2つのハイブリッドパワートレーンを持つ新型クラウン
トヨタ自動車が一気に4つのバリエーションを発表した新型「クラウン」は、最初にクロスオーバーから発売が始まる。以後、セダン、スポーツ、エステートと1年半かけて順次発売となっていく。
そのため詳しい仕様が発表されているのがクロスオーバーのみとなっており、そのクラウン クロスオーバーにはトヨタのフラグシップと位置づけるクルマだけに、現在のトヨタの持てる技術がふんだんに注ぎ込まれている。
とくにハイブリッドなどパワートレーンについては、第5世代となった2.5リッター THS(TOYOTA HYBRID SYSTEM)IIに加え、エンジン直結型の2.4リッターターボ デュアルブーストハイブリッドシステム(DUAL BOOST HYBRID SYSTEM)を用意。これに方式は異なるものの、リアのモーター駆動を加えた電気式4輪駆動方式となっている。
世界初の量産ハイブリッド車のシステムとして設計されたTHSは、駆動・回生用のモーターと、発電用のモーター、それにエンジンからの駆動力を遊星歯車(プラネタリギヤ)でコントロールするシステムで、プラネタリギヤ特有のスムーズな駆動力切り替えで、最初にして現在まで通用する最先端のハイブリッドシステムとなっている。ハイブリッドの形式としては、2モーターを使ったシリーズパラレルハイブリッドとなり、世代を重ねるごとにコンパクトで高効率なシステムとなっている。
ちなみに、シリーズハイブリッドはエンジンで発電してモーターで走る方式、パラレルハイブリッドはエンジンの力とモーターで走る方式、シリーズパラレルハイブリッドはその両方のモードを適宜切り替えて走る方式になる。技術的にはシリーズパラレルハイブリッドが、エンジンで走るガソリン車の技術、モーターで走る電動車の技術をいずれも必要とするため非常に高度とされており、トヨタは最初から優れたTHSという方式を開発し成功していた。このトヨタの方式を超えるのは非常に難しく、世界的にハイブリッド車が増えにくい遠因ともなっていた。そのためかトヨタは2019年4月にハイブリッド車関連の特許実施権を無償提供(2030年まで)。電動車の製品化に向けた技術サポートも実施することで、多くのメーカーが電動車やハイブリッド車の開発を行ないやすい環境作りをしている。
第5世代となったTHSは、新型「ノア」「ヴォクシー」から投入され、THSの名称も新世代シリーズパラレルハイブリッドと表記されていたが、新型クラウンではTOYOTA HYBRID SYSTEM IIの表記が復活。トヨタファンにとっても、これまでのハイブリッドシステムを理解してきた人にとってもうれしいものとなっている。シリーズパラレルハイブリッドと名称を変更したのはなぜかなと思っていたのだが、その背景として、この新型クラウンから搭載されるトヨタのもう一つのハイブリッド「デュアルブーストハイブリッドステム」のデビューを控えていたこともあるのかもしれない。
エンジンからのダイレクト感を重視した「デュアルブーストハイブリッドステム」
デュアルブーストハイブリッドステム(DBHS)は、エンジンからの出力をダイレクトにモーターに導き、モーターとエンジンの力で前輪を駆動する新開発の1モーターパラレルハイブリッドシステムと、後輪を駆動するインバータ一体形のeAxle(イーアクセル)を組み合わせたハイブリッドシステムになる。
その特徴は、「パワフルかつリニアな加速フィーリング」とうたわれているように最高出力200kW(272PS)/6000rpm、最大トルク460Nm(46.9kgf・m)/2000rpmを発生する2.4リッター直噴ツインスクロールターボ「T24A-FTS型」エンジンと、駆動・回生用の1モーターを内蔵するDirect Shift-6ATを組み合わせてハイブリッドシステムを構築していること。
トランスミッション側から見れば、6速のステップATのトルクコンバーター部がモーターになり、そのモーターに多板クラッチでパワフルな2.4リッター直噴ターボエンジンが接続されていることになる。
一方エンジン側から見れば、多板クラッチで接続されたモーターがエンジンの出力をサポートしてくれ、ダイレクトにステップATへと接続。さらにリアもモーターで駆動するので、さらにパワフルに走れる方式となっている。
ターボエンジンをフロントモーターがサポートしてくれる方式のため、フロントモーターにより発進時のアシストやターボラグの隠蔽などが行なわれている。エンジンは多板クラッチで切り離せるため、モーターのみの走行も可能だ。そこにリアのモーター駆動も加えられるという複雑な電動4WDシステムとなっている。
ただDBHSの目的は高効率に走るだけでなく、エンジンを主体としたハイブリッドシステムを作り上げることでダイレクトな走りの味を追求していることにあるという。高効率だけなら、すでに世界トップレベルの第5世代THSがあり、DBHSはそれとは異なったハイブリッドの世界観を提示しようとしている。
もちろん、ここに大きなバッテリと給電ポートを搭載すればPHEVになるし、エンジンを外して大きめのモーターを搭載すればツインモーターのバッテリEV(bz4Xですね)になる。セダン、スポーツ、エステートのパワートレーンは発表されていないが、新型クラウンは、最も複雑なハイブリッドシステムからデビューすることで、そのような柔軟なパワートレーンを構成するポテンシャルを持っていることになる。
DBHSは技術概要が秋に発売を予定しているレクサスの新型「RX」用の新開発ハイブリットシステム「2.4L-T HEV」+四輪駆動力システム「DIRECT4」として発表されていたが、後から発表された新型クラウンのほうが先に発売されることになった。担当者によると「新型クラウンはクラウンらしい味付けのシステムに仕上がっている」とのことだ。
このDBHSのシステム出力は、リアのイーアクスルによるモーター駆動も加えて、350PS、550Nmと強大なものになる。唯一の心配は、フロントエンジン、フロントモーター、6速ステップAT、リアモーターの協調制御がスムーズにできているのだろうか?ということだが、実はよく似たクルマをトヨタはすでに作り続け、戦いの場で世界一に輝いている。
それは、ル・マン24時間レースを5連覇した「TS050 HYBRID」「GR010 HYBRID」になる。これらのWEC(世界耐久選手権)マシンでは、フロントにモーター、リアにエンジン+モーターというハイブリッドシステムを搭載。THSのレーシングバージョンということで「THS-R」と名付けられており、リアのエンジン+モーターの構造は不明なもののエンジンからの出力はトランスミッションと直結されているような図が公開されている。新型クラウンとは前後のシステムが逆になるが、4輪をエンジン+モーターとモーターで駆動制御するという意味では同じものがある。このあたりのノウハウがどれだけ注ぎ込まれているのかも新型クラウンの注目ポイントになる。
新型クラウンは「クラウン」という名前で世界で販売されていくが、すでにトヨタはル・マン24時間レースを5連覇し、世界ラリー選手権を制覇&活躍中というプレミアムブランドになっている。来年のル・マン24時間も勝てば6連覇となり、フェラーリの連勝記録に並ぶことになる。そのためかどうか分からないが来年フェラーリが100周年となるル・マンに参戦することは発表されており、フェラーリが戦いを挑むほどプレミアムブランドの世界で気になる存在に成長した。2つのハイブリッドパワートレーンを持つ新型クラウンが、世界にどのように受け入れられていくのかは楽しみなところだ。
からの記事と詳細 ( 新型クラウンに新搭載の「デュアルブーストハイブリッドシステム」 エンジン直結でアクセルダイレクトな加速を実現 - Car Watch )
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