プジョーが採用したことで一躍有名になったイビデンのDPF。最大の特徴は一般的なコージェライトよりも熱伝導特性に優れたSiC(炭化ケイ素)をその成型性の悪さを克服して担体素材に採用した点だった。同社の最新型DPFは非常に見所の多い製品である。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo) FIGURE:IBIDEN
イビデンがDPF(Diesel Particulate Filter)を商品化したのは2000年。当時一般的だったコージェライト製担体ではなくSiCを利用した点が特徴だった。互い違いに目封じされたセル構造を束ねて正方形のクラスターを作り、それを排ガス流量などに応じて複数個組み合わせ、不要な部分を削り取るという製造方法だった。
その後イビデンは、担体の単位容積当たりのアッシュ堆積許容量増加をねらってセル構造を改良した。排ガス流入側の開口面積をできるだけ大きく取り、排出側を小さくするという構造である。いくつかの組み合わせの中から選ばれたのが、上のイラストのような8角形(オクタゴン)と4角形(スクウェア)の組み合わせである。オクトスクウェアを略してOSと名付けられたこの構造は、04年に学会発表された。00年当時を1とすると、容積当たりのアッシュ堆積許容量は1.5倍になったという。同じアッシュ堆積許容量を得るとすれば、担体容積は1.5分の1、つまり67%で済む。製造段階での環境負荷も同様に減少する。LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)も加味した環境負荷は20%減り、DPFとしての総合環境性能は、00年を1とした場合に1.6まで上昇した。
OS構造の開発で重要だった点は、入り口側と出口側の開口面積比だという。入り口側を大きくし過ぎると抵抗が発生し圧力損失が生まれる。圧損を極小化しながらアッシュ堆積許容量を最大限にする比率が、この8角形と4角形の組み合わせだった。また、8角形同士が接する部分の斜めになった壁面にもPMが付着することをガスの流動解析で確認し、この形状を選択したという。00年当時のDPFでは70~80gのアッシュ堆積、走行距離に換算すると約8万kmで圧損が大きくなったが、OS構造では壁の表面積が1.5倍になったことからアッシュ堆積許容量も1.5倍となり、12万km走行までDPFの洗浄は不要になった。
さらに、OSセル構造に続いてさらなる環境負荷低減のために開発された技術が、ネットシェイプと呼ばれる担体製造方法だ。従来はセルを束ねた正方形のクラスターを組み合わせ、自動車メーカーがオーダーしてきた断面形状に応じて切削し形状を整えていた。真円断面のDPFを製造する場合は、まず4×4あるいは5×5のように正方形にクラスターを束ね、不要な部分を削って円にしていた。削る部分は原材料のロスになっていた。ネットシェイプは、クラスターの形状そのものを「かぎりなく製品形状に近付ける」というニアネット工法を用い、原材料ロスのゼロ化を狙っている。
上の写真はその概念だ。従来からの正方形クラスターを中央部分にだけ使い、外周に接する部分は円周を8分割した形状のクラスターで形成する。16分割していたものを12分割で作れるわけだ。成形技術の進歩でこうした特殊形状のクラスターが可能になった。原料歩留まりはほぼ100%となり、廃棄される原料をなくすことで環境負荷を低減し製造コストも抑えられる。前述のOSセル構造を採用したDPFの環境性能は1.6だったが、ネットシェイプを導入すると1.9になる。00年の製品化当時に比べ、約2倍の性能になるわけだ。
もっとも新しい技術は、PMろ過壁の表面に特殊な薄膜コーティングを施すことで捕集効率を上げるというものだ。担体表面にまったく煤が付着していない状態では、単位流量当たりのPM捕集効率が80%程度にとどまる。表面にある程度PM層が堆積すると捕集効率はほぼ100%になる。そこで、PMが堆積した状態に似た構造の膜を表面に10~20μの厚みでコーティングし、捕集効率を高めることに成功した。セルの壁の厚みは約250μであり、この表面に均一な疑似PM層を形成する。
欧州では2012年にPM数量規制が導入され、走行1km当たりの上限が「6×10の11乗」となるが、OS構造と疑似PM膜の組み合わせで「6×10の8乗」まで、つまり2桁も減らせるという。
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