Friday, August 11, 2023

スペック表から読み解く! エンジンのパワーを断続する「クラッチ形式」とは? - バイクのニュース

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バイクのカタログや、メーカーHPに掲載されている「スペック」や「仕様」、「諸元」の表には、購入時の参考やライバル車との性能比較など、役立つ情報が含まれています。「クラッチ形式」の欄を見ると「湿式多板」が主流ですが……。

クラッチが無いと、止まれないし、ギアチェンジも難しい!

 バイクのエンジンは始動して回転を始めると、アクセル操作で回転数を変えることはできますが、エンジンを止めるまで回転したままなので、もしエンジン(クランクシャフト)とリアタイヤが直結していたら、信号などで止まることができません。

クラッチの概念図。クラッチプレートとフリクションプレートを密着させることでエンジンの駆動力がトランスミッションに繋がり、クラッチレバーを握って隙間を開けると駆動力が切り離される
クラッチの概念図。クラッチプレートとフリクションプレートを密着させることでエンジンの駆動力がトランスミッションに繋がり、クラッチレバーを握って隙間を開けると駆動力が切り離される

 実際はエンジンとタイヤの間にあるトランスミッション(変速機)を「ニュートラル」にすればバイクは動きませんが、そのためにはギアを切り替える必要があります。しかもエンジンの回転がトランスミッションに伝わったままの状態では、ギアを切り替えるのも困難です。

 そこでエンジン(クランクシャフト)とトランスミッションを繋げたり切り離したりして、エンジンの駆動力を断続するのが「クラッチ」です。

 クラッチの仕組みは、金属の「クラッチプレート」と、金属板に摩擦材を貼り付けた「フリクションプレート」を「クラッチスプリング」の力で強く密着させることでエンジン(クランクシャフト)の回転をトランスミッションに伝えます。そしてクラッチレバーを握ると、クラッチプレートとフリクションプレートの間に隙間ができて、エンジン(クランクシャフト)の回転が切り離されます。

「湿式」が主流だけれど、「乾式」もある!

 スペック表の「クラッチ形式」を見ると、スポーツバイクの多くが「湿式多板コイルスプリング」または「湿式多板」になっています。「湿式」とは、クラッチの部品がエンジンオイルに浸されている、またはエンジンオイルを降りかける構造のこと。「多板」はクラッチプレートとフリクションプレートが複数枚あるものを示し、この枚数は一般的に排気量やパワーの大きなエンジほど多くなります。

スポーツバイクで主流の「湿式多板コイルスプリング」のクラッチ。写真はカワサキ「ZRX1200DAEG」のクラッチ部品
スポーツバイクで主流の「湿式多板コイルスプリング」のクラッチ。写真はカワサキ「ZRX1200DAEG」のクラッチ部品

 この他に「乾式多板」という形式があり、こちらはエンジンオイルに浸したり降りかけたりせずに、クラッチが「乾いた状態」のタイプです。湿式よりもエンジンのパワーをロスなく伝えられるため、MotoGPのレーシングマシンやドゥカティの「パニガーレ(V4 SP2、V4R)」などが装備し、かつてはホンダ「NSR250R SP」やスズキ「GSX-R750R」等の特別モデルが採用していました。

 ただしバイクの乾式多板クラッチは、クラッチプレートやフリクションプレートが摩耗しやすいため寿命が短く、頻繁なメンテナンスも必要になります。またクラッチ操作も難易度が高いため、公道を走る一般的なバイクでの採用例は、過去も現在もかなり少ないのが実情です。

ドゥカティ「パニガーレV4 SP2」が装備する乾式クラッチ
ドゥカティ「パニガーレV4 SP2」が装備する乾式クラッチ

 またBMW Motorrad「R 18」シリーズの空油冷水平対向2気筒エンジンは「乾式単板クラッチ」を装備しています。こちらは「単板」という通り、大径のクラッチプレートが1枚のタイプで、4輪車が多く採用する形式です。

 BMWの水平対向2気筒エンジンは車体に対して縦置きされ(かつての4輪車で多かった「FR方式:フロントエンジン、リア駆動」と同様のレイアウト)、スペース的にも効率よく大径クラッチを装備できたからでしょう。ただし水冷式の水平対向2気筒エンジンは、湿式多板クラッチを採用しています。

ライダーが操作しなくてもOKな「自動遠心クラッチ」とは?

 スクーターやビジネス車などのコミューターのクラッチ方式を見ると、ヤマハは「乾式、遠心、シュー」、スズキは「自動遠心式」と表記される車種が多いです。これはエンジンの回転による遠心力の強さによって、クラッチレバーの操作なしでクラッチを密着させたり切り離したりするタイプです(アイドリングの回転数ではクラッチが切れ、アクセルを開けて回転数が上がるとクラッチが繋がる)。

クラッチ操作が不要なヤマハのスクーター「X FORCE」では、クラッチ形式に「乾式、遠心、シュー」と記載されている
クラッチ操作が不要なヤマハのスクーター「X FORCE」では、クラッチ形式に「乾式、遠心、シュー」と記載されている

 ホンダはスペック表には記載がありませんが、「スーパーカブ」や「クロスカブ」(50および110)、そして「スーパーカブC125」、「CT125・ハンターカブ」、「ダックス125」に自動遠心式のクラッチを採用しています(現行モデルは発進用の遠心クラッチと、変速用クラッチの2段クラッチシステムを採用し、スムーズな発進と滑らかな変速を実現)。また50~250ccクラスのスクーター全車も自動遠心クラッチを装備しています。

 メーカーや車種によって実際の構造は異なりますが、自動遠心式のクラッチの最大のメリットは、なんと言ってもクラッチレバー操作を必要としないため「AT限定免許」で乗れるところです。

 ちなみにホンダの「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」装備車や、ヤマハの「YCC-S(ヤマハ電子制御シフト)」装備車もクラッチレバー操作が不要なためAT限定免許で乗れます。

 しかしAT免許でOKか否かは残念ながらスペック表では判断できないので、そこはバイクメーカーのホームページにある「免許別ラインアップ」を確認することが間違いないでしょう。

【画像】「クラッチ形式」が異なるバイクを見る(11枚)

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二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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