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最終更新日: 2024年1月17日
昨今、生成AIの企業への導入が現代のビジネスシーンにおいて革新的な変化をもたらすと期待されている。しかし、その実用化にはまだまだ多くの課題がある。
特に、現場業務への適用においては、その可能性の模索に始まり、生成AIの導入からその普及、事例の創出に繫げるまで、多くの課題が存在する。
今回は、生成AIの代表格とも言えるチャット型生成AIの導入について、またその肝となるプロンプトエンジニアリングについてレポートする。
ビジネスだけでなくプライベートでも活用できる生成AIだが、使いこなせる人材を増やしていくことはそう容易ではない。
たとえば、誰かが見つけた有効なプロンプトが公開されていたとしても、これを自分で実際の業務に生かすことができる人はごく少数であり、明確に効率的な教育プログラムがあるわけでもない。
そのため、プロンプトを現場の業務に適用するためのノウハウが、今最も求められている。
生成AIの業務利用経験、日本10.7%
GMOリサーチによる調査によれば、生成AIの業務利用経験は、日本では10.7%、米国では29.5%と、約3倍の差があるのが現状だ。
また、生成AIを「チャンス」と考える割合も、米国は日本の約2倍に達している。
出典:impress AIを仕事に利用:日本10.7%・米国29.5%と約3倍の差! AIビジネス活用を日米で比較【GMOリサーチ調べ】
生成AIを業務利用していない理由としては、日米ともに「生成AIの利用方法がわからないから」という回答が最も多かった。
出典:impress AIを仕事に利用:日本10.7%・米国29.5%と約3倍の差! AIビジネス活用を日米で比較【GMOリサーチ調べ】
このように日本における生成AIの普及には時間がかかっているが、「利用方法がわからない」という点に関しては、プロンプトの学習と適用がその突破口になり得るかもしれない。
ある程度の目的を持ち、生成AIを効果的に活用していくには、適切なプロンプトの設計や理解が不可欠である。しかし、まだ多くの日本企業ではプロンプトの設計と応用に関する知識や経験が不足している。
このため、今まさに多くの企業が、社内でプロンプトや生成AIに関する教育とトレーニングを通じて、従業員がプロンプトの設計と運用におけるスキルを身につけるために試行錯誤している。
現場への落とし込みの難しさ
ところが、社内でプロンプトの学習を進めようとしても、数多くの障壁がある。
まず、適切なプロンプトを設計するには現状、専門的な知識が必要であり、これを教えられる人材が限りなく少ない。
有効なプロンプトを書くためには高度な言語化技術が求められる。キーワード検索をするような思考ではなく、タスクの手順を詳細に分解し、わかりやすく順序立てて説明する必要がある。そもそもこの言語化ができる必要があり、また教わる側も言語化スキルを一定取得しておく必要がある。
このように、教える側も教わる側も、プロンプト学習にかかるリソースは意外と大きい。
しかしながら、そもそも生成AIは完璧な成果物を生成するというよりは、人間のサポート、下準備を進める役割で使われたり、ハルシネーションのリスクがあったりと、学習コストに見合うリターンが保証されていないて点も重要である。
これにより、多くの人がプロンプトや生成AIについて学ぶためのリソースよりも、最初から人間の手で確実な作業を優先する傾向にある。このような状況が、現場での生成AI活用の普及を妨げている要因のひとつであると言える。
しかしながら、今後生成AIを駆使して生産性を高めたり、より創造的な時間にリソースを割いていける組織作りは非常に重要である。
なぜなら生成AIは、自社だけでなく競合他社、クライアント、消費者まで全て平等に与えられているツールであり、自社が活用できていないだけで、活用しているそれらからすると一歩遅れをとることになるためだ。
生成AIの技術の革新性は凄まじく、進歩も早い。世界的にもビジネス的にも注目されており、多くの経営者にとっても重要な技術である。これは事実だ。問題は現場でどう広めるか、現場で使えるようにしていくにはどんな教育方法がいいのか。
差し当たっては今、プロンプトを現場業務に落とすノウハウが最も求められているのだ。
プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIについて特定の目的に沿った出力を生成させるプロセスを指す。
これは、AIから望ましい出力を得るために、指示や命令を設計、最適化するスキルのことであり、特に自然言語処理を担う言語モデル(LM)を効率的に使用するために、言語モデルへの命令(プロンプト)を開発・最適化する。
プロンプトエンジニアリングは、エンドユーザーと大規模な言語モデルの間のギャップを埋める役割を果たす。
特に、ChatGPTなどの大規模言語モデルでは、命令(プロンプト)の出し方次第で得られる回答が異なるため、効果的なプロンプトを設計できる技術者を「プロンプトエンジニア」と呼び、AIに関する新しい職種として注目されている。
社内で活用が進むプロンプトエンジニアリングのポイント
実際に社内にプロンプトエンジニアリング技術を広めていくにあたり、大きく5つのポイントがある。
ポイント1:インプット情報とアウトプット情報を明確化して業務分解する
生成AIを業務に適用していく第一歩は、人間が行っているプロセスを詳細に分解し、インプット情報とアウトプット情報を明確化することである。
他にも例えば、営業資料を作成するタスクを考えてみよう。インプット情報として、対象顧客の属性、業種、規模、ニーズなど)や自社の提案内容が必要である。アウトプットとしては、顧客のニーズに合わせた営業資料を生成したいとする。
このインプットとアウトプットを明示化することで、生成AIに「こういう入力を与えて、こんな出力が欲しい」という指示を出すことができる。
つまり、タスクの要件を明確にし、生成AIが答えを出すための手がかりを最大限に与えることが重要となる。
さらに複雑なタスクであれば、その工程を細分化していく。
営業資料作成であれば、対象顧客の分析→資料のテーマ設定→資料の構成検討→ドラフト作成→清書…といった流れに分割できる。
こうすることで、生成AIが部分的に人間をサポートできる領域を最大化できる。この業務の分割と明確化こそが、プロンプト設計の基礎である。
人間が日常で当たり前に行っている暗黙知を形式知化し、生成AIが処理できるよう指示を設計していくことがプロンプトエンジニアの重要なミッションとなる。
ポイント2:プロンプトはテンプレート化して流用しやすくする
効率的なプロンプト設計の鍵は「テンプレート化」である。
用途別にプロンプトを「型化」し、データベース化する。そこにアクセスすれば、プロンプトや生成AIの理解度によらず、多くのメンバーが生成AIを活用することができ、結果として生成AIの生産性が飛躍的に向上する。
たとえば、マーケティング資料を自動生成するプロンプトを考えてみよう。
# マーケティング資料自動生成用プロンプトテンプレートの例
## 前提情報
1. **顧客属性**:
- 会社名:
- 業界:
- 製品/サービス:
- 主要顧客層:
2. **資料の種類**:(あてはまるものを記載)
- [ ] 市場調査レポート
- [ ] 提案書
- [ ] 案内
- [ ] その他 (具体的に記述):
3. **ページ数**:(ページ数を指定)
- [ ] 例:A4で2ページ
- [ ] その他 (具体的に記述):
## 追加情報 (任意)
4. **特記事項**:
- キャンペーン情報:
- 競合情報:
- ターゲット市場の特徴:
## 処理指示
- プロンプトエンジンに対する具体的指示:
(例)
1. 上記の入力情報を基に、指定された資料の種類に応じた内容を生成。
2. 顧客属性に合わせたカスタマイズを行い、ターゲット市場に適した文体や用語を使用。
3. 追加情報が提供されている場合、その内容を資料に組み込む。
4. 資料のページ数に応じて、内容の密度を調整。
このプロンプトテンプレートでは、顧客属性を入力する形式は共通で、その顧客入力の形式をテンプレートとして決めておく。次にパラメータを入力できる「穴埋め」の部分を設定する。
また、資料の種類(市場調査レポート、新製品提案書、セミナー案内など)や分量(A4で2ページ、4ページなど)といった項目を指定できる。
こうしたテンプレートを作成しておけば、使用する際には変数となるパラメータだけ入力するだけで、プロンプトの知識がなくても、条件に合った資料を即座に生成できるようになる。
また、プロンプトについても詳細版と簡易版に分けてストックすることで、初めて使うメンバーのハードルを下げることができる。
これは一度のテンプレート作成でだれでも何度も適用できるため、テンプレートを増やし、活用機会を増やすことで、組織として高い生産性が実現できるだろう。
有用なナレッジとするためには、プロンプトをかける人材を多く巻き込み、業務内で活用できる、できるだけ多く状況に対応できるテンプレートを共有・流用して蓄積していくことが重要となる。
これがプロンプトエンジニアリングの醍醐味でもあり、実行していくことで競合他社にない、独自の企業価値を生み出す源泉にもなっていくだろう。
ポイント3:プロンプトを共有する仕組みをつくる
前述のとおり、一度作成したプロンプトを社内で共有し活用することではじめて、プロンプトエンジニアリングの価値は最大化する。
ブラウザ上でプロンプトを検索&選択し、コピペするだけで誰でも活用できる環境を構築することが理想的だろう。
たとえば、営業部門で効果を発揮したプロンプトをマーケティング部門でも活用したり、新人教育で再利用したりと、部署や案件をまたいでプロンプトを流用できる仕組みづくりが必要となる。 プロンプト管理ツールを導入する方法もあるが、始めから大がかりな仕組みを作る必要はない。
たとえばGoogle スプレッドシート上で部門ごとにプロンプトを管理し、Slackや社内SNS上で検索・注釈・共有するといったライトな取り組みで十分効果が見込めるだろう。
ポイントは「プロンプトを見つけやすく、使いやすく、共有しやすい環境」を社内に用意すること。
これによって初心者でもベテランでも、プロンプトの再利用と効率化を促進できる。
ポイント4:プロンプト活用に特化した人材を育成する
生成AIを業務活用するためには、プロンプトエンジニアリングに明るい人材の存在が欠かせない。
しかし残念ながら、現時点ではプロンプトエンジニアは圧倒的に不足しているのが実情だろう。
そのため各企業は、内部人材を育成することが求められる。エンジニア出身者に限らず、営業やマーケターなど多様な部署から人を選抜し、プロンプト作成から効果測定、改善まで一気通貫で習得できる教育プログラムが必要となる。
特に、実際の実務をもとに、自分の部署の業務のコツとなる点と、生成AIでできることにおける「交わる部分」を理解し、プロンプトの形式に落とし込む発想力こそが、生成AI導入の現場では重要となっている。
既存サービスの改善提案から新規サービス創造まで、現場感覚を持ったプロンプトエンジニアが大きな武器になっていくだろう。
ぜひこの記事を読んでいる皆様の各組織で、1~2名の適正のある人材を選抜し、生成AI活用のパイオニアとして特別に育て上げて欲しい。
こうした「種」を全社に蒔いて大切に育てることが、卓越した内製人材による独自サービスの実現につながっていくだろう。
ポイント5:全社組織で生成AI活用を広げていく
ここまで社内のプロンプトエンジニアの育成と基盤整備を実施したとする。
残る課題は、プロンプトエンジニアリングを社内にどう普及・浸透させるかである。
例えば月に2~3回の頻度で、プロンプト作成入門セミナーや効果測定セミナーを開催し、興味ある従業員であれば誰でも参加できる機会を用意するなどはどうだろうか。
また自社内で効果的だったプロンプト事例を横展開することで、成功体験の共有と意識啓発も重要だ。
とはいえ、プロンプト作成にはある程度の言語化力が求められるため、一概に全従業員に推奨することは難しい。
実際にはプロジェクトごとの必要性や人材像を見極めつつ、段階的に特定部署や人材から優先的に展開していくアプローチが現実的だ。
最初はモデルケースを作り、成功事例を創出する。次に横展開を図る。最後に全社レベルの文化へと昇華させる――。
この3ステップを確実に踏むことが、組織的なプロンプトエンジニアリングの浸透には不可欠である。経営者であれ、推進者であれ、この第一歩を踏み出す勇気が現場、ひいては企業を変えていく大きな一歩となるだろう。
事例紹介
ここでは、既に社内のプロンプト教育に力を入れている3社の事例を紹介する。
事例1:ソウルドアウト株式会社
WEBマーケティング企業のソウルドアウト株式会社では、2023年3月より生成AIに注目し、新規事業のコンテストや広告主へのリサーチを行うなど、非常に前向きな姿勢で生成AIと向き合っている。
【調査】広告代理店の生成AI活用、76.2%の広告主が肯定的 ~ インターネット広告代理店の生成AI活用に関する調査 / SO Technologies ~
また23年12月には営業チームを中心に、生成AIについて集中的に学ぶ教育プログラムを開催。
週に2,3回、各90分の生成AIに関する勉強会を開催し、約40名の社員がこの1ヶ月間でChatGPTを始めとする多種多様な生成AIを使いこなせるようになった。
それだけでなく、社員の各々が業務で有効に使用できるプロンプトを社内で共有しあったり気軽に質問できる場を構築し、組織として生成AIを学び、業務に活かしていける環境を構築することに成功した。
事例2:ディップ株式会社
ディップ株式会社では、「現場主導」「スピード」「全社横断」をコンセプトにした「dip AI Force」を立ち上げ、全社で生成AI導入を進めている。
社内へのプロンプト教育として「Notion」のデータベース機能を活用し、200以上のプロンプトデータベースを公開。さらにGPT-4に対応したSlack-botも活用し、全社員がオープンに生成AIを活用できるよう推進している。
その他にも生成AI技術を活用した新たな取り組み「AIエージェント事業」の開発を開始。
この事業は、従来の「大量の求人情報から検索する・選ぶ」方法から「対話しながら最適な仕事に出会える」方法へと進化させることを目指す。生成AIの技術革新により、採用率を大幅に高めることが期待されている。
検索型→対話型へ 生成系AIを活用し雇用創出に新たな可能性をディップ、「AIエージェント事業」開発を開始 | ディップ株式会社
ディップ株式会社は、「AIで変わる 人的資本経営」をテーマとするビジネスカンファレンス「Labor force solution Conference dip 2023」も開催。このカンファレンスでは、各学術分野の第一人者からの最新知見や、企業における実践的な取り組み事例が紹介された。
以上のように、ディップ株式会社は生成AIを活用した新たな事業開発や、教育・啓発活動、ビジネスカンファレンスの開催など、多角的にAIの活用を推進している。
事例3:合同会社 DMM.com / 合同会社 EXNOA
合同会社DMM.comと合同会社EXNOAは、AIの業務活用を推進するため、特に生成AIの活用を目指し、キカガクによる社内向け生成AI(ChatGPT研修)を実施した。
これらの企業では、新しい事業機会の創出と既存業務プロセスの変革を目指し、AIの活用を全社的に進めている背景があった。
研修の対象としては、 主にChatGPTを業務で使用したことがない社員であり、
目的としては生成AIに関する体系的な理解と業務への応用方法を学ぶことだった。
キカガクを選んだ理由としては、研修に対する品質と信頼が大きかったという。
研修コンテンツの高品質、費用対効果、柔軟な対応や、過去のキカガクのUdemy動画コンテンツの印象が良好だったことが要因だった。
実際の研修内容としては、AIと機械学習の基本から始まり、生成AIの歴史、構造、プロンプトエンジニアリングの方法まで網羅的に行われた。
それだけでなく実践として、ハンズオンセッションとグループワークを通じて、業務への具体的な応用方法を学習した。
参加者の反応では、生成AIの活用はプロンプトの技術を超え、より人間らしいアプローチが重要であるとの認識したとの声が上がった。
結果として生成AIの可能性と限界の理解、具体的な業務改善アイデアの創出のきっかけとなり、社内での小さな成功(スモールサクセス)を収め、さらに多くのメンバーが業務にAIを活用できる環境を整備していく短期的なビジョンから、生成AIだけでなく、広義のAIの影響を受け入れ、積極的に活用していく長期的なビジョンまで想像される取り組みとなった。
【事例:ChatGPT 研修】合同会社 DMM.com / 合同会社 EXNOA:AI 活用を推進するための生成 AI 活用の第一歩 | あるべき教育で人の力を解放する – キカガク
まとめ
今回の事例の再現性
この記事では様々な事例や取り組みを紹介してきたが、共通している重要なポイントがある。
それは経営者または決済者が生成AIについて正しく理解し、トップダウンで現場への浸透を強く望んでいるという点である。
先述の通り生成AIにはまだまだ課題があり、リスクも伴う点もある。しかしながらそれらを理解した上で、トップダウンで全社的に現場へ生成AIを導入させる、大義名分が少なくとも必要である。
現場側だけで頑張っても、管理者や組織のトップの理解が得られなければ組織に生成AIを浸透させることは非常に難しいだろう。
もしこの記事を読んでいるあなたが、自身の組織に生成AIを導入したい場合、まず上司の理解を得ることが最優先である。
ポイントおさらい、次やるならどういう点がポイントか
上記の条件を達成した上で、もしあなたが自分の組織に生成AIを導入する立場になったとする。
おさらいとして、次に重要になる点は社内にプロンプトについて教えられる人材を育成することである。
それはあなたがなってもいいし、言語化能力が優秀な他のメンバーをアサインしてもいい。もしくは社外のプロンプト教育サービスを活用してもいい。
少なくとも、社内に自信を持ってプロンプトを教えられる人材を擁立し、事例の創出とその横展開が自動的に行われるスキームを整えていく必要がある。
ひいては、展開されたプロンプトをもとに独自でプロンプトを作成できるような、社内プロンプトエンジニアを増やしていく仕組みを整えることが、当面の課題となるだろう。
2024年の展望
2023年は生成AI元年となった。
生成AIツールは毎月のように目覚ましい進歩を遂げ、新たなビジネスやサービス、ニーズが生まれつつある。
生成AIに対する期待値は国内外問わず確かに高い。だが、実態として具体的な成果や実績を出している企業は現状どこにもない。
であるが故に、最初に実績を出した企業や組織はそれだけで業界を一歩牽引でき新たな時代のリーダーシップを取ることができる。
例えるならば、誰も解いていないパズルをが与えられているようなものだ。そのインパクトだけは保証されており、世界中のビジネスシーンでこのパズルの最適解を求め合っている。
このパズルが解かれるのには時間がかかるだろうが、それでも最初の糸口はプロンプトエンジニアリングだろう。
「成功例を模倣する」という戦術が使えない中で、ファーストペンギンになる企業こそが今後数年のビジネスシーンでの主役となっていくだろう。
執筆:國末 拓実
編集:おざけん
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