Tuesday, January 5, 2021

クルマ電動化が急加速、素材メーカーに「商機」 - livedoor

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住友化学の韓国のセパレーター製造拠点。EV向けが拡大中だ(写真:住友化学)

菅義偉首相が10月26日に「2050年までに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする」と宣言して以降、国内でも自動車の電動化に向けた流れが加速してきた。

政府は12月25日に公表したカーボンニュートラル実行計画「グリーン成長戦略」の中で、遅くとも2030年台半ばまでに新車販売からガソリン車やディーゼル車をなくし、すべてを電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)にする目標を掲げた。

電動化を機に動く素材メーカー

この政策に大きな影響を与えたのが、先行する欧米や中国の動きだ。アメリカでは2020年9月、先進的な取り組みを続けるカリフォルニア州が2035年までにガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁止する方針を決めた。バイデン次期大統領もEVを重視する姿勢を打ち出している。

中国も同様の方針を2020年10月に発表済みだ。イギリスはさらに5年早い2030年までに新車販売からガソリン車やディーゼル車をなくす方針を2020年11月に発表した。

地球環境のために自動車の電動化が進むこと自体は、何年も前からの既定路線だ。ただ、早期の脱ガソリン車を促す各国の政策には、自動車メーカーの間で困惑が広がっている。新車販売に占めるガソリン車の割合はまだ高く、十数年程度で完全電動化に対応するのが容易ではないためだ。

一方、これまで電動化を商機と見て関連事業の拡大に積極的に動いてきた業界もある。化学大手や合繊大手といった素材メーカーなどがそうだ。

例えば、リチウムイオン2次電池(LIB)の主力材料の1つで、電気ショートを防ぐセパレーター(絶縁材)は、素材メーカーが成長事業として強化に努めてきた領域だ。

セパレーターのシェアが世界トップクラスの旭化成は、現在11億平方メートルあるLIB向けの年間生産能力を、2021年度中に同15.5億平方メートルに引き上げる計画だ。2025年ごろには同30億平方メートルまで増強する予定という。

軽量化素材の開発に注力

EV用途のLIB向けセパレーターに限ればシェア世界上位の住友化学は、2017年度の年産が1.8億平方メートルだったが、段階的な増強により2021年度には4億平方メートルまで拡大させる。正極材を含む電池材料事業全体は、2019年度の売上高(推定500億円)を2024年度には倍増させる方針だ。

また、電動車の大きな課題は電池燃料の航続距離だが、これを伸ばすには電池の高容量化に加えて、車体を軽くする必要もある。そこで化学や合繊各社は、自動車を軽量化させる素材の開発や生産力の強化に注力してきた。

代表的な素材の一つが、プラスチック素材のポリプロピレン(PP)樹脂に合成ゴムやガラス繊維、無機フィラーなどを混ぜて強度を補強した「PPコンパウンド」だ。金属と比べると重量は半分程度で、自動車のバンパーや内装材への採用が増えている。また、繊維状のガラスにPP樹脂を混ぜて製造するガラス繊維強化PPも、軽くて丈夫な素材として後部ドアなどへの採用が進んでいる。

航空機にも使われる強度と軽さを持つ炭素繊維強化樹脂も、自動車向けの大幅な需要増が期待されている。重量は鉄のおよそ4分の1の軽さながら、強度は鉄の10倍になる。ただ、コストが高く、製造までの時間もかかることからまだ一部の高級車への採用に限られる。だが、その課題さえクリアすれば、車の電動化の波に乗って大きく成長するかもしれない。

炭素繊維事業では世界1、2位のシェアを誇る東レと帝人にとってはチャンスだ。両社とも主力とする航空機向けは、新型コロナウイルス影響で需要が大きく落ち込んでおり、低迷の長期化も予想される。航空機向けの出荷量がコロナ以前の想定より少なくなる分、自動車向けの出荷量を伸ばす重要性は増している。

素材メーカー各社にとって電動化の加速は、こうした関連部材の需要の早期拡大につながる可能性がある。

そのため、「アメリカ大統領選の結果や、ガソリン車やディーゼル車の新規販売を禁止するという世界的な流れは、環境対応車市場の拡大を更に後押しするとみている」(旭化成広報)、「基本的にプラスだと受け止めている」(住友化学広報)といった声が上がる。

高額な電動車の販売価格

他方で、懸念点がまったくないわけではない。

素材メーカーでは、電動車に限らずガソリン車にも使われる部材を多く生産している。例えば、タイヤ向けの合成ゴムやシート向けの合成皮革、内装やシート向けの合成樹脂、エアバッグ向けの基布などだ。

これらの出荷量は世界の自動車の生産台数に大きく左右される。今後「脱ガソリン車」が進む中で、電動車の普及が十分に進んで、ある程度の生産台数が維持されれば問題はない。だが、実際はそう簡単ではない。

大きなネックは、電動車の販売価格が高いことだ。EVやHVに搭載するリチウムイオン電池は高価で、それが価格に跳ね返っている。安さで人気の軽自動車は現在、大半がガソリン車だ。だが、今後HVシステムを搭載せざるをえなくなれば値段が上がり、売れ行きが鈍るかもしれない。

イギリスやカリフォルニア州は2035年までにHVの新車販売までも禁止し、EVなどガソリンを使わない車しか認めない。一般的にEVの販売価格はHVよりもさらに高額で、補助金を除くと1台当たり300万円程度が標準だ。

このほかにも、EVはガソリン車よりも航続距離が短く、充電スタンドの数が不十分という大きな問題も抱えている。

電動化は素材業界に追い風なのか

経産省の調査では、2019年の国内の新車販売430万台のうち、ガソリン車とディーゼル車60.8%で、電動車は35.1%にとどまる。このうちHVの割合は34.2%で、より環境負荷の低いEVの割合は1%に満たない。

みずほ証券シニアアナリスト(化学担当)の山田幹也氏は、「電動化に伴う価格上昇や利便性低下が新車販売台数の減少につながるおそれがある。素材業界にとって、必ずしもポジティブとは言えない」と指摘する。

日本政府は冒頭のカーボンニュートラル実行計画の中で利用者への購入補助や、電池部材を手がける事業者などへの支援方針も盛り込んだ。電動車の販売価格や維持にかかる費用をガソリン車並みに引き下げたい考えだが、ハードルは高い。

今後、どれだけ効果のある電動車の普及策が打ち出されるのかが、素材メーカーの自動車向け事業に大きな影響を与えることになる。

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