Thursday, July 13, 2023

エンジン音が“当たり前”から“価値”へ、EVの普及で変化 - ITpro

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 エンジン音や排気音のようなエンジン車特有の“音”が、クルマの価値の1つとして再注目されている。エンジンを搭載しない電気自動車(EV)の普及が進み、今まで当たり前にクルマから聞こえてきたこれらの音に視線が向けられている。

エンジン車の排気口

エンジン車の排気口

EVの普及で、排気音がクルマの価値として再注目されている。(写真:日経Automotive)

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 近年、エンジン車への風当たりが強くなっている。各国で燃費規制が厳しくなり、自動車メーカーは、純ガソリンエンジンからEVやハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)のような電動車へと開発をシフトしている。エンジン自体も、燃費性能の向上が求められており、高効率化が開発の焦点だ。

 一方で、エンジン車は完全に消滅するわけではない。欧州連合(EU)は2023年3月末、2035年以降も条件付きでエンジン車の販売を認めることで合意した。合成燃料(e-fuel)のみを使う場合に限定してエンジン車の販売を容認する。日本を含む東アジアや東南アジア諸国連合(ASEAN)地域でも、エンジン車の販売台数は一定数残るとみられる。

 ただ、世界全体では2030年前後に、EVがエンジン車の販売台数を上回ると各調査会社は予想する。新車販売の多くをEVが占めることになる将来、多くのクルマから“音”が消えることになる。

 静かなクルマを好むユーザーには問題ないが、音に物足りなさを感じるスポーツ車の愛好家も少なくないだろう。例えば、ドイツPorsche(ポルシェ)車の愛好家が、同社のEV「タイカン」を購入したものの、エンジン音が聞こえない違和感から乗り換えたという話を聞く。EV全盛の時代にエンジン車を選ぶ価値の1つとして、“音”に注目が集まっているのだ。

 一方で、“音”の価値についてはEVでも関心が集まっている。エンジン音の代わりに疑似音を出すことで、運転の楽しさを感じる人もいるだろう。「数年前までは“無音”がEVの価値だといわれていた。しかしEVの数が増えると無音では車種ごとの違いを出しにくい。最近はEVでも“音”を強調する流れになってきた」とヤマハ発動機の開発者は話す。以下で説明する技術をEVに適用すれば、EVの音の物足りなさを補い、新たな付加価値につながりそうだ。

音作りの方向性

 音作りの方向性は大きく2つある。

 1つ目は、車内のスピーカーからエンジンの疑似音を出す技術だ。エンジン回転数やアクセル開度と同期した疑似音を車内のスピーカーから出力することで、加速時の音を盛り上げる。車外騒音規制に対応するため排気音の絶対的な音圧レベルは下げつつも、車内にいる乗員の高揚感を高める狙いがある。各社でこうした技術の開発が進んでいる。

 日産自動車の「GT-R」は、米BOSE(ボーズ)と開発した「アクティブ・サウンド・コントロール(ASC)」を採用する。エンジン音を加味するだけでなく、乗員の音に対する違和感も低減する。走行中は、エンジン音や排気音だけでなく、吸気音などが複雑に絡むことでエンジン回転数が上昇中でも部分的に周波数や音圧レベルが落ち込む場合がある。

GT-Rの2024年モデル

GT-Rの2024年モデル

車外騒音規制が厳しくなった日本仕様にのみ新マフラーを搭載した。(写真:日経Automotive)

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 このときに起こる回転数と音のずれが乗員の違和感につながる。ASCは疑似音を加味することで、周波数や音圧レベルの落ち込みを低減する。疑似音の出力の仕方には、エンジンの特定音域を増幅するアルゴリズムを採用した。

 同様の技術は、ヤマハ発動機も開発している。同社が発表したサウンドデバイス「alive AD」では、音響ICを内蔵したコントロールユニットと専用スピーカーを使用する。パワートレーンが発する原音と同社が開発した音源を調整して、乗員に心地良い音を提供するという。

 「エンジン回転の伸びや広がりを強調するため、高周波域の音を重視した」とヤマハ発動機の開発者は語る。吸・排気干渉などが要因で発生する、エンジン車特有の雑音「ランブル音」をあえて表現することも可能だ。あくまでエンジン音の自然な躍動感を目指す。

 「車外騒音規制が厳しくなり車内から聞こえる音も小さくなった。こうしたシステムを搭載するスポーツ車が増えている」とヤマハ発動機の開発者は語る。

 これらの疑似音を使うと、かつてのエンジンを再現することもできる。ホンダ「シビックタイプR」の新型は、ターボエンジンを採用するが、車内から流す疑似音によって、「昔の自然吸気(NA)エンジンのような伸びやかな音を表現した」(シビックタイプRの開発者)。これらの技術を使えば、場合によっては、「4気筒エンジンを搭載しながらV型10気筒エンジンの音を再現することもできる」(ヤマハ発動機の開発者)と言う。

シビックタイプR

シビックタイプR

新型はターボエンジンを搭載するが、かつて採用していたNAエンジンを好む愛好家も少なくない。(写真:日経Automotive)

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EVの“良い音”を各社が模索

 表現に自由度のある疑似音の技術は、EVにも適用可能だ。「EVの音を表現する技術の開発が各社で進んでいる」(海外自動車メーカーの広報担当者)と言う。その理由についてヤマハの開発者は「EVでは何が良い音なのか、現在定まっていないためだ」と話す。エンジン車では高回転域の伸びのある音や、低音域の重厚感のある音など、良い音の定義がある程度決まっていた。

 一方で、EVはエンジン車と比べ歴史が浅く、良い音の方向性をEVメーカーは模索している段階だ。エンジン車と比べメーカーごとの音の差別化も難しい。そのため、現在各EVメーカーは、独自の音を他メーカーに先行して確立するため、しのぎを削って開発を進めているという。

 例えばalive ADは「EV特有の高周波領域の音も表現できる」(ヤマハの開発者)と話す。モーターやインバーターなどの独特な高音を追加しつつ、高揚感のある音を表現できるとした。EV時代の新しい“音”として走りを訴求する車種への搭載を目指す。

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