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エンジン搭載車におけるカーボンニュートラル(CN)実現に向けて、欧州と日本で大きな動きがあった。電気自動車(BEV)を強く推進してきた欧州は風向きが少し変わり、ドイツを中心にCN燃料の取り組みも加速する。日本では、CN燃料を使った車両が耐久レースを走り、トヨタ自動車が中心となった技術研究組合が立ち上がった。
液体のCN燃料は、エンジン搭載車が排出する温暖化ガスを実質ゼロにする高エネルギー密度の化学電池(バッテリー)だ――。合成燃料(e-fuel)やバイオ燃料といったCN燃料に自動車業界が力を注ぐ理由はここにある。
この主張は、ドイツのマックス・プランク化学エネルギー変換研究所の国際会議での講演から拝借したものだ。2022年4月にオーストリアで開催されたパワートレーンの国際会議「第43回Vienna Motor Symposium(ウィーンモーターシンポジウム)」で、ドイツのマックス・プランク化学エネルギー変換研究所などが、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)からe-ガソリンを製造するプロセスを紹介。
その中で液体のCN燃料は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)にも対応するCO2ニュートラルな化学電池(Chemical Batteries)だと主張した。もともと、2次電池は電気化学技術の製品だが、ここでいう化学電池とは、エンジンの動力エネルギーに変換できる化学エネルギーを液体燃料として蓄えることを意味する。その中でも、e-メタノールよりe-ガソリンのほうが質量エネルギー密度が高く、良質な化学電池だと強調する。
マックス・プランク化学エネルギー変換研究所は、マックス・プランク協会傘下の84の独立した研究所の1つである。協会は今までに、アインシュタインをはじめとする37人ものノーベル賞受賞者を輩出してきた世界最高峰の非営利学術研究機関である。
欧州でCN燃料に追い風
前のコラムでも記載した通り、2021年7月に欧州委員会(EC)から出された欧州グリーンディールの包括的な法案「Fit for 55 Package」の中の「乗用車および小型商用車のCO2排出基準の改正案」(実質2035年に内燃機関搭載車の新車販売禁止)が、2022年6月29日に欧州の閣僚理事会で支持された。
ただしECは、e-fuelを含むCN燃料技術やプラグインハイブリッド車(PHEV)技術の進捗を考慮して、2026年に見直しを実施することも確認した。この文言の追記が大きな変化点だ。
CN燃料への追い風はこれだけではない。
欧州自動車工業会(ACEA)は、2028年までに再生可能エネルギーを活用した合成燃料のCO2削減量を評価すべきである、とのスタンスをとる。ドイツ自動車工業会(VDA)は、「CNに向けて常に技術中立であり、あらゆる技術革新を阻害してはならない。水素やe-fuelへの投資にもインセンティブを与えるべきだ」と強調する。
欧州自動車部品工業会(CLEPA)は、CO2低減はWell to Wheel(WtW:1次エネルギーから走行中まで)で議論すべきで、高効率エンジン技術と再生可能燃料技術の組み合わせシナリオを強く推奨する。業界団体のほかに、ドイツ政権は2035年以降でもe-fuelを利用できるエンジン搭載車の新車販売は可能とする旨を連立協定書に明記した。
現時点では、欧州閣僚理事会でのCN燃料などのただし書きに強制力はない。自動車業界は静観しているものの、ECの乗用車などのCO2排出基準改定案は見直される可能性が出てきた。
一方、環境NGO(非政府組織)では、e-fuel製造時の消費エネルギーの多さや高コスト、生産量、燃焼時の窒素酸化物(NOx)の発生による大気汚染などの観点から、自動車への適用は非現実的と指摘する。EC内でも、生産量やコストの観点から自動車より電動化しにくい航空や船舶部門への活用が有効だとの見解もある。
自動車業界よりは優先度が高いのは確かだが、航空機や船舶での利用が進めばe-fuelの生産拠点、生産量は大きく増加していく方向となる。それにより高効率化や低コスト化が進み、近い将来ではないが、将来自動車部門への普及も確実だろう。14億台以上の既販車のCO2低減にも必須だからだ。もちろん、既販車には既存燃料にCN燃料を5~20%程度ブレンドして広くCO2低減に貢献することになる。
耐久レースでしのぎを削る日本メーカー
政府関係や業界団体の主張が交差する欧州とは対照的に、日本では自動車メーカーをはじめとする企業がCN燃料の取り組みを積極的に進める。
からの記事と詳細 ( 欧州も注目するカーボンニュートラル燃料は、エンジン用の化学電池だ - ITpro )
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