プレミアムエンジンとして一時代を築いた直列6気筒エンジンだが、時代の変遷とともにV型6気筒エンジンへの置き換えが進んだ。しかしここにきて、また直列6気筒エンジンへの注目が集まっている。
その理由のひとつは2019年にマツダが決算報告会見の場で、今後直6エンジン+FRプラットフォームの搭載車を展開することを正式に発表したことだ。そしてもうひとつは、直6をやめてV6へと方向転換したメルセデスベンツが、現行型Sクラスより直6エンジンを復活させたことだ。
ランドローバーもレンジローバースポーツに直6のガソリンエンジンを採用し、さらに直6のディーゼルエンジンも追加した。このディーゼルエンジンはディフェンダーにも採用されるなど、搭載車種を増やしている。
そこで今回は直列6気筒エンジン復活の理由と、投入されている最新技術について解説しよう。
文/鈴木直也、写真/BMW、LAND ROVER 、Mercedes-Benz、TOYOTA、ベストカー編集部
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■パワーから効率へ 多気筒エンジン変革の歴史
20世紀の終わりごろ、内燃機関(とりわけ多気筒エンジン)に変革の嵐が吹き荒れた。その背景にあったのは「これからのエンジンは環境性能を高めないとイカン」という事情。燃費改善のためエンジンを合理化、高効率化する動きが起こったのだ。
その流れは、21世紀の初めになると「ダウンサイズターボ」という概念で大衆車にまで及ぶわけだが、最初の動きは高級車のシリンダー数や排気量の削減。V12はV8に、V8はV6に、シリンダーの数はどんどん削減され、排気量も縮小されはじめる。
自動車という商品が大衆化されて以来、ずっと「パワーは正義」だったわけだが、この時が内燃機関にとって初めての「パワーから効率へ」の転換期だったと言ってもいいだろう。
その過程で、いちばん合理化のターゲットとなったのが直列6気筒エンジンだった。
■環境問題と安全性にはベンツも勝てない!?
ちょうど、この時代は環境性能と同時に衝突安全性への関心も高まっていた時期でもあり、エンジン全長の長い直6はクラッシャブルゾーンを確保する上で不利とみなされた。
その結果として直6を廃止して前後方向にコンパクトなV6にシフトするメーカーが続出。直6こそブランドシンボルのBMWを例外として、短期間のうちに直6は市場から姿を消してしまったのだった。
そのトレンドを決定づけたのは、メルセデスベンツのV6転向だったと思う。
97年にベンツは「衝突、燃費、排ガスなど、どれをとっても直6よりV6の方が有利」と説明し、直6(M104)をV6(M112)に置き換えた。
この新しいベンツのV6は、SOHC3バルブのシリンダーヘッドや、設計・加工をV8と共通化するためバンク角90度を採用するなど、モジュラー化によるコストダウンにも注力したエンジン。「ベンツ様がここまで合理化するんじゃ、無駄のカタマリみたいな直6が生き残るのは難しそう」と、納得した覚えがある。
だから、2018年にベンツが新しいSクラスで直6(M256)を復活させた時には驚いた。また、その後マツダも直6の新型エンジンを開発中というニュース。なにやら、20年ぶりに直6復活のムーブメントが巻き起こりつつあるようなのだ。
■直6の電撃復活! 裏にある意外な逆転劇
では、なぜいま直6を復活させるのか。じつは、そこには意外な逆転劇があったのだ。
かつて直6が廃れたのは、主に衝突安全性の面で長いエンジン全長が不利とされたこと。つまり、パッケージングの問題だ。
ところが、20年経った今日、衝突安全性能(つまりNCAPの星の数)を決めるポイントは、オフセット衝突やスモールオフセット衝突。
昔のように、バリアに真正面からぶつけるテストでは差がつかないため、よりシビアな衝突モードが主流となっている。そして、こういうテストモードでは、逆に正面から見た直6の幅の狭さがメリットとなるという逆転現象が起きているのだ。
また、20年前と比べると格段に厳しくなった排ガス規制も直6復活を後押しした。
現代の内燃機関は、排気マニフォールドの下流にさまざまなシステムがぶら下がっている。ターボ、触媒、PMフィルター、ディーゼルの場合尿素SCRシステムなど、どれもけっこうな体積があってエンジンルームの中はぎっしりだ。
V型エンジンの場合、これが左右バンクそれぞれに配置されるわけだが、直6なら排気側にまとめることが可能。こちらのパッケージングでも、直6に追い風が吹いている。
こうなると、直6の魅力が見直されてくる。よく知られているとおり直6はいわゆる“完全バランス”で、1次、2次はもちろん、偶力振動もバランスしている。シルキーシックスという表現があるくらい、スムーズな回転フィールが持ち味だ。
■電動化が後押しする多気筒エンジン
環境問題を考えると、メルセデスベンツのフラッグシップエンジンが直6となる可能性は大。おそらくそう遠くない将来、V8やV12はAMGなどに少数が残るだけで、その多くが姿を消す運命にある。20年ぶりのベンツの直6復活は、そういった戦略にのっとったものと見るべきだろう。
そういう観点からは、電動化技術がてんこ盛りなことも当然といえる。
この直6(M256)が採用した電動化技術は、いわゆる48Vマイルドハイブリッドだが、その内容はとても「マイルド」とはいえないほど豪華なものだ。
普通の48Vシステムはモーター/回生発電機としてベルト駆動のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を使うが、こいつはフライホイール一体型の薄型モーターを採用。
構造を見るとホンダのIMAやスバルのXVハイブリッドと同様だし、最高出力16kW、最大トルク250Nm、容量1kWhのリチウムイオンバッテリーというスペックもそれらを上回る水準にある。
電動パワーに余裕があるから、走行時の駆動アシスト/減速回生はもちろん、電動エアコンや電動ウォーターポンプなどの補機類をはじめ、低回転域でターボをアシストする電動スーパーチャージャーの駆動までやる。
ここまでやるなら、もうちょっと大型のモーターと大容量電池を積んでPHEVにすればいいのにとさえ思うが、おそらくそれは将来のプログラム。マイルドハイブリッド仕様ですらこの豪華ラインナップで出てくるところが、さすがベンツの次世代フラッグシップエンジンというところだ。
■直6の復活で純内燃機関の最後を飾るか!?
こうなると、楽しみなのがマツダが開発中の直6エンジンだ。2020年の中期経営計画発表次に写真がチラっと発表されたが、スペックや性能はほぼ同じクラスを狙っていることが予想される。
最近にわかに「内燃機関はあと10年ちょっとで禁止」みたいな話題が飛び交っているが、遠からず無くなるのは電動化されていないピュア内燃機。ベンツのM 256を見ればわかるとおり、最新のエンジンはバリバリに電動化されているのが常識で、こういうプレミアムゾーンのエンジンはEVと住み分けてまだまだ需要があると見込まれている。
ひょっとすると、内燃機関の有終の美を飾るファイナルエディションになるかもしれないけれど、そういう意味でも最新の直6には一度は乗ってみたいものですよねぇ。
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