2019年の東京モーターショーで世界初公開されたマツダ『MX-30』。当初からロータリーエンジンを使ったシリーズハイブリッドモデルの設定がアナウンスされていたが、ようやくその現物に乗った。
◆内燃機関に未来はある
マツダ MX-30 ロータリーEVのエンジン&モータールームMX-30のパワーユニットラインアップは、ピュアEV、マイルドハイブリッド、そして今回の試乗車ロータリーエンジンを使ったシリーズハイブリッド「MX-30 ロータリーEV」の3種となる。ピュアEVで十分、マイルドハイブリッドで十分という意見もあるだろう。いつの時代もクルマには「〇〇で十分」という言葉がついて回るもの。それを言ったら、ほとんどの場合軽自動車で十分ということになってしまう。
最初になぜロータリーエンジンが選ばれたか? ということを考察したい。最大の理由はMX-30がマツダのクルマだからである。マツダにとってロータリーエンジンはアイデンティティであり、それを存続することは企業を存続することに匹敵するからである。
またロータリーエンジンは代替燃料にも対応しやすいということも大きな理由だ。マツダはかつて水素燃料のロータリー車を作ったこともある。水素ステーションは増加傾向にあり将来性が期待できる。バイオ燃料などの代替燃料が登場した際も対応がしやすいという点もある。
いずれにしろ、ロータリーエンジンの火を絶やしてしまったら、そこで技術の継承、向上はなくなるのであるから、ここでロータリーエンジンをシリーズハイブリッドのエンジンユニットとして復活させたのは納得のいく行いだ。内燃機関に未来はある。大切なのは何を燃やすかだ。
◆加減速、ハンドリングは実に「マツダ的」
マツダ MX-30 ロータリーEVMX-30 ロータリーEVのシステム構成は次の通り。エンジンは1ローターで排気量は830cc、最高出力は72ps、最大トルクは112Nm。モーターは170ps、260Nmで、駆動方式はFWD(前輪駆動)となる。バッテリーは17.8kWhのリチウムイオンで普通充電とともにCHAdeMOによる急速充電にも対応している。
MX-30 ロータリーEVにはEVモード、ノーマルモード、チャージモードの3モードが用意される。ノーマルモードはバッテリー残量が約45%となるとエンジンが始動し、バッテリー残量を確保しながら走るモード。EVモードはできる限りバッテリーを使って走るモード。チャージモードはバッテリー残量を高く保つように充電が行われるモードである。
試乗はノーマルモードで行った。ノーマルモードのスタートはEV走行である。スタートはEVそのもの、エンジンの振動などはないので、スムーズなスタートとなる。中間加速も力強くシームレスである。ステアリングコラムに装備されたパドルスイッチを操作することで回生量を調整可能だが、単純に回生量だけを調整するのではなく、同時に加速力も調整される。回生ブレーキが強い状態では加速力が弱くなる。つまり、プラス-マイナスの差を少なくしているのだ。
強く減速され、強く加速されると、加減速が急激になり走りがギクシャクしてしまう。マツダはそれを嫌ったのである。回生を強くすればワンペダルドライブが可能だが完全停止はせず、最終的にはブレーキペダルを踏む必要がある。
ハンドリングは素直でキッチリしている。この部分は実にマツダ的だ。EV仕様に比べれば軽いバッテリーを搭載するが、それでも床下に重量物であるバッテリーを積んでいるため、どっしりとした安定感がある。だからといって走りがもっさりするわけではなく、ステアリング操作に対する反応のよさは確保されていて、気持ちよく走れる。乗り心地もいい。クルマの余計な動きは上手に吸収されていて、長距離移動でも疲れは少ないだろう。
◆WLTCモード燃費が悪い、と考えるのは早計
モード切替スイッチノーマルモードである程度走り、バッテリー残量が45%を切るとエンジンが始動する。私の場合は首都高を試乗中に気付いたらエンジンが始動していた。それに気付くのもメーター内のローターマークの点灯によるもので、エンジンが始動したことによるノイズや振動によるものではなかった。それくらい静かである。
車外からエンジンノイズを確認すると「ブブブブーン」といったような音で、いわゆる甲高いロータリーサウンドとはかけ離れたもの。甲高いロータリーサウンドが発生するのは、マルチローターのロータリーエンジンが高回転の際に発生する音なので、シングルローターで4000回転しか回らないこのエンジンでは発生しない。ちなみにマルチローターのレーシングロータリーでもアイドリング時の音は「ブッブッブッ」とあまりかっこいい音でない。
MX-30 ロータリーEVのシリーズハイブリッドシステムは、あくまでもバッテリーを充電するという機能に徹しているため、日産のePOWERのように出力を稼ぐためにエンジン回転を上げるといった動きはない。せっかくのロータリーエンジン搭載で定常運転しかしないというのはなんとも残念だが、実はこれがポイント。ロータリーエンジンは定常運転することで燃費を向上できるのである。
とはいえ、15.4km/リットルというWLTCモード燃費は悪いと考える人もいるだろう。しかし、この燃費はハイブリッドモードの際の燃費だ。バッテリー走行が107km可能なので、普段使いではバッテリーで走れるはず。そう考えれば、そんなに悪い燃費ではない。もちろん、そのためにはつねに充電できる環境が必要なのはいうまでもない。EVにしろPHEVにしろ、基本は自宅や事業所、職場などで普通充電ができることが求められる。そのうえでPHEVならエンジンを始動しての距離延長、EVなら急速充電での距離延長となるわけだ。
◆PHEVでもCHAdeMOに対応する理由
マツダ MX-30 ロータリーEVの充電口MX-30 ロータリーEVはPHEVなのにCHAdeMOによる急速充電が可能となっている。PHEVが急速充電器を使うのはEVユーザーにとって迷惑になるという意見がある。充電しなければ走れないEVからすれば、エンジンを始動すれば走れるPHEVはエンジンをかけて走ればいい……と感じるのはもっともだろう。
ただ、CHAdeMOも付けることで、V2Hによるクルマからの電源供給なども可能になる。また、そのおかげで補助金が増えるということもある。PHEVが急速充電器を利用するしないは、オーナーの考えに任せればいい。そもそも急速充電はバッテリーを傷めるので使わないほうがいい、ということも付け加えておく。
マツダ MX-30 ロータリーEV■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。
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