Monday, June 8, 2020

伝統のベントレーV8エンジン生産終了! 61年目の別れを、元オウナーがしのぶ - GQ JAPAN

当初は6.2リッター

2020年6月2日、イギリスの高級車メーカー、ベントレーは、現行生産のV型8気筒エンジンとしてもっとも長寿を誇ってきた同社の至宝6.75リッターV8が終焉を迎えたと発表した。アーメン。

彼らの本拠地クルー本社の工場で、7人のチームが最後の1基を完成させたのはその前日、つまり6月1日のことだった。世界的なコロナ禍により、春の予定がここまで遅れたのである。

7人の専任チームによって組み立てられた最後の6.75リッターV型8気筒エンジン。

それにしても、基本的に同じエンジンが60年以上にわたってつくられ続けたという例を、筆者は寡聞にしてほかに知らない。「Lシリーズ」とも呼称されるこのV8は、1959年の、ベントレーでいえば「S2」、ロールス・ロイスでいえば「シルヴァー・クラウドⅡ」に搭載されて初登場した。当初は6.2リッターで、1971年に6.75リッターに拡大され、さらに1980年、ターボ化された。「ミュルザンヌ」に搭載されたこれは、1920年代のティム・バーキンのブロウワー・ベントレー以来、最初のベントレーの過給機エンジンとなった。その20年後、シングル・ターボはツイン・ターボ化され、さらに2010年、現行ミュルザンヌの登場時に大幅な改良が施されている。

Lシリーズを搭載した「S3」。

S3のインテリア。

そのミュルザンヌの国際試乗会で、エンジンの開発担当者が自慢げにこんなことを言ったのを筆者はおぼえている。

「まったく新しい別物だ」

それは新しいクランクシャフト、新しいピストン、新しいコネクティング・ロッド、そして新しいシリンダー・ヘッドを得ていた。可変バルブ・タイミングが採用され、気筒休止システムさえ取り入れられていた。けれど、彼は胸を張ってから、それがマズいと思い直したのか、ゴニョゴニョ、こう付けくわえた。

「だけど、依然としておなじだ……」

同じであり続けることが老舗にとっては大切だった、ということだろう。

1992年登場のベントレーの「ブルックランズ」。

180psを発揮しながら、当初「十分」とのみ発表された最高出力は、最終的に500bhpを生み出し、最大トルクは1100Nmにも達した。ディーゼル・エンジンでも不可能な膨大な低速トルクこそがこのエンジンの魅力で、それはフォルクスワーゲンゆかりのW12でもこの当時はおよばないと説明されていた。

1998年にVW傘下に入って以降、改良に次ぐ改良を受けながら、「LシリーズV8」は1959年当時と同じ構成、同じボア・スペースのまま、その生涯を終えた。

おなじLシリーズエンジンを搭載するミュルザンヌとS2。

S2は1959年登場。

一時はBMW製エンジンを搭載

4ドア・セダンでは若干の空白期間があった。これが最大の危機だったろう。1998年に登場した「アルナージ」に、ターボチャージャーを組み合わせたBMWの4.4リッターV8が搭載されたときのことだ。

軽量で燃費、パワーにも優れ、排ガス規制にもパスしたこのV8ターボにより、ベントレーの新時代到来が予感された。BMWフォルクスワーゲンのあいだで、ロールス・ロイスとベントレーの争奪戦が勃発したのはその直後のことだった。

ベントレーは1931年にロールス・ロイスに買収されて以来、ロールスとひとつ屋根の下にあった。ロールス・ロイスを自分でドライブしたい愛好家向けがベントレーだった。

争奪戦の結果、BMWはロールスの商標と製造権を、フォルクスワーゲンはベントレーとクルー工場を所有することになった。

本当の新時代が訪れたのはよいけれど、フォルクスワーゲンとしては、BMWのエンジンなんて使っていられない、という思いにかられた(たぶん)。すでにお墓に行くことが決まっていたであろう、ターボRに使っていた6.75リッターOHVを掘り起こし、改良を施して排ガス規制を通るようにし、アルナージに搭載した。同時に、増加したパワーと重量増に耐えるべくボディとブレーキを強化。こうして誕生したのが1999年登場のアルナージ・レッド・レーベルだった。

1999年登場のアルナージ・レッド・レーベル。

レッドレーベルは6.75リッターV型8気筒ガソリン・エンジン搭載。

アルナージのゴージャスなインテリア。

BMWエンジンのアルナージはモダンになりすぎた、と、考える愛好家たちにとってレッド・レーベルは福音だった。6.75リッターV8の復活は、ベントレーの伝統をあだやおろそかにはしない、というフォルクスワーゲンからのメッセージにもなっていた。イギリスの高級車の真の後継者はわれわれである。と彼らは叫びたかった。と、筆者は想像する。

アルナージ・レッド・レーベルは、めちゃくちゃいいクルマだった。6.75リッターV8OHVターボの魅力は、まわらないことにあった。アクセルをガバチョと踏み込んでも、レスポンス鋭くビュンビュンまわったりしない。その意味では、ぜんぜんまわらない。その代わり、低速トルクが分厚い。その分厚い低速トルクでもって、2.5トンもある重いボディを、静々と走らせる。ドライバーが望めば、猛然と走らせることもできる。軽快さ、高回転、高出力がモダンさだとしたら、その対極にある古めかしさが、ウッドとレザーに覆われた古き佳き旧世界的インテリアにピッタンコで、平民のドライバーを20世紀初頭の貴族の末裔であるかのように勘違いさせる力を持っていた。

もちろん、最初から古めかしかったわけではない。歴史を紐解けば、1950年代のはじめ、このV8はそれまでの直列6気筒の代わるものとして開発が始まった。彼らの直6はいささか時代遅れになっていた。とりわけアメリカのV8に較べると重く、静粛性、洗練度、そして出力の面でも明らかに劣っていた。

そこで開発陣は、直6に較べて50%はパワフルである一方、大きさは直6と同等で重量増はあってはならない、という目標を定めた。軽量合金ブロックのV8という形式は自然な選択だった。6年の歳月を費やし、1959年、シルヴァー・クラウドIIとS2に搭載された6.2リッターのV8は、直6より30ポンド(約13.6kg)軽く仕上がっていた。

かくもLシリーズV8が長生きしたのは、当初、筆者はその古さゆえだった、と思ったけれど、そうではなかったことにここに至って気づいた。そうではない。倦むことなく続けられてきた改良、不断の努力にあった。

Lシリーズは、累計3万6000基が手づくりされた。現代でさえ、熟練工が15時間かけて組み上げていたというから、まことに贅沢なエンジンだった。

生産終了したミュルザンヌ。

搭載するエンジンは、6752ccV型8気筒OHVツインターボ(537ps/4000rpm、1100Nm/1750rpm)。可変バルブタイミングシステム、気筒休止システムを備える。

トランスミッションは電子制御式8速オートマチック。

ミュルザンヌは、特別仕様の限定30台「ミュルザンヌ6.75 エディション by マリナー」の30台目が、そこに搭載される6.75リッターV8の組み立てを完了した同日に完成し、これによって生産終了となった。ベントレーの旗艦は以後フライング・スパーが引き継ぐ。ベントレーの未来は、フォルクスワーゲングループ由来のW12と4.0リッターV8、そしてV6ハイブリッドに託された。すでに「ベンテイガ・ハイブリッド」は発表済みだ。

ベントレーは持続可能な高級車づくりへの旅に出立した。古き佳きOHVの6.75リッターV8にサヨナラを告げた彼ら自身がそう高らかに宣言している。

文・今尾直樹

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June 08, 2020 at 06:40PM
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