絶好調な時には、胸のすくような「加速感を楽しむことができる2ストロークエンジン」だが、メカニズムがシンプルな分、コンディションを崩しやすいのもまた事実。仮に、4ストロークエンジンなら、単純なオイル滲みやオイル漏れのように見えてしまうが、2ストエンジンで「オイル漏れ!?」が発生した場合は、エンジンパワーに影響が出てしまう例が多い。ここでは、2ストロークエンジンのオイルシール=クランクシャフト周辺のオイルシールに注目してみよう。
2ストエンジン復活始動前には必ず実践
見た目は決して美しくないが、エンジンはスムーズに始動することができたスズキRG250E。高校生の頃にアルバイトで貯めた貯金を頭金に、月賦で購入(クレジットローンです)した思い出のモデルへ、再び乗りたくなって購入。この頃のバイクは、エキパイとマフラーが一体になっていない2ストロークモデルが多かった。メンテナンス性が良いと言えばそれまでだが、そんな構造にするほどエンジン周りを分解メンテナンスする頻度が高かったと言うこともできる。
クランクシャフトシールの重要性
エンジンを降ろして車体をバラバラにしてから磨いたり、タッチアップペイントを施し、再度、組み立て直す計画だったRG250E景観。エンジンを降ろす前にSSTを使ってフライホイールを取り外した。このフライホイールプーラーは、工具ショップのストレート製で購入した汎用品。フライホイールを外してCDI(この頃のスズキはPEIと呼んだ)&コイルベースを取り外すと、クランクシャフトシールが露出。軸芯のシールリップ部分に混合ガスの漏れ痕が無くて良かった。圧縮漏れしていると、オイルシールリップ周辺が湿った汚れでドロドロになっているケースが多い。
「ラビリンスシール」って何?
海外で開発された特許技術をヤマハが購入して、歴代ヤマハ車に採用してきたラビリンスシール。特許保証期間が終了したことによって、オーバーホールオーダーが多いカワサキトリプルファン向けに、iB井上ボーリングでは、ラビリンスシールキットを製造販売。カワサキトリブルのH1/H2、ミドルトリプルのS1/S2/S3のクランクシャフトオーバーホール時に、ラビリンスシール仕様へ組み換え依頼するユーザーが多い。
高性能エンジンのクランクセンターシール
iB井上ボーリングでは、新世代ラビリンスシール技術を導入し(極薄ラビリンス仕様)、ホンダNS250、NSR250R、NS400R、ヤマハTZR250Rなどの超高性能2ストロークレーサーレプリカのラビリンスシール化に成功。特に、ホンダNSR250Rシリーズは、MC16/MC18前期/MC18後期/MC21&MC28用をフルラインナップ。長期間にわたって高性能を維持することが難しいのがNSRシリーズ(センターシールがダメージを受けやすい)。マシンオーナーのあいだでは、すでに絶対的な支持を得ている。
取材協力/iB井上ボーリング https://www.ibg.co.jp/
POINT
- ポイント1・ 新旧問わず2ストエンジンの復活時はクランクシャフトのサイドシールを目視確認しよう
- ポイント2・排気煙の臭いがいつもと違い、クラッチ側の煙が多いときはインナーサイドシール不良を疑おう
- ポイント3・ マルチエンジンのセンターシールはダメージを受けると走りにパンチが無くなりアイドリング不調になる
シリンダー内を上下に動くピストンの往復運動によって生じるのが負圧。その負圧発生のタイミングで吸入バルブを開き、効率良く混合気を吸い込み爆発・膨張するのが4ストロークエンジンの特徴だ。そんな吸入や排気タイミングを司るのが、カムシャフトの役割である。一方、2ストロークエンジンは、ピストンが上昇するときに発生する負圧でクランクケース室内に混合気を吸い込み、ピストンが下降するタイミングでクランクケース内に吸い込んだ混合気が一時的に圧縮される。そんなピストンがさらに下降すると、一時的に圧縮された混合気が掃気通路を伝わって、シリンダー内壁側面にある掃気ポートからシリンダー内へ押し出される。次に、ピストンが上昇したときに、シリンダー内に押し出された混合気が圧縮され、爆発→燃焼→膨張し、ピストンが勢い良く下降。そんなメカニズムを連続的に行い、ピストンが上死点へ近づく最善のタイミングで、混合気が毎回「爆発・燃焼・膨張」しているのが、2ストロークエンジンの特徴である。
ちなみに、一次吸入された混合気が、ピストン下降時に吹き返しにくい(逃げにくい)構造としているのが、リードバルブであり、ロータリーディスクバルブでもある。
そんなメカニズムを踏まえると、一時的に混合気を圧縮する「一次圧縮」工程が、如何に重要か、理解することができる。この一次圧縮時に気密が漏れてしまうと、クランクケース室からシリンダー内への掃気工程をスムーズかつ力強く行えなくなってしまう。具体的には、一次圧縮の気密を保つために重要なのが「クランクシャフトシール」だ。ピストンリングが減って張力不足になると、気密が低下するのはご存じの通りだが、オイルシールも気密保持を高める重要な部品なのだ。
2ストロークエンジンのバイクを復活させる時には、様々なメンテナンスや点検があるが、ここでは「クランクシャフトシール」に注目してみよう。仮に、単気筒エンジンなら、クランクシャフトの両サイドに必ずオイルシールが存在する。ひとつは電装系コイルの裏側に取り付けてあり、反対側は、クラッチ&ミッションギヤ室内にある。フライホイールや電装コイルを取り外すことで、片側のオイルシールを目視確認してみよう。シールリップ部分からブチブチッと漏が汚れが発生しているときは、オイルシール交換と考えよう。一方、クラッチ&ミッションギヤ室側のオイルシールは、シールリップが傷むと吸入時の負圧によって、ギヤオイルを吸い込んでしまうことが多い。「排気煙が多かったり、いつもと違ったニオイがする!?」なんて気が付いた時には、オイルシールの交換タイミングだと考えよう。
マルチエンジンの場合は、気筒間の圧縮漏れを防ぐセンターシールも重要なパーツである。簡単に目視確認することはできないが、クランクセンターシールの気密性が低下すると、アイドリングしないとか、加速時のパワー感が著しく低下するため、体感できるようになる。
マルチエンジンで注目したいのが「ラビリンスシール」である。読んで字のごとく、ラビリンス=迷宮と呼ばれるシールは、一般のオイルシールのようにシールリップが接触しているのではなく「非接触のシール構造」を採用している。クランク軸に対して僅かにクリアランスがあり、真円のクランクジャーナル軸に対して、向かい合わせ面が凸凹断面になっているのがラビリンスシールの特徴だ。瞬時に高圧が掛かると、隙間があっても凸凹断面が気体を通過させない特性がある。そんな迷宮のような通路を称して、ラビリンスシールと名付けられている。ヤマハ2ストローク市販車のマルチエンジンは、1964年に発売されたYDS3から、この機構を採用。以来、ヤマハ2ストロークマルチエンジンの代名詞となってきたのが、このラビリンスシールでもあった。
現代では、カワサキトリプル用やホンダNSR250R用として内燃機加工のプロショップ、iB井上ボーリングが、ラビリンスシール化を積極的に導入推進している。一般のオイルシールは、シールリップが接触しているため、摩耗によって一定距離を走行すると部品交換を余儀なくされるが、そもそも回転部分と接触していないラビリンスシールは、半永久的に使い続けることができる。愛車を末永く乗り続け、楽しみたいと考える愛車家から、2ストマルチエンジンのクランクシャフト修理時に、オーダーを受けることが多いのがラビリンスシール化である。
からの記事と詳細 ( 2ストエンジンのアイドリング不調や加速不良に多い「一次圧縮漏れ」 - Webikeニュース )
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