知っているようで、実はよくわかっていない…そんなことってよくあるよね。それはバイクに関することでも同じことが言える。ならば、ここであらためて、その道のスペシャリストに話を聞いて確実に知識を得よう! ということで、今回はエンジンオイルのマイスターに疑問・質問30連発を答えていただいた!
文:ノア・セレン/写真:松川 忍、柴田直行/取材協力:ワイズギア
ワイズギアのエンジンオイル担当者に直撃取材

▲今回取材に協力していただいたのは、ヤマハ純正アクセサリーを開発・販売する「ワイズギア」で、ヤマハ純正オイル「YAMALUBE(ヤマルーブ)」を担当する片山剛志 氏(写真右)と立石康記 氏(写真左)のご両人だ。写真中央はノア・セレン。
「オイル交換」はバイクメンテナンスの基本のキ! 自分で整備するならまずはオイル交換かな、みたいなイメージがあるよね。ただ実際にオイル交換をやろうとすると、作業そのものも案外大変だし揃えなければいけない工具なども多かったりする。
そもそもオイル交換するのにどんなオイルを使ったらいいのもかわからない。ホームセンターにも多くのオイルが販売されているのに、バイク用品店に行ったらそれこそ選択肢は無限にある。オイルブランドだけでなく、その中にも様々な種類がある…これはなかなか複雑だ。
迷った時は純正オイルに限る! その中でもワイズギアが展開する「ヤマルーブ」ブランドは、あのロッシ選手がワッペンをつけて走っていたのだから馴染があるはず。そう、ヤマハは早くから自社ブランドのオイルを展開してきたことで、多くのヤマハユーザーに親しまれてきた。今は6ブランドを展開するヤマルーブのオイル。粘度も(一部スクーター用REDブランド除き)全て10W-40としているため、シンプルで手に取りやすいラインアップになっている。

ヤマハ車はもちろんのこと、すべてのオートバイに安心して使用できる!
ヤマハ純正の4スト用オイル「ヤマルーブ」は、現在6種類をラインアップしている。一番左から紹介するとシリーズ最高峰の「RS4GP」100%化学合成油、同じく100%化学合成油の「プレミアムシンセティック」、そして部分合成油の「スポーツ」、鉱物油の「スタンダードプラス」、スクーター用の部分合成油「ブルーバージョン For スクーター」、最後は「レッドバージョン For スクーター」鉱物油だ。
ヤマハはエンジンを開発するようになったころからオイル作りにも着手し、エンジンの作り込みや不具合の解消をオイル開発と共に進めてきたため、その歴史は古い。それが今のヤマルーブブランドとなったのは1967年、アメリカでのこと。そして世界統一ブランドになったのは92年と、わりと最近の話である。
それ以来ヤマハはずっと「オイルは純正パーツ」と捉えてきた。ゆえに日本自動車技術会によって定められるJASO規格を満たすのはもちろんのこと、それ以上の厳しい独自の社内規格を設けるなど、その性能は折り紙付きだ。今では世界中で認知され、あらゆる地域において高い信頼を得ている。
その一例として挙げられるのが、バイクが日常の移動手段であるインドネシア。現地では高価な財産であるバイクを大切にする意識が高く、エンジントラブルを未然に防ぐために、信頼できる純正オイルを短いスパンで交換するのが当たり前となっている。結果、ヤマルーブオイルの消費量が非常に多い地域となっているそうだ。
長い歴史と確かな性能、そして厳格な社内基準まで設けて作られるヤマルーブオイル。オイル交換をするにあたって、またはそもそものオイルにまつわる様々な「疑問」について、熱い思いをもったスペシャリストから、興味深い話をいろいろお聞きすることができた。

一部のヤマハ車には専用のオイルチェンジキットを設定
A、B、Cと3タイプのキットを設定し、工具以外にオイル交換に必要な物が一式入っている。車種によってはワイズギアのHPでオイルの交換方法をわかりやすく解説しているので初心者でも安心だ。

ヤマハのエンジンオイルはすべて鉱物油で開発!
ヤマハの全モデルは鉱物油の「スタンダードプラス」で開発されている。200PSを発生するYZF-R1も、もちろんこのオイルで開発された。ちなみにヤマルーブはレッドバージョン For スクーターを除いて全て10W-40となっている。
【Q&A】エンジンオイルに関する30の質問・疑問
Q.1 鉱物油、部分合成油、100%化学合成油はナニが違うの?
A.一番違うのは値段! 化学合成油の方がプレミアム
オイルのグレードを選ぶときの基準としたい項目。鉱物油は原油から精製しベーシックな添加剤のみを加えたものなのに対し、合成油は原料であるオイルやガスを化学分解し、使いたい部分だけを抽出し更なる高性能を求めてブレンドしている。
部分合成油はこれと鉱物油を混ぜたもので、化学合成油だけで構成されるのが90年代半ばに登場した100%化学合成油。化学合成油の方がパフォーマンスが高く劣化も緩やかだが、その分高額だ。

ヤマルーブオイルは上の写真の3つは化学合成油を使用している。右の「スポーツ」は鉱物油とブレンドした部分合成油。左の「プレミアムシンセティック」と中央の「RS4GP」は100%化学合成油。RS4GPにはMotoGP技術を投入して開発。
Q.2 オイルには硬さがあるってホント?
A.ホント。車両によって指定粘度がある
今のヤマルーブオイルは皆同じ硬さ(粘度 10W-40)で統一されているが、他のオイルメーカーでは様々な硬さのオイルが作られている。
エンジンオイルは、そのエンジンの使用用途や冷却方式によって、または使用する環境、温度帯によっても求められる粘度が違うので、車両の取扱説明書が指定する粘度のものを使おう。エンジンオイルの他にも、ギアオイルやサスペンションオイルなどは様々な粘度のオイルが存在している。

ガラス管の中に3種の粘度の違うオイルを入れ、玉が落ちる速度の違いを検証。右のオイルは最も柔らかいので一番早く玉が落下する。その反面、左の一番硬いオイルの玉は、右端の柔らかいオイルの玉が底についても、まだ半分も落下していない。
Q.3 10W-40ってどんな意味?
A.使用温度帯の目安となる粘度の数値
米国自動車技術者協会(SAE)が設定した、オイルの粘度(硬さ)を示す表示で、左側のWと共に表示される数値は低温時の性能、ハイフンを挟んで右側に表示される数値は高温時の性能。ただし、この数値は外気温を表示しているわけではないので勘違いしないように。
柔らかい(数値の低い)オイルは寒冷地でもエンジン始動性が良く燃費も伸びる傾向なのに対し、硬い(数値の高い)オイルは高温時でも油膜が切れにくい特性となっている。
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左側の数値が低いほど寒冷地に強く、右側の数値が高いほど真夏や高温時に強い。ヤマルーブオイルはすべて10W-40なので、北海道から沖縄までをカバーできる。
Q.4 MA、MA1、MA2、MBってナニ?
A.「クラッチの滑りやすさ」と捉えよう
これは日本自動車技術会(JASO)が定めた二輪車用オイル規格。
ギア付バイクのエンジンはクラッチやミッションもエンジンオイルで潤滑するため、クルマに比べてその役割は多い。バイクの場合、クラッチ滑りの原因となるオイル配合を避ける必要があるので、MAはクラッチ滑りをまねく可能性のある「モリブデン」などを配合していない。
さらにMAは1と2に細分化され、MA2はよりクラッチが滑りにくくなっている。MBはスクーターなどクラッチ滑りを心配しなくていい車種用の配合だ。
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ヤマルーブでは、スクーター用オイルだけがMB規格となっている。湿式クラッチ車はMAを入れるべきだろう。乾式クラッチ車はMBを入れてもOK。なおMB指定の車種にMAを入れても問題はないが、逆はNGだ。
Q.5 どんなエンジンオイルを選べばいいの?
A.まずは自分が乗っている車両の説明書を見よう
大前提として、その車種で決められているオイル粘度とJASO規格を守ること。なのでまずは取扱説明書で確認すること。その上でどのグレードのオイルにするかは使い方で決めよう。
空冷エンジンのバイクで真夏に渋滞路ばかりを走るといったオイルに高い負荷のかかる使い方なら、より高いグレードの化学合成油を使った方が安心だ。
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バイク用品店では、さまざまな種類のエンジンオイルが販売されているが、愛車に適したものを把握すれば、グッと絞り込まれる。
Q.6 高額なオイルを入れた方がエンジンには良いの?
A.金額よりもグレードに注目して選ぼう
ブランドを跨いで「とにかく一番高額なものを」ということではないが、同ブランドの中ならよりハイエンドなもの(100%化学合成油)を選んだ方が確かにオイル性能は優れている、しかし、それに連動して価格は高額だ。
高性能オイルはフリクションが少なかったりギアの入りが良かったりといった性能面での優位性だけでなく、酸化や性能の低下具合も緩やかで、オイル交換まで高い保護性能を維持してくれるのも魅力だ。高額オイルはプレミアムスポーツバイク用というわけではなく、セロー250のような空冷エンジンモデルにこそ積極的に使って性能維持に役立てたい。
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ヤマルーブの100%化学合成油は、MotoGP技術の投入でよりエンジンのパワーを引き出せる「RS4GP」や、油温の上昇しやすい使用状況での性能維持性に優れた「プレミアムシンセティック」など、使用目的に合わせて選ぶことができる。
Q.7 全合成油って100%化学合成オイルのこと?
A.100%化学合成油とは限らない
鉱物油、部分合成油、100%化学合成油と一般的に3種類の分け方がされることが多いバイク用オイルだが、実は明確な基準がなく各メーカー共に表示方法は様々。そのため「全合成油」という表記を目にすることも。しかし、これの中身の割合はメーカーによって違うため、なんとも判断しにくい。

Q.8 季節ごとにオイルの硬さを変えた方がいいの?
A.現在はもう変えなくても大丈夫
オイル性能の向上により、ヤマルーブオイルは全て10W-40なので、通年で使用できる。
ただ寒い時期になるとエンジン内で結露が発生し、エンジン始動から短距離しか走らず、オイルが温まる前にエンジンを停止してしまうような使い方をすると、オイルに水分が混ざりやすくなり性能低下が早まる。冬季こそ早めのオイル交換を!
Q.9 添加剤って何? すべてのオイルに入っているの?
A.鉱物油も化学合成油も添加剤がキモ
化学合成油には様々な添加剤が入っているが、実はベーシックな鉱物油でもベースオイルは80%ほどで、残り20%は添加剤で構成されている。
摩擦を減らす、圧縮や密封を保つ、防錆、洗浄といった様々な機能を満たすために添加剤は必要なのだ。JASO規格では使用量を制限している成分もある。添加剤の配合は各オイルメーカーの腕の見せ所!
Q.10 市販の添加剤をオイルに混ぜても大丈夫?
A.大丈夫とされているが……
アフターマーケットの各種添加剤には「どんなオイルに混ぜても大丈夫」と記載してあるが、何が起きるかわからないのでヤマルーブには使わないで欲しいとのこと。すでに最適なバランスで各種添加剤が配合されているため、他の添加剤を加えると沈殿物が発生する可能性もなくはないという。効果と同時にリスクも考慮しよう。
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