システム設計の人材育成やツール提供を手がける株式会社レヴィは、宇宙開発分野におけるシステムズエンジニアリングの第一人者である竹内芳樹氏を顧問として迎え入れました。
プレスリリース: 宇宙ステーション実験棟「きぼう」の元プロマネをメンバーに迎え、システム工学分野の研究開発に向けた体制を強化
今回は、顧問である竹内氏から当時の宇宙ステーション開発プロジェクトのご経験を軸に「ものづくりに、どうシステムズエンジニアリングを活かすか」という視点でお話いただきました。システムズエンジニアリングの基本的な考え方や、今後の日本のものづくりがさらに発展していくためのヒントがつまったインタビュー内容をまとめてご紹介します。
竹内芳樹氏 インタビュー
聞き手:三浦、ナラ、萩原(株式会社レヴィ メンバー)
未知のシステム「宇宙ステーション」を完成させるために必要不可欠だった、NASA式の「システムズエンジニアリング」とは?
三浦 :今日は株式会社レヴィの顧問の竹内さんにお越しいただいています。早速ですが、竹内さんは国際宇宙ステーションのプロジェクトマネ―ジャーだったということで、そのあたりのご経歴からお伺いしてもよいでしょうか。
竹内さん:私は1984年に三菱重工に入社しました。その年がちょうどアメリカのレーガン大統領が国際宇宙ステーションを作ろうと自由主義国(ヨーロッパ、カナダ、日本)に呼びかけた年だったんですね。プロジェクトがちょうど立ち上がった年に新入社員でプロジェクトにジョインしました。概念設計からはじまり、要求設定、システム設計、基本設計、詳細設計やソフトウェア開発まで幅広く関わって、宇宙ステーションのプロマネに就任したのが2010年ですね。その後宇宙ステーション補給機の「こうのとり」のプロマネも勤めまして25年ほど宇宙ステーション開発に携わりました。
三浦:ご経験がすごすぎていろいろ聞きたくなってしまいますが、今日は特にシステム開発の部分についてお伺いさせてください。例えば宇宙ステーションをつくるときのシステム設計って、どういうところが重要なポイントになるのでしょうか?
竹内さん:そもそも、システム設計って何かというところからお話したいと思います。例えば、「きぼう」の外部インターフェースを一枚の絵にまとめたものがこのスライドです。複数のインターフェースが複雑に関わりあっているのがわかると思います。
竹内さん:この複雑なシステムをつくるためには、たくさん考えないといけないことがあります。たとえば、宇宙空間で機体に穴が空いてしまったら?どう安全性を確保する?ものが壊れたときにどうやってクルーとコミュニケーションをとって解決する?なども含め、数えきれないほどの要求があります。これらの要求をすべて満たす解を探すのがシステム設計です。
三浦:このスライドの図だと、真ん中に「きぼう」システムがあって、それに関連するインターフェースを矢印でつないでいますね。こうやって、最初にステークホルダや外部要素を出していくことはレヴィもコンサルティングの中でよくやっているのですが、やはりこのあたりは、一番最初にやるべきことなんでしょうか。
竹内さん:そうですね。ステークホルダーと外部インターフェースを洗い出すことは重要ですね。特に宇宙ステーションをつくる時というのは、宇宙ステーションという「未知のもの」がどんなものか、そもそも誰もわからないんですよ。なにをインターフェースにするかも誰も考えられていないときに、「きぼう」を作り始める必要があったので。この図は、最近書いたものです。最初からこのような図が整理して書けた訳ではないです。 役割分担としては、NASA、JAXAがプロジェクトを推進していて、三菱重工等メーカーはものづくりを担っている。最初の2年間は、JAXAの下に重工メーカー、電機メーカー8社が参加して、約100人規模のチームで設計を進めました。決めたことは構想や要求書を文書に落とすんですが、ものすごいボリュームになりました。
萩原:決める粒度が難しそうですね。様々な関係者で未知のものをつくるときに、意思決定やドキュメントづくりはどうしていたんでしょうか?
竹内さん:そこでまさにNASA式のシステムズエンジニアリングの出番なんです。 概念設計、詳細設計など、「どこまでの」「なにを」「どの粒度で」決めるのかが、ぜんぶかかれている。フェーズABC・・と段階的に進めていきました。
三浦:ここで、NASA式のシステムズエンジニアリングの話がでてくるんですね。 ちなみに、NASA式のシステムズエンジニアリングの手法について内容をわかりやすくまとめた「サルでもわかるNASA式システム開発」という資料があります。無料でダウンロードできるのでご覧のみなさま、ぜひダウンロードしてみてください。フェーズABCの話も詳しく書いています。
竹内さん:どのくらいの粒度でどうやって決めていけばいいのか、これまでに作ったことのあるものであれば、日本企業も、これまでの経験値からだいたいあたりがついている。しかし、ゼロからの開発はやったことない分野。そこは日本が苦戦した。その為NASA式のシステムズエンジニアリングが重要だった。1984年の入社時に会社にパソコン1台もない時代でした。大型コンピューアはありましたけどね。オアシスというワープロが部署に3台あっただけです(笑)。ドキュメントづくりや意識合わせの部分も大変なところがありました。
三浦:インターネットがない時代にどう日本からNASAと打合せするのか・・。想像しがたいですね。
竹内:電話会議(スピーカーフォン)とFAXを使ってなんとかやっていました。あのとき、Balus(レヴィが開発した対話型モデリングツール) があったら、もっとスムーズにできたかもしれませんね。
アメリカが日本のカイゼンに勝つためにはじめたのが、新しい発想を生み出すシステムズエンジニアリングの手法
ナラ:先ほどからお話にでている「NASA式のシステム開発」について、この手法をまとめた本が1995年にアメリカで発売されて、20年たった今でもバイブルといわれていうことなんですが、これは本当なんでしょうか?まだパソコンも普及していない時代につくられたシステム設計の手法が現在でも有効ってどういうことなんだろう、どんだけすごいんだろうっていうのが気になっているんですが・・。
竹内さん:1995年出版というと、時代的にはWindows95がでた年ですね。なんでアメリカがシステムズエンジニアリングを色々な分野で使い始めたかを知っていますか?日本に勝つためなんですよ。
ナラ:ええっ、そうなんですか!?
竹内:もともとシステムズエンジニアリングって1950~60年代にアポロとか巨大なシステムをつくるためにあみだされた方法で、それが脈々とアメリカの中で使われてきたんですね。その後、1970~80年代、日本が急成長した。なぜ?その土台になったのが「カイゼン」ですね。日本人の器用さでUSの開発したものをもってきて改善する。そしてより高性能なものを作り出すというのが日本工業の強さです。
日本の「カイゼン」はすごくて、アメリカはそこでは日本に勝てないということで、違う方向で取り組んだのが、システムズエンジニアリング。新しいものを生み出す(要求を実現させる)手法です。iPhone やFacebookもしかり、次から次へと新しい発想でものを生み出す。最近のアメリカをみているとそういうのがすごく得意ですよね。でも日本人はそれは苦手。
そこの差はなにか? アメリカは教育も、システムズエンジニアリングに重きをおいているんです。だから、新しいものをつくることができる。日本の大学(院)でシステムズエンジニアリングの学位を取れる学校は僅かですが、アメリカには100校近くあります。
日本の大学は、技術的要素に重きをおいています。企業も「新しいものをつくる」という教育や育成をやっていない。改善、改善で積み重ねているけれども、それでは新しいものをつくれない。 NASA式のシステムズエンジニアリングはそれができるからすごいんですよね。
ナラ:日本のものづくりをやっているひとは、「システムズ・エンジリアニング」は必須で学ばなければいけないものだと感じました。
萩原:新卒入社でものづくりをするソフトウェア開発の企業に入社しましたけど、確かにシステム設計を教えてもらった記憶はない。先輩の背中をみて学ぶスタイルでした。レヴィのお客様の話を聞いていても、いまのソフトウェア開発の会社でシステム工学をちゃんとやっている会社はほとんどないんじゃないかなと思いますね。
竹内さん:なぜそれができないのかっていうと、教育のありかたもそうなんですけど、「システム」って言葉のイメージに問題があると思っています。日本でシステムっていうとみんなコンピューター、ソフトウェアだと思ってしまう。システムという言葉が正しく理解されていない。みんなコンピューターのことで自分には関係ないと思ってしまう。そこが、日本でシステムズエンジニアリングを根づかせるためにネックになっていると思います。
「縦割りで開発してもうまくいかない」。ものづくりが複雑になるほど、その課題は大きくなる・・・。自動車メーカーも取り入れ始めたシステムズエンジニアリング。
三浦:アメリカを追い越すほど日本のものづくりが急成長した土台には「カイゼン」があって、現状はそのカイゼンの積み重ねだけでは新しいものを生み出せなくなってしまっているということですね。日本でシステムズエンジニアリングが重要になってきた状況がよくわかりました。
ナラ:以前NASA式システム開発についてのブログを書いたときには、「システム開発で失敗しないための3つのヒント」というテーマでまとめたのですが、今回「新しいことを生み出す」という視点が新鮮で驚きでした。
竹内さん:システムズエンジニアリングは、失敗しないためにももちろん使えますが、やはり今後は新しいものをつくるというところが求められていくと思いますね。
ナラ:宇宙ステーション開発でシステムズエンジニアリングが役立ったところはどんなところですか?
竹内さん:すべてです。それがなかったらできない。
萩原:複雑なシステムになってくると、システムズエンジニアリングの手法を使わないと無理ですよね。要求が多すぎる。
竹内さん:縦割りで開発してもうまくいかないんです。「きぼう」のシステム要求を例にすると、「きぼう」には、環境制御系(空調など)、通信系(きぼう内部や宇宙ステーション本体とのデータ伝送など)、電力系のようなサブシステムがあります。、ひとつひとつのサブシステムの設計についてはみんなの頭にあって検討は進むのですけが、それらをどう横ぐしさしてつなげるかというところがなかなか進まない。それぞれのサブシステムをつなげるシステムがないとうまくいかないよねということになって、それらをEnd-to-endに繋げるために「管制システム」というシステムを提案し、それを中心に全てのシステムを繋ぎこんだんです。これもシステムズエンジニアリングの考え方で、キーとなるものです。
三浦:今のように、コンピュータとネットワークでぜんぶ制御する世の中じゃなかったですし、画期的だったと思います。
ナラ:システムズエンジニアリングの手法を取り入れることで、縦割りではなくて横ぐしで開発ができて、それぞれのシステムがうまく連携しながらどんどんよくなっていくというイメージがもてました。
竹内:自動車を例にすると昔と今の時代の変化がイメージしやすいと思います。昔の自動車というのは、エンジン、ハンドル、ブレーキがそれぞれが独立しており非常にシンプルなつくり。でも今の自動車では、自動で止まる、ハンドルをきる、スピードを変えるなどすべてコンピューターと繋がって制御されている。昔のような車のつくりかたでは対応できないですよね。なので、日本の自動車業界もシステムズエンジニアリングに力をいれだしている。こういう動きが、業界問わず今後の日本のものづくりの中で広がっていくと思います。
三浦:より複雑なシステムが求められはじめた自動車業界で、 システムズエンジニアリングの手法が注目されているんですね。
どうやったらシステムズエンジニアリングをはじめられる?プロマネは絶対理解しておくべきこと。
ナラ:システムズエンジニアリングをやるとすごくうまくいきそうというイメージはわいたのですが、どうやったらできるようになるのかが難しいのかなとおもって。言うは易く行うは難しというか・・。どうはじめたらいいのでしょうか?普段の仕事、ものづくりにいかすには?
竹内さん:小さなことからやってみるのが良いと思います。三浦さんがやっているようなシステムデザイン研究所の取り組みもありますが、そういうのに参加して実際にモデルを作ったり。自動販売機のモデルづくりなんかも勉強になると思いますね。
レヴィが主催する「システムデザインの学校」の講義の一例
三浦:レヴィでは学問としてのシステム工学を教えているわけではないですが、価値あるシステムをつくることができるようにとお客さんにサービスを提供しています。お客様対応を日々している萩原さんは、なにかアイディアやヒントがありますか?
萩原:ものづくりの世界って、当たり前ですが「ものをつくる」というところへの圧力が強いですよね。そういう最終的なものって具体的で手触りがあるんだけど、新しいものを生み出すためにシステムデザインでモデルを書いて議論していくっていうのは、空中にはしごをつくって、まだないものを想像してつくっていくみたいなもの。そのあたりが経験がないひとは難しい。なので、竹内さんがおっしゃったように、まずは簡単なものでもいいからモデリングしてみるというのがよいのではと思います。空中に足場をつくることに慣れていない人はまずは簡単なものから。
ナラ:お話をきいていて、お作法を習うというよりは「考え方を身に着けていくこと」がキーポイントだと感じました。そこで疑問があるのですが、そのシステムズエンジニアリングの「考え方」っていうのは、関わるメンバーはみんな理解していないとうまくいかないのものなんでしょうか。それともチームの中の一部のメンバー、例えばプロマネとかだけがわかっていれば大丈夫なのでしょうか?
竹内さん:まずはプロマネが理解していないと絶対にうまくいかないですね。チームの全員がすべて分かってないないといけないかというとそういうことでもない。ただし、それが必要という理解はしてもらう必要がある。分かんなくても、そういう風に進めるんだということを理解して着いていく。分からなければ分からないなりに着いていけばいい。 何でそんなことをやらなければいけなんだと否定にはいってしまうともうダメですね。
三浦:そのあたり、宇宙ステーションの開発の現場ではどうだったんでしょうか?
竹内さん:最初は日本の多くのメンバーはシステムズエンジニアリングのことは知りませんでした。NASAとやりとりするなかで、だんだんとこういう風にすすめればいいんだと、やりながら広がっていった。私たちはそれを取り入れざるを得ない業界だったのでスムーズだったが、そうでない、まったくシステムズエンジニアリングのことを知らない人の集団にやりましょうといって進めるのはとても難しいと思いますね。
萩原:「きぼう」のようなレベルで複雑なシステムはシステムズエンジニアリングの手法でないとつくれないからもちろんやるけれど、「いままでのやり方でも、できなくはない」ものはたくさんありますもんね。どんどんシステムは複雑になってきて、厳しくなっている。溺れかけている。でも作れなくはないから続けてしまっているという現状があると思います。
「今のやりかたでも、できなくはないから・・」を続けていった先は?
竹内さん:改善、改善・・でやってると、それなりにできちゃいますからね。一部のコンポ―ネントを変える、一部の性能を良くすることで乗り切ってきたが、もうそれで戦える限界にきていて、発想を変えないと世界に勝てないところまできていると思います。だから今、システムズエンジニアリングが必要だと、やっと日本の自動車業界が気づいたところじゃないですかね。今後、どこの業界も同じに必要になってくることだと思います。
三浦:まさにそういうところで、システムズエンジニアリングが役に立つといいですよね。さまざまな業界に広げていきたいと思います。レヴィとしても。
竹内さん:Balus(レヴィがつくっている対話型モデリングツール)はおもしろいですよね。皆が簡単に使えるSEツールとして育っていってほしいと思います。
三浦:ありがとうございます、頑張ります。今日はお話を聞かせていただいてありがとうございました!
★インタビューの中で紹介された資料「サルでもわかるNASA式システム開発」は、こちらから無料ダウンロードしていただけます。
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