米オープンAIの対話型人工知能(AI)「チャットGPT」が昨年11月に公開されて以降、業務で活用しやすくする技術「プロンプトエンジニアリング」に注目が集まっている。文章や画像を自動で作り出す生成AIに的確に指示(プロンプト)を出して質の高い回答を引き出す技術で、6月からこの講座を開講した東京都内の企業には他のIT講座の数十倍の受講者が集まったという。生成AI黎明(れいめい)期に出てきた新技術の現在と将来を探った。
チャットGPTの特徴として最初に注目が集まったのは、質問に対して人と会話しているような文章で回答が返ってくるという点だった。ただ、チャットGPTの機能をフル活用するためには漠然と質問するだけでは不十分だ。例えば、「あなたは新聞記者です」と具体的な役割を与えることや回答形式、手本を例示することなど、さまざまな作法が必要となる。こうした作法を考え出す技術がプロンプトエンジニアリングだ。
海外では、米国のAIスタートアップ(新興企業)のアンスロピックがこの技術を習得したプロンプトエンジニア兼司書の求人広告に、年間報酬最大37万5000ドル(約5500万円)と掲示し、話題を集めた。それほど、生成AIを業務で最大限生かすのは難しいともいえるだろう。
日本でも既にプロンプトエンジニアリングを教えるオンライン講座は人気を博している。プログラミング講座などを開講してきたキラメックス(東京都渋谷区)が、4月に「はじめてのプロンプト・エンジニアリングコース」の6月開講を発表したところ、2カ月で1000人の受講者が集まった。
この講座では、まず生成AIの基盤となる「大規模言語モデル」の原理を伝える。大規模言語モデルは、膨大な文字データを学習して次に来る単語の確率を予測し、文章の作成や質問への回答といった処理をするAIだ。それを理解した上で、生成AIを効果的に利用するためのプロンプトの基礎から、受講者それぞれの業務に活用できるよう応用までを教える。
受講者層は営業やマーケティングの担当者から経営者まで幅広い。講師を務める太田和樹氏によれば、新聞記事をチャットGPTに書いてもらうために「〇〇のテーマについて書いて」というよりも「〇〇のテーマの記事を書く上でのポイントを10個挙げて」というように、指示を細かくすることなどをアドバイスしているという。
このほか、プロンプトエンジニアリングのレベルには達しないが、業務で使えるプロンプトのテンプレート(ひな型)もインターネット上で公開されている。中でも、ウェブデザイン企業「THE GUILD(ザ・ギルド)」(同渋谷区)の深津貴之代表が考案した「深津式」と呼ばれるテンプレートはその代表例だ。深津氏は、チャットGPTが公開される前の昨年夏ごろから生成AIに注目しており、生成AIの有識者として岸田文雄首相の車座対話に出席したり、自民党の部会で自治体業務への生成AI活用法などを説明したりしている。深津氏が編み出したテンプレートは生成AIの使い方の「超入門編」という位置付けで利用できそうだ。
脚光を浴びるプロンプトエンジニアリングだが、生成AIの普及初期の技術にすぎないとの見方もある。深津氏は「僕がプロンプトのノウハウをばらまいているのは賞味期限が長くないと思っているからだ」と語る。生成AIを繰り返し利用していくうちにユーザーは使い慣れて、プロンプトを意識することがなくなるのではないかという見解だ。
しかも、普段使いのソフトにも生成AIは導入されつつある。オープンAIと資本業務提携したマイクロソフトは、ワードやエクセルなどの業務用ソフトにチャットGPTの機能を加えることを表明した。業務用ソフトだけでなく、深津氏はブラウザー(ウェブサイト閲覧ソフト)にもその機能が搭載されると指摘する。「『電子商取引(EC)サイトで検索して一番安いトイレットペーパーを買ってください』といった指示を出せるようになる」と話す。
さらには利用者のブラウザーの利用履歴を基に好みに合ったリンクを自動的に送ってくることなども可能になるという。何も指示しないですむようになるため、「生成AIにプロンプトを入力して命令するという概念すら吹っ飛ぶことになるだろう」と予想する。
チャットGPTのような生成AIが一つの機能として組み込まれて広がることで、利用者は自然とプロンプトが身につき、深津氏の予想よりも早くプロンプトが不要になる可能性さえもある。検索エンジンの黎明期には検索技術を身につけることが求められた。現在でも専門家レベルでは一定の技術が必要とされ検定もあるが、あらゆるサイトに簡単な検索機能はついており、一般の利用者は技術を意識することなく検索を使っている。
一方で、プロンプトエンジニアリングは今後も必要とされるという見方も少なくない。太田氏は「生成AIの基盤となる大規模言語モデルの仕組みを理解してプロンプトを作成する技術は、人間の言葉でAIにプログラミングさせる技術といえる」と指摘する。そのため、生成AIが進化してそれへの対応が必要となっても、大規模言語モデルを基盤としている限りは、プロンプトエンジニアリングは無駄にはならない。習熟すればビジネスに活用できるプログラミング技術のようなもので「必要とされ続ける技術だろう」と予測する。(大坪玲央)
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ニッポン放送とコラボ
ニッポン放送と連携し、ITネット業界で話題のテーマを毎月紹介します。ニッポン放送は「産経ニュース」配信後にポッドキャストで同様のテーマを取り上げます。生成AIで注目を集めるプロンプトエンジニアリングについては、記事中で触れたザ・ギルドの代表インタビューを7月20日に配信する予定です。
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