コロナウイルス危機で先が見えない霧の中にいる今、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。 ■COVID-19が示した脆弱性 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、多くの人にサプライチェーンの脆弱性を意識させた。中国・武漢発で広がった感染は、中国から部品を輸入する日本の自動車生産にも影響を与え、中国からの輸入に頼るマスク不足も深刻となった。アメリカでも、感染が広がり、マスクや医療用の手袋、ガウンなどが不足。医薬品を含め、海外生産に頼らずに国内生産を増やすべきとの声が高まった。
また、COVID-19の発生源に関して独立調査を主張したオーストラリアに対して、中国は牛肉の輸入を停止、大麦の輸入に80.5%の関税を課し、ワイン、石炭等の輸入も制限してオーストラリアを苦しめた。 ジャストインタイムのリーンな生産方式は高い効率性を実現するが、それは同時に脆弱性も内包する。2011年に起きた東日本大震災とタイの大洪水は、効率的な生産体制が持つ脆弱性を明らかにした。企業もこれを認識、2016年の国際協力銀行の調査では、57.7%の日本企業がサプライチェーンリスクを認識し、調達先の分散を図っていると回答した。また、同調査のヒアリングではリスク削減のために部品の適正在庫に努めているとの回答もあった。
こうした調達の分散や在庫積み増しは、脆弱性の克服に有効だが、結果として効率性を大きく損なえば、市場競争の中で競合他社に負けてしまう。部品の共通化や、デジタル技術を活用したサプライチェーン管理などさまざまな工夫も行いつつ、最終的には企業として「効率性」と「強靭性」の最適なバランスを見いだす必要がある。 サプライチェーンに関しては、企業レベルにとどまらず国レベルでもその脆弱性を考える必要がある。マスクや医療用ガウンなど個人防護具(Personal Protective Equipment)の不足は、感染拡大で通常時の50倍の需要が発生したことが主な要因だが、多くの輸出制限措置も取られた。また、中国のオーストラリアへの措置のように、国家として政治的目的で「経済的恫喝」(economic coercion)を使うケースもある。
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