコンフォート時のもの)と、完全な本気モード。結構な勢いで走ることができる。
最近SUVに押されてすっかりワゴン系のモデルが減ってしまったが、背が低いことを除けば、SUVと同等のユーティリティーを持ち、かつSUV以上に運動性能も楽しめるのだから、ワゴンの魅力は捨て難い。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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